第七百三十八話
渋沢子爵家から帰った翌日、俺は情報部に出勤し昨日の顛末を関中佐に報告した。
「呪い、ですか。また厄介事になりそうな話ですね」
「黒田侯爵は自分達でケリをつけると言っていましたが、情報部でも把握すべきだと判断しました」
今回の事例で術者は渋沢子爵令嬢を呪いの対象とした。そして呪いは呪いと認識されず、原因不明の病気と思われていた。
「もし呪いの対象が今上陛下だったら?もし呪いの対象が皇族のどなたかだったら。そうなる可能性を否定出来ない以上、それを可能とする術者は把握しておく必要があるかと」
父さんのスキルならばそれを判別する事は可能だ。しかし、裏を返せば父さんのスキル以外で判別は出来ないという事だ。
「玉藻様に頼らず解呪するには術者を見つけるしかないならば、事前に把握するべきですな。手の空いている者で登録されているスキルを総浚いしましょう」
とは言うものの、帝国で登録されているスキル持ちの数は億を超えている。全てのスキルを一つ一つ確認するなど現実的ではない。
なのでデータベースから明らかに違う物、魔法系や身体強化系などの戦闘系スキルを除外。残った物を確認するという過酷な作業に入る。その結果、幾つかそれらしいスキルを発見する事が出来た。
「この符術スキルが本命かな?」
「いや、こっちのおまじないも怪しい」
ここからそれぞれの容疑者を調査して、いきなり体調を崩した者が居ればそいつが最有力容疑者となる。子爵令嬢の呪いが返っている筈だからね。
「なあ、今後もこの手のスキル持ちが出てくるかの監視は必要だよな?」
「そうだな、相手に接触せずに呪えるなんて危険極まりない」
「て事は、毎日千三百人のスキルを確認していくのか?」
現在、帝国における一日の出産数は平均千三百人。これは年間出生数を割った数字だ。一日にこれだけの人が産まれるという事は、一日にこれだけの人が一つ年をとり十四才になっている事になる。
つまり、一日平均千三百人がスキルを授かり国のデータベースに登録されているのだ。それを確認していくだけでもかなりの手間となる。
「これは専属の者を用意した方が良さそうだな。中将と相談しておこう」
「仕事を増やしてしまったようで申し訳ありません」
「いえ、これは治安維持に繋がる事柄で我々が気付いていなければならなかった物です。やんごとなきお方に被害が出る前に気付けて有難いくらいです」
こうして陸軍でも呪詛系スキル持ちを監視するという新たな任務が増える事になってしまった。これからはその系統のスキル持ちは軍で抱え込むだろう。
「呪詛があの大亀にも効けば楽に倒せるかもしれませんね」
「中尉、モンスターを呪うとかよく考えつきますね」
中佐に呆れられてしまったけど、相手にデバフをかけるなんて前世のゲームでは常套手段だったからな。ダメ元でやれたら儲け物。試す価値はあるのではないかな。




