第六百二十話
「中佐、そんな一方的な話は聞けません。こちらにも予定というものが・・・」
「あんな失態を犯しておいて、外務省の面子を立てろとは随分傲慢な・・・滝本中尉、戻ったか」
ニックとアーシャの控室に割り当てられた部屋に戻ると、外務省の高官らしき人と関中佐が激しい論戦を繰り広げていた。
「ただいま戻りました。現場は警視庁の警部に任せました」
「うむ。では宮内省に移動するとしよう」
本来の予定だと会見の後に外務大臣との懇談が組まれていたのだが、暗殺未遂事件の後で呑気に懇談など出来る筈もない。
「だから中佐、先程から予定通りにするよう言っているではないか!」
「ではお聞きする。外務省はこの事件の責任をどう取られるおつもりで?幸い滝本中尉が阻止したが、中尉がおらず暗殺が成功していたらあなたの首が物理的に飛ぶだけでは済まなかったと理解されているのか?」
「ぐっ、それは・・・」
痛い所を突かれた高官が言葉に詰まる。下手な発言をすれば自身が責任を被る事になる。それは避けたい所だろう。
「せ、責任は事件の処理が終わってから警備計画担当をだな・・・」
「随分と悠長ですな。今回の件、全ての責任は警備計画を立てた担当にあると仰るので?」
「う、うむ。そうだ」
高官は警備計画を立案した人間に全てを押し付ける事にしたようだ。確かにその人間にも責任はあるだろうが、それだけで済む話ではない。
「懇談時の警備もその担当が立案した計画に沿って行われるのでは?まんまと会場に武器を持ち込まれた警備を信用しろと?」
「そんな事を言われても、あんな事を予見しろという方が無理だ!レコーダーに武器が仕込まれているなんて、誰が予測出来ると言うのだ!」
高官の言う事はもっともだ。見た目が普通なICレコーダーの中にあんな短針銃が仕込まれているなんて見抜くのは難しいだろう。しかし、それも中佐には通じない。
「外務省にも我々陸軍から情報を渡してあった筈です。欧州ではああいった普通の機器に暗殺用の武器が仕込まれていると。欧州の記者が集まる以上、それが使われる事も十分予測出来た筈ですが?」
実際、俺達はそれを予見してアーシャのスキルで確認を行った。案の定持ち込まれていたので終了間際に彼女を指名したという訳だ。
彼女を指名せず犯行に及ばせない、という選択肢もあるにはあった。しかし、犯行に及んでいなければ後でレコーダーを咎めてもしらを切られる可能性が高い。
会社から渡された備品で、こんな機能知らなかったと言われればそれ以上彼女個人を追求するのは難しくなる。
そうなればテロリストを自由に行動させる事になる。情報部でマークする事は可能だが、人的リソースを割かねばならなくなる。
ただでさえ多忙な情報部だ。それなら安全を確保した上で暗殺を実行させ、終わらせてしまおうとなったのだ。
勿論、この判断を下す際にはニックとアーシャの了承を取り付けている。二人は俺と舞が居れば何の心配もないと二つ返事で引き受けてくれた。
二人の信頼が嬉しいと思うと同時に、二人の信頼に背かぬよう精進しなければならないと思った。




