第七百三十二話
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
「お父さん、医師会抜けて正解だったわね」
「そうだなぁ。優、やつら今度は何をやらかしたんだ?」
「まあ、医師会と言うより医師会が紹介した病院がやらかしたらしいんだけど・・・」
医師会は威信にかけてと大病院を渋沢子爵に紹介し、子爵令嬢はそこに入院して検査を受けたらしいのだが。そこで派閥争いが勃発したそうだ。
金融閥の渋沢子爵に恩を売ろうと循環器内科と消化器内科が治療の主導権争いをしたそうだ。まだ四歳の子爵令嬢は小児科にかかるのが自然なのだが、弱小派閥なので意見出来なかったそうだ。
そして検査を受ける事になったのだが、ここで二つの悲劇が起こる。通常検査用の採血は処置室と呼ばれる部屋で行われる。大抵は処置室の窓口にそれぞれの科から出された指示書を提出し採血等をしてもらうのだ。
だが、その病院のスタッフはVIPである子爵令嬢を一般の患者と同じ扱いをする事を是としなかった。循環器内科の主任医師が病室に訪れ採血を行おうとした。
子供の採血は難しい。体が大人より小さいのだから、血管の太さも相応に細いのだ。そんな採血を普段自分でやらない主任医師がスムーズに行える筈がない。
子爵令嬢の血管が浮きにくかった事もあり、左腕からの採血に失敗。ついてきた看護師に右腕から採血させて終了した。
そこに消化器内科の主任医師が採血の道具を持って現れた。先手を打って採血を終えた循環器内科の主任医師は得意げな表情で退室していく。
後れを取った消化器内科の主任医師は採血しようとして困ってしまった。左右の腕に注射後に着けるガーゼが着いていたのだ。
基本的には一度針を刺した付近に再度針を刺す行為は行われない。なので循環器内科の看護師は一度針を刺された左腕ではなく右腕から採血したのだ。
右腕にも左腕にも採血の跡がある以上、そこから採血は行えない。後日改めて採血すれば良いだけの話なのだが、そうすると循環器内科に後れを取り不利になるので容認出来ない。
主任医師が取った選択は、右手の甲からの採血だった。腕からは採血されてしまったが、位置が離れた手の甲ならば問題なく採血が可能なのだ。
採血を終えた主任医師は血液を分析に回すため急いで病室から出ていった。痛みで涙を流す患者には言葉もかけずに。
「手の甲は静脈が浮いてるから採血はしやすいんだ。だが、身体の末端に近いから腕からの採血に比べで格段に痛い」
「そんな事が・・・検査嫌いになるのも無理ないわ」
結局、循環器内科の検査でも消化器内科の検査でも原因を掴む事が出来なかった。それを聞いた子爵は大層怒り、愛娘を強制的に退院させたのだった。
下らない派閥争いにより愛娘が余計な痛みを与えられた挙句に治療も出来なかった子爵は医師会に怒鳴り込んだ。
事情を聞いた医師会は平謝りして子爵を宥め、別の病院を紹介した。医師会は同じ轍を踏まないようにと小児科のみの専門病院を選択したのだった。




