第六百六十九話
「陛下、これを独占していたのはずるくないですか?」
「情報収集も皇族に求められる能力の一つだ。それくらい自分で調べられなくてどうする。おっ、また釣れた!」
川でのんびりとウナギ釣りをする親子の会話。少々聞き流してはならない固有名詞が聞こえたような気がするが、それを除けばほのぼのとしたものだった。
「宮内省や陸軍情報部が全力で隠しておるものを調べろというのも酷じゃと思うのじゃがのぅ」
「それはそうなのですが・・・これは中々に見れない風景ですな」
迷い家の川べりではロシア帝国皇帝陛下と大日本帝国天皇陛下、それに大日本帝国皇太子殿下が並んで釣りをなさっている。
「あの中に紛れて平然と・・・完全に感覚が麻痺しておるの」
「あのロイヤルな面子の中にただ一人だけ完全な平民ですからね。私だったら一分保たずに胃に穴が空いてますよ」
皇族勢揃いの中に紛れ込んだ父さんは、普通に世間話をしながら釣りを楽しんでいた。慣れとは恐ろしいものである。
「護衛も無しに果物狩りなんて、何十年振りでしょう。キノコ狩りもやってみたいわ!」
アーシャと桃や梨、さくらんぼといった季節を無視した果実を山盛りにした籠を持った皇后様は満面の笑みを浮かべている。
天皇陛下から迷い家にて息抜きをしたいとの要望が入り、玉藻になって皇居を訪れた。そこに話を聞きつけた皇后様と皇太子殿下も訪れ全員で迷い家に入る事となったのだ。
迷い家にはニックとアーシャ父娘とうちの両親、それに舞が居たが予定外の来客に慌てるもすぐに持ち直した。父さんはニックと共に天皇陛下と皇太子殿下を釣りに誘い、舞とアーシャは皇后様を果物狩りに誘った。
「成る程、ニコライ陛下とアナスタシア殿下が広島から帝都まで海軍に気取られず移動出来たのにはこんなカラクリがあったのですね」
「そうだ。そしてダンジョン探索において進展があったのも、この迷い家のお陰なのだ」
「そうか、ダンジョン内でここに来れるなら補給の問題も休息の問題も解決する!」
天皇陛下が迷い家に纏わる話を皇太子殿下にしているのだが、殿下が俺の方を凝視しているような気がしてならない。
「視線を感じるのじゃが、気の所為じゃと思いたいのぅ」
「皇太子殿下、玉藻様を引き込みたいのでしょうね。また宮内省からの要請が来そうで頭が痛くなりそうです」
関中佐としては俺が宮内省所属になるのは防ぎたいだろう。俺だって宮内省よりは陸軍に所属していた方が何かとやりやすい。
「それはそうと、多忙な中佐が油を売っていて良いのかの?」
「玉藻様に相談もあったので大丈夫です」
関中佐は別件で皇居に訪れていたらしく、それを聞いた天皇陛下が迷い家での休息を中佐に頼みこうなったという経緯である。
「玉藻様、皮剥きする柿はこれで全部ですかな?」
「そうじゃな。後は紐で括って吊るすだけじゃ」
「初めて干し柿作りをやりましたが、中々に楽しいものですな。完成が楽しみです」
今回作った干し柿の半分は中佐に持ち帰ってもらう予定になっている。結構な量を干したから中佐一人で食べきれるか不安だな。




