第六百九話
「ステーキしゃぶしゃぶローストビーフ、すき焼きさんも捨てがたい〜」
「玉藻様、私達要らない子ですかね?」
アーシャが宝箱の場所を指示し、舞がオリジナルソングを歌いながら突進してくる牛を魔石とお肉に変えていく。
「突撃牛の突撃は決して遅くない筈なのじゃがのぅ」
「久川、むくれるな。肉と魔石の回収も立派な任務だし、これが美味しい料理になると思えば回収のしがいもあるだろう」
舞さん、何で突撃牛を視認してからの魔法連射で突撃牛を倒せてるの?視認してからパズルを完成させるだけでも難しいと思うのに、二〜三撃打ち込むってどんなチートですか?
「しかし玉藻様、舞ちゃん歌が上手いですね。あれなら歌手になれるのでは?」
「上手いとは思うがのぅ。プロとして上手いかと聞かれれば少し迷うの」
舞は歌も上手い。井上兵長にはああ答えたが、アイドルとしてならすぐにでもデビュー出来るだろう。幾つも舞い込んでいる芸能事務所からのスカウトがそれを証明している。
「まあ、玉藻様や皇女殿下、舞ちゃんのように神に選ばれた人達を羨んでも仕方ない。我々凡夫はそんな人達を支えるだけだ」
「神に選ばれるとは大袈裟な・・・と言いたい所じゃがのぅ」
「玉藻様は文字通り神様に選ばれていますからね」
比喩でも誇張でもなく神様に選ばれているので、冬馬伍長の言を否定出来ない。前世ではただの一般人だったのに、どうしてこうなったのやら。
「じゃがな、ダンジョンの二桁階層でこんな雑談しながら進むお主達も大概じゃぞ。一応ここまで来られるのは一握りの探索者じゃからな」
「ですね。玉藻様に頼る所が大きいとはいえ、私達も十台の階層では緊張しなくなりましたし」
俺と組む前の彼女らに現状を教えたら、絶対に信じて貰えないだろう。浅い階層で間引きを担当していたパーティーが探索階層世界タイ記録保持者になってるなんて言っても、寝言は寝て言えと返されるのがオチだ。
「あっ、ありました。あそこです!」
アーシャが久し振りに発見した宝箱を指差す。久し振りと言っても、これだけポロポロと宝箱を見つけるのは異常なんだけどね。
「さて、中身は何かしら?」
「剣、片手剣をお願いします。出来れば片手半剣をっ!」
開いていく宝箱の蓋を凝視しながら祈る冬馬伍長。しかし、運命の女神様は彼女に微笑まなかった。まだよく見えないが、中身はどう見ても剣には見えない。
クマさんヌイグルミという前例があるように、剣に見えないからといって剣ではないとは限らない。しかし、宝箱に入っていたのはある意味有名なアイテムだった。
「これは、アイテムを鑑定出来るアイテムだね」
「これはこれで貴重品で需要がある品だけど、これじゃないのよ・・・」
明るい声で宝箱の中身を言う舞に対して、冬馬伍長は落胆を隠そうともしていない。今回は残念だったが、この階層にはまだ一つの宝箱が残っている。それに期待しよう。
物欲センサーさん、少しは仕事をサボってもバチは当たりませんからね。




