第七百二十八話 とある喫茶店にて
ここは埼玉の古都川越にあるとある喫茶店。裏通りにある目立たぬ店に周囲を窺いながら入る人影があった。
「いらっしゃい、お一人様で?」
「ああ、テーブル席で頼む」
数席のテーブル席とカウンター席で構成された小さな店内。入店してきた男性は態々とテーブル席を所望し壁際の目立たぬ席に座った。
「ご注文は?」
「ジャンボストロベリーパフェ大盛り、オプションでメープルシロップをかけてくれ」
客はメニューに載っていないオプションを要求し、注文を聞いたマスターは、店の入り口に向かい看板を休業にして鍵をかけた。
「ご苦労さん。話には聞いていたが、本当に高校生にしか見えないな」
「マスター、話は注文したオーダーを持ってきてからにしてくれ」
「それ、合言葉だろ!本当に注文するのかよ!」
客の男性、辻谷君はマスターに注文したジャンボストロベリーパフェを持ってくるよう要求した。喫茶店なのだから注文した品を要求するのは当然である。
「はいよ、ジャンボストロベリーパフェメープルシロップ掛けお待ち。では早速報告を・・・お前、よくそれを食べられるな」
「食べられないと思う物をメニューに載せるなよ・・・滝本中尉は士官学校に来ていない。まあ、神使様だからな。来る必要も無いだろう」
「そうか。それでは新しい情報は無いのだな?」
「ああ。大体、授業が現場への出向による適性確認になってる。もし滝本中尉が来ても接触する機会はほぼ無いだろう」
パフェを食べながら報告を続ける辻谷君。報告を聞いているマスターは胸焼けで席を立ちたくなってきたようだ。
「もう戻っても良いだろう?経理に行けば現場から消耗品の予算要求で突き上げられ、上は予算が多いと削ろうとする。人事に行けばどこのダンジョンは嫌だのあいつとは組みたくないだの文句ばかり・・・」
仕事体験の愚痴を言いながらパフェを食べる手を止めない辻谷君。マスターが口を挟む隙もない。
「輜重ではあれも欲しいこれも欲しいと強請られた挙句荷物が重いと苦情が来る。お前らが要求した荷物だろうが!全部背負ってダンジョンに行きやがれ!」
「お、落ち着け。お前の苦労は分かったから!」
ヒートアップする辻谷君を何とか宥めようとするマスター。激昂しながらもパフェは食べ続け、苺一つ残さず完食してしまった。
「ふう、ご馳走様。で、俺はいつ海軍に戻れるんだ?」
「え、いや、上からはお前の撤収に関する指示は受けてない。それは次の報告の時にでも・・・何だ?」
話の途中でマスターはポケットからスマホを取り出した。着信音を消していたスマホに届いたメッセージには、怪物が現れてSNSで拡散されている旨が書いてあった。
「おい、板橋ダンジョンで出た怪物がまた出たそうだ。警察と陸軍が対応しているらしい。お前にはそれも探ってもらうかもな」
「冗談じゃない、俺は一刻も早く海軍に復帰したいんだ!陸軍なんてブラックな職場は嫌だぁ!」
辻谷君は心の奥底からの感情を声に乗せて叫んだ。しかし、彼の願いは海軍上層部に届くとは思えないのだった。




