第六百八十五話
「くっ、衝撃で傷が開いたようじゃ」
三十四階層に戻った俺はすぐさま迷い家を開いて中に飛び込んだ。先程落とし亀の大盾で隼の攻撃を防いだのだが、その衝撃は盾を支えていた両腕に大きな負担をかけたようだ。
本体の突撃や風魔法といった攻撃自体は防げても、それに伴う慣性エネルギーを消す事は出来ない。それは盾を通じて俺の体に襲いかかった。
「舞の慣性制御なら完全に無効化するのじゃがな。アーシャといい舞といい、チート過ぎるじゃろ」
血で赤く染まった包帯を外し、まだ滲んでいる血をガーゼで拭き取る。止血効果がある軟膏を傷に塗り込み、新しい包帯を巻く。
今回の探索で思わぬデータが集まった。まず、俺が傷を負った場合玉藻から優に戻っても傷は残るという事。恐らく優の時に負った傷は玉藻にも反映されるだろう。
これは女性体から男性体に戻った時にも適用される可能性が高い。危険性が低い階層に戻ったら試してみるとしよう。
そして、巻かれた包帯が玉藻から優に戻っても巻かれていた。これまで装備や服は全て変わっていたが、包帯はそのままだった。これは包帯が装備と認識されなかったという事だ。
ならば骨折した時に着けるギプスや固定具はスキルで変身してもそのまま残る可能性が高い。変身する度につけ直す必要が無いのは有り難い。
次に隼の生態。あの隼は俺に傷を負わせた隼の可能性が高いと思う。あいつが諦めて飛び去り、別の隼が偶々俺を見つけて攻撃してきた。なんて事はないだろう。
それよりは見失った俺を探して滞空、出てきた俺を発見して再度攻撃してきた。若しくはあの空域が奴の縄張りで滞空していたと考える方が自然だ。
そして前者だった場合、隼から逃げて渦を探そうとすると執拗に追われる可能性が高い。そして他の隼にも見つかるとそいつにも追われ、トレインを引き起こす事になるだろう。
そうなればあの厄介な隼が地上に解き放たれ自由に大空を飛び回る事になる。そうなった場合、どれだけの被害を地上にもたらすやら。
後者でも、他の隼の縄張りに入る事で獲物を諦めてくれれば良いがその可能性は低いだろう。そうなると前者の時と同じでトレインとなる可能性が高い。
結論として三十五階層を探索するならば遭遇する隼は全て倒しながら進む必要がある。あれを何十羽も倒しながら進む?冗談ではない。
倒し方は確立出来た。優が大盾を構えて攻撃を受け止め、本体を弾いたら斧槍に換装して貫く。これで攻撃を食らわずに倒す事は出来る。
しかし、それで受ける衝撃は中々の物で連続して行えるのは二回か三回といった所だろう。迷い家に入って休息すれば回復するが、三十六階層への渦を見つけるまでにそれをどれだけ繰り返せば良いのか。
「じゃが、世の探索者は安全な休憩すら出来ぬ状態で探索しておる。トップ層の探索者はどれだけ忍耐強いのじゃ」
こりゃ到達階層が更新されなかったのも無理はないと、改めて強く思い知らされるのだった。




