第六百八十三話
やって来ました三十五階層。フィールドは荒野で見渡しは良い。見る限りモンスターの影はなく、三十四階層のような大型モンスターは居ないようだ。
「くっ、なんじゃとっ!」
頭上に気配を感じて体を捻ると、見えない刃が巫女服の裾を切り裂いた。恐らく風魔法と思われる。しかし襲撃はそれだけでは終わらず、落ちてきた黒い影が腕に裂傷を負わせる。
「あれは鳥・・・隼じゃな。これは厄介なモンスターが出たものじゃ」
隼が急降下攻撃する際、その時速は三百九十キロという鳥界最速の数値を叩き出す。前世の新幹線の最速営業速度が三百二十キロだったから、それより速いという事になる。
かなりの速度で高空に駆け上がっていく隼。また急降下攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。俺は神炎を出して待機させる。
遥か上空、点にしか見えない隼が降下を開始したようだ。引き付けて撃った方が回避されにくいと分かってはいるが、少し早めに一発目の神炎を放つ。
放たれた神炎は何も無い空間で燃え上がり消滅した。俺が設定した通り、放たれた風魔法を燃やし尽くしたのだろう。
そして同じ軌道で一発、少しずらして一発を放つ。しかし隼はこちらの偏差射撃まで見越していたように二発の神炎を軽々と躱すと上昇に転じていった。
「神炎は当たらぬか。とすると、風魔法を迎撃した後本体を鉄扇で落とすしかないのぅ。四百キロ近い猛速で降下してくる隼にカウンター決めるとか、絶対に無理ゲーじゃ!」
俺は隼を倒す事を諦めて迷い家に避難した。裂傷を負った左腕の治療もしなくてはならない。幸い左腕の傷はそう深くなく、止血して包帯を巻く応急治療だけで何とかなりそうだ。
あの隼を倒すにはどうするべきか。玉藻が持つ攻撃手段、神炎と鉄扇は通じなさそうだ。神炎は追尾しても振り切られたし、鉄扇は当てられる気がしない。
となると優が持つ大盾で魔法を防ぎ双剣に換装して降下してきた本体を叩くというのが最適な戦法だろう。しかし、四百キロで降下してくる隼を切れるだろうか。
「最も簡単にあやつを倒せるのは舞じゃなぁ・・・」
舞の慣性制御ならば、放たれた風魔法も急降下してきた本体も慣性を殺して停止させる事が出来る。止まった鳥など的でしかない。そうなれば簡単に倒す事が出来るだろう。
「上空からの襲撃では無視して渦を探す事も出来ぬ。先に進むには舞に協力を仰ぐのが最適解じゃな」
舞は頼めば喜んで協力してくれるだろう。昨夜の通話でも一緒に来たがっていたのだから断る理由は無い筈だ。
しかし、舞が来るとなればアーシャが黙ってはいないだろう。渦探しが劇的に楽になるので俺個人としては同行してもらえば助かるのだが、宮内省が何と言ってくるやら。
学校もある事だし、もし二人に協力してもらうなら冬休みに入ってからになるか。どちらにしても現状を関中佐に報告して判断を仰ぐ方が良さそうだな。




