第七百四十話
「鈴代、元気そうで何より!」
「滝本、あの時は世話になった」
あれから数日後、俺は任務で陸軍大宮基地を訪れている。この基地預かりとなった鈴代と再会した訳だが、元気な姿を見て安心した。
「こらぁ、鈴代一等兵!上官に対して何て言葉遣いをしている!滝本中尉殿、もしくは神使様と呼ばんかぁ!」
鈴代は背後ににじり寄った軍曹に頭を叩かれた。鈴代は依然変化したままなので、頭を叩くには飛び上がる必要がある。それを自然にやっている辺り、彼は鈴代の頭を叩き慣れているのだろう。
「中尉殿、申し訳ありません。まだ軍人としての意識が薄いようで・・・」
「それは重々承知している。本来兵学校で学ぶ事柄を即席で覚えさせるのは難しいだろう」
この世界では士官を養成する士官学校と下士官を養成する兵学校に分かれている。そこで二年間兵としての知識や技術を学ぶ過程を通っていないのだから仕方ない。
「では早速移動しましょう。普通の輸送車に神使様をお乗せするのは恐縮ですが・・・」
「軍務中は一介の中尉として扱ってもらって構わない。元は一般市民だ、その方が気楽だよ」
俺と軍曹、鈴代と三人の兵士が輸送車に乗り込む。今日は鈴代がダンジョンで活動出来るかを検証する予定だ。
行き先は最寄りのダンジョンである桶川ダンジョン。不測の事態が起きる危険性から陸軍が掌握している水中ダンジョンで実施する案もあったらしい。
しかし、桶川ダンジョンも過疎状態で他の探索者はほぼ居ないだろう事と、移動時間が片道二十分で済むというお手軽さによって桶川が選ばれた。
それでも万が一の事を考えて、陸軍が持つ戦力で最強の俺が押さえ役として同行する事になったという次第だ。
「中尉殿、気にするな。元の体には戻れなかったが、それでも生きている。本来なら鈴木の刺客に殺されるか自我を無くして暴れ続けるだけだった」
「そうだな・・・」
林原さんも生き残ってはいるが、いまだ目覚める気配はない。自力で魂を修復する事はほぼ不可能だから、彼女が目覚める事は無いだろう。
「そう暗い顔をするな、俺はここの人達と楽しく暮らしている。中尉殿には感謝したい程だ。当面の目標は、新年のお参りでいちゃつくカップルに天誅を下す事だな」
「いや、下すなよ」
同乗している兵士や軍曹も頷いているのだが、これは中佐に報告して阻止する必要があるだろうか。基地司令に報告しても、司令まで共犯という可能性があるからな。
「おっ、中尉殿、到着したようです。流石に近いですな」
「電車で四駅と言っても、駅間が短いですからね」
輸送車から降りてギルドの玄関に向かう。何度となく通ったギルドだ。何もかも懐かしい。
「帝国陸軍大宮基地の者だ。本日間引き作業に入ると通知した筈だが確認を」
「へっ、あっ、はいっ!ただ今!」
陸軍が間引きを行う通知はしていても、鈴代が来る事は知らされていなかったのだろう。受付嬢が鈴代を見て呆然としていた。
「えっ、もしかして滝本君?」
受付嬢が戻るのを待っていると、いきなり背後から声をかけられた。思わず振り返ると、懐かしい顔が俺を凝視していた。




