第七百四十八話
さて、少々寄り道してしまったが気を取り直して先に進む。十九階層でも少し時間がかかってしまったが、それは些細な問題という事で。
尚、十九階層で手間取った事と夕食で出た鶏肉の照り焼きには何の因果関係も無い。無いと言ったら無いのだ。
そして到着した三十六階層。舞に防御を担当してもらう。強敵相手の戦闘に気後れするかと思いきや、舞の戦意はかなり高かった。
「ふふふっ、玉藻お姉ちゃんの玉の肌に傷をつけたなんて許せない。舞がコテンパンにしてあげる!」
「戦意が旺盛なのは良い事じゃが慎重にのぅ。奴の速さはかなりのもの故、タイミングが難しいと思うのじゃ」
舞の戦法は慣性を無くすか逆向きに向けるエリアを作り出す事でそこに侵入した対象の動きを阻害する。なので敵の動きが速くエリアを作る前に想定したエリアを突破されてしまう可能性もあるのだ。
「玉藻お姉ちゃん、それは流石にないわ。速いと聞いていたから、既にスキルは発動済みよ」
どうやらもう鷹を止める準備は済んでいたようだ。舞に謝ろうとした時、上空に黒い点が現れた。どうやらお出ましのようだ。
「舞、来たのじゃ。奴の風魔法に慣性制御が効くかは分からぬ。避ける準備をしておくのじゃ」
舞は鷹に注目しつつも小さく頷いた。俺達の上空で円運動をしていた影がその動きを止めた。同じ位置に留まり少しづつ大きくなっている。
「魔力が高まっておる、来るのじゃ!」
翼を畳み降下してくる鷹の魔力が大きくなり、それが放たれた。打ち出された不可視の魔法は急降下により生じた速度が乗ってかなりのスピードであったが、とある地点でその速度が大幅に遅くなった。
「舞の慣性制御はモンスターの魔法にも有効じゃな。これはチート過ぎるじゃろう」
「玉藻お姉ちゃんの迷い家には負けると思うの」
鷹が放った風魔法は慣性制御によるフィールドに当たりその勢いを完全に殺された。そうなると実体の無い風魔法は推進力を喪失しその場に留まる事になる。そして込められた魔力が無くなり霧散してしまった。
これが土魔法や水魔法ならば生み出された岩や水の重みで落下してきたのだろうけど、風に重さは無いも同然なので慣性が喪われると動かなくなってしまうのだろう。
「お姉ちゃん、あれ貰って良い?」
「うむ。あの状態で晒し者も可哀想じゃ。トドメを刺してやるが良い」
風魔法を放ってきた鷹はと言うと、これまた慣性制御フィールドで停止させられ何とか抜け出そうともがいている。
舞は自重により落下した鷹を落下により生じた慣性を増幅し、逆向きに作用させ落下した分戻すという作業で固定している。それを雑談しながら熟しているのだから恐れ入る。
「火魔法で焼いたら焼き鳥に・・・ならないわね」
「残念ながら魔石じゃな」
キューブの火魔法で鷹を仕留めた舞は軽口を叩く程の余裕を見せる。ここ、まだ俺達以外は世界で誰も到達していない深さの階層なんですけどね。
これならばアーシャに次の階層への渦を探してもらっている間も安全だろう。今日中に次の階層に進む事が出来そうだな。




