第六百八十六話
戦いを最低限にして地上を目指す。避けられない敵は神炎で焼き、負傷した左腕に負担をかけないよう注意しながら戻った。
途中八階層で男性に戻ってみたが、傷はそのままだった。ついでに迷い猫を捕獲してモフモフしておく。玉藻の尻尾は至高だが、ニャンコのモフモフは別腹なのだ。
「玉藻様、傷の具合は?!」
「関中佐から聞いておったか。なに、掠り傷じゃ。心配は要らぬよ」
水中村ダンジョンに常駐している情報部の先輩に怪我の心配をされたが、問題ないと答えておく。中佐からは治癒魔法による治療を提案されたのだが断った。これくらいの傷なら放っておいてもすぐに治るだろう。
「妾は暫く療養じゃ。関中佐への報告はする故、後は良しなに」
「はっ、委細承知しております!」
先輩の敬礼に見送られギルドの外に出る。空歩で空に駆け上がると南に向かい何も無い山中に降りる。ここは細い県道が通っているがそれだけで、通る車などほぼいない。
念の為道から外れた場所で優に戻り県道に出る。そこで待つこと二十分、先程見送ってくれた先輩が運転する車がやって来た。
「中尉、待たせたな」
「先輩に迎えに来ていただいて恐縮です」
先輩にはここで俺を回収してもらう手筈になっていたのだ。ダンジョンから出る際に優になっていればこんな手間を掛ける必要は無かったのだが、ダンジョンに入る際に玉藻の姿だったので出る際も玉藻にしたのだ。
これは監視カメラのデータをハッキングで抜かれた時に、入る姿と出る姿が違うと玉藻の正体がバレるからだ。
軍のシステムがハッキングされた前例がある上、ここは元がギルドの施設なので設備は軍の物に準じている。ここもハッキングされる可能性はゼロではないのだ。
「中尉、英国はしつこく中尉を派遣するよう軍や政府に求めているぞ」
「黒田侯爵にまで迷惑をかけてしまったようです。何故そこまで執着するのやら」
車は山々の間を縫って走り、妙義松井田に到着した。ここからは高速道路に乗り西に向かう。東京を目指さないのは、英国大使館やマスコミへの韜晦だ。
「本来なら水中村の医療班に治療させるべきなんだがな」
「俺の居所を誤魔化す為ですから。傷も浅いですから大丈夫ですよ」
車は無事に陸軍松本基地に到着し、俺と先輩は医療施設に向かった。事前に通達が通っていた為か足止めもされずスムーズだった。
応急処置が効いていたようで、傷の治りは順調との事。傷薬を塗り直されてガーゼをあて、包帯を巻かれて終了だった。
治療も終わり、世話をかけたので基地司令に挨拶に向かおうとしたのだがそれは叶わなかった。司令の方からやって来たのだ。
「司令自ら足を運んでいただき恐縮であります。この度はお世話になりました!」
「なに、この程度は手間にもならんよ。手練と聞いていた滝本中尉が負傷したと聞いた時は驚いたがな」
慌てて姿勢を正し、敬礼する俺と先輩ににこやかな笑顔で答礼する基地司令。尉官の治療に司令が来るという異常事態に少し警戒する。
「滝本中尉、すまんがサインを貰えるかな?息子と娘が中尉のファンでな」
差し出された色紙とサインペンを受け取りサインを書いた。その後軍服姿とゴスロリ姿で写メを、と頼まれて写したのだが・・・ファンなのは司令本人じゃないのか?




