第七百四十五話
「舞、冬休みは何か予定入ってるのか?」
「予定?何もないわよ。出かけるのも大変だし、玉藻お姉ちゃんの迷い家で遊ぶつもり」
迷い家の中は年中海水浴が出来る位の気温に保たれている。山の一部は冬で雪が積もっていたり、海で冬の魚が釣れたりするが、そこを気にしてはいけない。
大体、果樹園で桃や無花果や栗が同時に収穫出来るのだ。季節がどうなってるかなんて考えるだけ無駄である。
「それじゃあダンジョン攻略に付き合ってくれるか?舞の手を借りたい階層があってな」
「お兄ちゃんが負傷した所ね。舞がお兄ちゃんの敵を討つから安心して!」
舞よ、お兄ちゃん健在でここに居るからな。お兄ちゃんを勝手に鬼籍に入れないでくれよ。そして右腕に抱きついてるアーシャさん。抱きつく腕の力を加減して下さい。柔らかい物が自己主張を強めて困ります。
「優お兄ちゃん、私は?」
「アーシャも助力してくれると助かるけど、一応宮内省の許可を取っておかないとな」
アーシャの護衛になっている舞に予定がない時点でアーシャにも予定が無い事はほぼ確定している。なのでアーシャが何をしていても自由なのだが、長時間戻れなくなるダンジョンに同行させるとなると話は別だ。
すぐに地上に戻れない深度まで潜る為、アーシャがロシア帝国皇女殿下として対応しなければならない事態が発生した時にすぐ対応出来なくなる。
とはいえ、実際にそんな事態が起こるとは考えにくい。今のロシア皇帝家には帝国に対する政治的影響力を持たないからだ。
「なに、年末年始に我らが出なくてはならない式典は無いと聞いている。一応連絡は取れるのだし、余とアーシャが迷い家に居ても支障無かろう」
「まあ、地上に残るよりも迷い家に居る方が安全ですからね」
アーシャだけでなくニックも来る事は既定路線となっているようだ。ロシアから誘拐や暗殺を目的とした刺客が来る可能性もあるし、その方が安心出来る。
「それならお母さんとお父さんも一緒に行くわ。お節の材料を買って持ち込んでおかないとね」
「こういう時、大病院に勤務しなくて良かったとつくづく思うな」
ニックに続いて両親も同行する事が確定した。まあいつもの通りだし、拒む理由もない。今年の年越しはダンジョン内で過ごす事になりそうだ。
後日関中佐を通して宮内省にお伺いを立てたが、あっさりと許可は降りた。宮内省としてもニックとアーシャに護衛をつける必要が無いのは助かるのだ。
護衛を行う人材も無限に湧き出る訳では無い。皇室の護衛を任せられる人材となれば、その人数はどうしても限られてしまう。
そして年始は皇室の方々が出席なさる行事も多い。そこに使う護衛は多ければ多い程良いのだ。ロシア皇帝家に割く護衛が必要無いというのは、宮内省にとっても有難い筈だ。
ただ、年末年始に迷い家に入れなくなると知った今上陛下がショックでいじけてしまった事だけが問題か。迷い家が便利なのは否定しないけど、そこまで依存されるのもなぁ・・・




