第七百五十四話
「曲がったらすぐに糸が来ます!」
「任せて、舞が落としてしまうから!」
アーシャが警告した通り、右に曲がる通路を曲がった瞬間に糸が飛んできた。しかし舞の慣性制御により勢いを殺されて地面に落ちてしまう。
後は魔石に変わるまで神炎を撃ち込み、舞がキューブの水で放たれて落ちた糸や残された巣を溶かして進む。
手間と時間がかかる作業たが、逆に言うと手間と時間さえかければ安全に抜けられるという事でもある。本来ならば命懸け・・・いや、命を懸けても辿り着けない階層な筈なのたが。
「あっ、レアドロップみたいだよ」
「蜘蛛だけに糸みたいですね」
軽くつついて粘着しない事を確認した舞が糸の束を拾う。戻ってきた舞に手渡されたが、量の割に軽く感じた。この深さの階層で出るレアドロップならば頑丈だろうし、これで服を作ったら防御力が高い物が出来そうだ。
「玉藻お姉ちゃん、水に溶ける糸で服を作ってナニをするのかな?」
「それを忘れておったわ。使い道は無さそうじゃな」
思いが口に出ていたようで、舞から容赦のないツッコミが炸裂した。その特性を忘れていただけで、水に溶ける服を女性に着せてR-18なイタズラをしようなんて思っていなかったからね!
「そろそろ昼じゃし、一度迷い家に戻るとするかの」
糸を持ったままで進んで溶かしてしまったら勿体ないしね。使う当てがある訳ではなくて、研究に回す為に持ち帰る事を明言しておく。
「お昼に鰻重とは、ちと豪勢じゃのぅ」
「お父さんとニックが獲ってきた鰻が見事で食べたくなったのよ」
美味しいから反対しないけどね。母さん達が一緒に来ると食事が毎回美味しいから助かる。ダンジョンから戻って自炊しなくて済むし、レーションよりちゃんとした食事の方が良いに決まっている。
「お父様、気をつけて下さい」
「ああ、ありがとうアーシャ」
いきなり立ち上がったアーシャは鰻重を運んできたニックが転びそうになった瞬間に支えて転倒を阻止した。危なく二人分の鰻重がダメになる所だった。
「大きい蜘蛛か。動かない相手なら父さんでも倒せるかな?」
「キューブを使えば倒せると思うけど、お父さんだと時間かかりそう」
「まだ先は長い故、あまり時間をかけとうないのぅ」
ダンジョン探索出来るかと期待した父さんは、舞と俺にダメ出しされて撃沈した。ついでにニックも便乗しようとしていたようで落胆している。
「この無念は海にぶつけるしかないな」
「そうだな、絶対に大物を釣り上げる!」
父さんとニックはダンジョン探索に参加出来ない八つ当たりを海にぶつける気のようだ。どうやら夜ご飯は海鮮になりそうだ。
午後も午前と同様三人で進んでいく。作業と化した蜘蛛との戦いは特に問題もなく、夕方に三十九階層に降りる渦へと到着した。
「三十九階層の探索は明日じゃな」
「玉藻お姉ちゃん、ちょっとだけ覗いてみない?」
舞が期待を込めた目で俺を見る。しかし、どんなモンスターが出てくるか分からないのにアーシャを連れて新たな階層に踏み込むのは躊躇われる。
「玉藻お姉さん、降りてもモンスターに遭遇しないと思いますよ?」
アーシャが舞の希望を後押しする発言をした。それを聞いた俺は違和感を感じて考え込むのであった。




