第七百六十六話 とある東京都千代田1-1にて
「済まん、今日の予定は全てをキャンセルするか誰かに振り替えてくれ」
「ちょっ、中佐、サボるのはダメですよ!」
コートを羽織りながら部長室から出てきた関中佐は部下に対して仕事放棄を宣言した。しかし、上司の命令だからと仕事放棄を容認する程部下達は甘くない。
「緊急の事案で宮内省に行く。侍従長殿と陛下に急ぎ報告しなければならない」
「陛下に・・・中佐、まさか玉藻様に何かあったのですか!」
中佐の発言からダンジョンに行った玉藻に何かあったのではと推測する情報部員。しかし中佐はそれに対して明確な答えを返さなかった。
「情報は戻ってから伝える。諸君らは通常業務を熟してくれたまえ」
それだけ言うと中佐は情報部の部室から足早に去って行った。残された部下達は不安を抱えながらも淡々と仕事を進めるのであった。
「関中佐、至急陛下にお目通りしたいとは何事かね?陛下がどれだけ多忙なのか、貴君が知らぬ訳はあるまい?」
「ええ、勿論ですよ。しかし、無理を通してでも陛下のお耳に入れなければならない情報が玉藻様より齎されましてね」
「玉藻様から?陛下にお伺いを立てる故、暫し待たれよ」
侍従長と面会した関中佐は、すぐに陛下への謁見を希望した。しかし「会わせて!」「よっしゃ!」と気軽にお会い出来るお方ではない。当然ながら侍従長は反対した。
「中佐、陛下がお会いになるそうだ。いいか、手短にな。ニコライ陛下を羨む陛下を漸く宥めすかして執務に集中していただいた所だったのだからな!」
「・・・侍従長殿の御意向には応えられんと思うが、これも必要なのだ」
そのニコライ陛下が神々にお会いした事も報告しなければならない。その後の侍従長の苦労を思いながらも、報告しない訳にはいかない中佐は侍従長に同情する事しか出来なかった。
「関中佐、玉藻殿の事で報告があるとか?よもや玉藻殿の身に何かあったのではなかろうな!」
「ご安心下さい陛下、玉藻様はご無事に御座います。玉藻様は本日ダンジョンの最下層に到達されました」
ダンジョンの最奥に到達。前人未到の大偉業の報告を聞いた陛下と侍従長は、一瞬わが耳を疑った。
「中佐、今、玉藻殿がダンジョンを制覇したと聞いたように思えるが?」
「はい、その通りに御座います。玉藻様はダンジョンの最下層に到達し、ダンジョンの設定を変える事に成功されました。皇居ダンジョンは潜る階層を指定でき、階層間の渦から直接地上に戻る事も可能となったとの報告を受けました」
更に予想外の報告を受けて絶句する陛下と侍従長。変更された内容がどんな影響を齎すのか。聡明な二人にはそれが瞬時に理解出来たのだった。
「中佐、それはダンジョン探索の難易度が劇的に下がるのではないのか?」
「はっ、陛下のお言葉の通りに御座います。故に世間に与える衝撃が大き過ぎ、そのまま公表しては各方面への影響が大き過ぎます」
「それを陸軍の独断ではなく我らと協議の上で決めようと。それは理解できるが、陛下に至急お目通りしなければならない程かね?」
この時侍従長はまだ知らなかったのだ。この驚天動地の報告すら前座であり、更に驚くべき内容を聞かされる運命にある事を。




