第六百六十四話
時は進みダンジョン実習当日。クラスの全員はバスに乗って練馬駐屯地にやって来た。ここのダンジョンが実習の舞台となる。
「よく来た候補生達。諸君らには今日と明日、ダンジョンに潜ってもらう。護衛は付けるが気を抜かぬように」
バスを降りた俺達は、護衛部隊の隊長さんからのお言葉を貰い装備を配られた。と言っても武器ではなく、自分が消費する分の水と食料が入ったリュックサックだ。
「滝本中尉殿、護衛の配置だが・・・」
「軍曹、今回の実習において本官は手も口も出しませんが?」
当然のように俺と打ち合わせをしようとした隊長に対して、俺は護衛に干渉しないと突っぱねた。あの日関中佐に呼ばれて言い渡された内容がこれだったのだ。
「我々情報部の任務は情報の収集と分析です。武力を用いた作戦は畑違いです」
「なっ、単独で二十階層を踏破する中尉がそれを言いますかっ!」
俺の実績を盾に任務に協力させようとする軍曹。自分で言っておいてコレはないと内心思ってしまう。情報部の先輩方は、下手なダンジョン実働部隊のメンバーよりも強いのだから。
情報戦を戦っていれば他国や他の組織のエージェントとの戦闘になる場合もある。そんな時相手を制圧出来る力が無ければ情報収集など出来ないのだ。
しかし、それは裏の顔であり表向き情報部員は武官ではなく文官である。なので文官の情報部員に護衛任務を手伝わせようとする隊長の方が間違えているのだ。
「軍曹、今回の実習にあたって本官は関中佐より護衛を支援する任務など命令されていない。軍曹は上官から本官が護衛に加わるとの通達を受けているのかね?」
「いえ、通達は受けていませんが・・・」
学生の中にダンジョン攻略で成果を上げている軍人が居る。なので護衛に参加してもらえると思い込んでしまったのだろう。
正式にそんな任務を受けていないのだから、そんな通達が降りている訳が無い。もし嘘をついて通達されたなんて言ってもすぐにバレて責任を問われるのがオチだ。
「軍曹、皆が待っている。実習を進めてほしいのだが?」
「そ、そうですな。失礼いたしました」
初めに挨拶をした場所に戻り実習にあたっての注意を説明する軍曹。これは大きなマイナス評価になるな。
俺が関中佐に言い渡された任務は、護衛を務める練馬の部隊が規定を守っているかの確認だった。こういう調査は監査の仕事ではあるが、軍内の情報収集という見方をすれば情報部の仕事とも言える。
隊長は初っ端からボロを出してくれた。生徒に軍人が、しかも到達階層記録保持パーティーのメンバーが居るというイレギュラー故の言動ではあるが、本来あってはならない行為である。
「ダンジョンでは十人の集団に分けて行軍してもらう。呉呉も集団から外れぬように。それでは移動開始!」
軍曹の説明が終わり、ダンジョンに向かって移動する。毎年繰り返されているダンジョン実習。問題なく終わる事が出来るかな?




