第六百三十三話
「ふむ、これで出揃ったようじゃの」
「火と水、土と氷、雷に透明な攻撃ですね。透明なのは風でしょう」
空気の流動である風は目に見えない。なのでクラゲの色の変化も目に見えず、色が変わらない状態で攻撃していると認識してしまうと思われる。
「奴の攻撃は見ました。次はこちらからの攻撃ですが・・・」
「触手は一本だけじゃ。妾と冬馬軍曹が挟み撃ちにして一撃が妥当じゃな」
俺と冬馬軍曹が左右に分かれて走り出す。クラゲはどちらを攻撃するべきか戸惑ったようだが、目標を俺に定めた。
「色は黄色、雷じゃな。良い選択じゃ」
接近する俺に対して弾速が速い雷を選んだのは正解だと思う。だが、だからと言って当たってやるつもりはない。俺は不規則に蛇行してクラゲの狙いを定めさせないようにした。
「玉藻様のモフモフに注目する気持ちはよく分かるが、私を忘れないでくれよ」
クラゲが俺にかまけている間に至近距離まで到達した冬馬軍曹が上段から剣を振り被る。クラゲは躱す事も出来ずにその身を深く切り裂かれた。
「むっ、まさかあの一撃で終わったのか?」
クラゲの反撃に備えて距離をとった冬馬軍曹が呟く。クラゲは光に包まれた後結構な大きさの魔石へと変化した。
「複数属性を扱える代償に防御力と体力が低かったのじゃろうな」
前世で散々やったRPGゲームで言うならば魔法使いのポジションなモンスターなのだろう。防御力と体力が低い、紙装甲の後衛キャラな訳だ。
これが他のモンスターと混合で出てきたらかなり厄介だろう。しかし、残念ながらこの世界のダンジョンでは単独で戦うのがルールとなっている。
その後数匹のクラゲを狩ってみたが、特性は同じだった。スリープシープという難敵の後に出るモンスターの割には戦いやすい、それが一同の感想だった。
「これは酢の物にするべきかのぅ」
「玉藻様、これって食べられるのですかね?色的に遠慮したいのですが・・・」
俺達は幸運な事に、一つだけだがレアドロップを得る事が出来た。触腕だったので酢の物が浮かんだのだが、色が土色だった為か久川兵長に難色を示されてしまった。
「このまま持ち帰って鑑定に出すべきかのぅ」
「人類初のドロップなのですから、もし可食だとしても持ち帰るべきです!」
冬馬軍曹にもダメ出しされたので、このまま地上に持ち帰る事になった。
「敵が予想外に弱かったのでまだ余裕があります。三十四階層まで行きましょう」
「そうじゃな、モンスターが面倒そうならすぐに撤退するという選択も取れるからのぅ」
尚、このクラゲは魔法に対して高い抵抗力を持っていた事が後々世の調査で判明する。冬馬パーティーは物理攻撃により呆気なく倒してしまったが、魔法だけで倒そうとするならば結構な難敵だったのだ。
久川兵長に弱いと断じられてしまったクラゲだが、ダンジョンが生まれた世界では魔法で戦う事が前提なので三十三階層に相応しい強敵だったのだ。しかし、今の冬馬パーティーにはそれを知る由もなかったのだった。




