第七百二十九話
事件の翌日。俺は報告の為に情報部に出勤した。部長室に入ると中佐はテレビのニュースをチェックしていた。
「昨日は災難でしたな。まさかあんな所に奴等の研究所があったとは・・・」
「鈴代君の暴走時にすぐ対処出来たのは幸いでしたが、アーシャと舞には気の毒な事になりました」
関中佐も緒方元少将が出入りしていた拠点の場所は把握していたものの、研究所の場所までは突き止めていなかったそうだ。
なのであの時あの場所に俺が居たのは完全に偶然で、今回は関中佐が意図して俺を派遣した訳では無い。
「マスコミは板橋の時と同じだと気付いていますが池袋の事件との関連には気付いていないですね」
「彼女はスキル強化タイプだったので外見に変化はありませんでしたからね。単なるスキルの暴走だと思われているようです」
マスコミ各社のニュースは昨日の事件一色に染まっている。視聴者提供の動画を流し専門家を名乗る者が偉そうに語る御高説を垂れ流している。
「動画を撮影者の同意無しで使っていても視聴者提供とテロップ入れてれば問題ないと考えてるのですかね?」
「無断使用なので完全に違法ですが・・・この動画自体が避難命令を無視して居残り撮影された物ですから微妙ですな」
斜め上空から撮影されているアングルから考えると、この動画は隣接する団地のベランダから撮影された物で間違いない。
当時団地には警察官が避難するよう命令して回っていた。それを無視していたのだから、違法行為の上で得たデータという事になる。
違法行為により取得した物の権利が守られるかは微妙な線だ。裁判でも違法行為で入手した証拠は証拠として認められない。
「午後からの記者会見、本当に出なくて良いのですか?」
「マスコミの相手なんかで神使様の気力と体力を消耗させるつもりはありません」
玉藻の正体を明かしたので、中佐は俺が優の時も神使として扱っている。これまでは正体がバレないようにという大義名分で普通の中尉として扱ってもらっていたが、その効力がなくなってしまった。
上司で年上の中佐に敬語を使われるのは妙な感じだが、今までと同じ対応を強要したら中佐の胃に特大の穴が開きそうだ。
「それで、黒幕の件は公表するのですか?」
「幸か不幸か、彼の身元はバレていません。完全に容姿が変わっているので調べようもないでしょうし、混乱を避ける為伏せる事となりました」
忸怩たる思いはあるが、大財閥が潰れる影響を考えたらそれが最も穏便な方法なのだろう。正義が常に通用するとは限らないのだ。
「しかし、緩やかに財閥の解体は行われます。鈴木の一族を経営陣から外していき、傘下企業を独立させていきます。やがて鈴木財閥は消滅するでしょう」
「百点満点ではない六十点の政治、ですかね。それが妥当な線でしょう」
一人も反対しない百点満点の政治などあり得ない。なので政治は完璧を目指すのではなく現実的な六十点の政治をするべき。
物語ならばいくらでも理想を体現出来るのだけど、現実はそうはいかないからなぁ。




