第六十話
「つ、疲れた・・・」
「明日はゆっくり休んで下さいな」
ソファーでぐったりと横になる父さんの脹脛を丁寧に揉む母さん。水中村からの帰り道、ガラス工房に寄ってガラス吹き体験や観音様の中に入って絶景を堪能。トラブルもなく家に帰る事が出来た。
しかし、途中寄り道した為夕方の混雑に巻き込まれ運転手の父さんが疲弊。昼食や夕食をとり休憩しながらではあったが帰宅するなりダウンしてしまった。
「父さん、お疲れ様。俺も免許を取るつもりだから、交代出来るようになるからね」
「ありがとうな。でも、早くても4年後だからなぁ」
18歳にならないと免許の取得は出来ない為、まだまだ先の話になる。父さんは母さんに免許を取らせるつもりは無いようなので、それまで待ってほしい。
以前母さんが何かの拍子に免許を取ろうかしらと言ったら全力で止めていたので、何か理由があるのだろう。聞こうとしたら父さんは遠い目をして沈黙したので聞けなかったが。
「そうそう、夏休み中に泊りがけで東京に行ってきたいのだけど良いかな?」
「泊りがけで東京に?何かあるのか?」
「お兄ちゃん、まさか一人で同人誌の即売会に行くつもり!」
旅行中のハイテンションの反動でバテていた舞が会話に参戦してきた。この世界でも年2回の大規模即売会が開催されているが、俺の目的はそれではない。
「違うよ。落とし亀の甲羅を手に入れて盾に加工してもらいたいんだ。ドロップ品の加工スキル持ちなんて埼玉には居ないだろうから」
ダンジョンで得られる素材の武具への加工は、基本的にそれに適したスキル持ちが行う。肉の調理や加工しやすい素材の加工ならばスキルが無くても行えるが、硬い甲羅を加工するとなるとスキル持ちに依頼する必要がある。
「それなら東京に行くしかないな。何日くらいかかると予定しているんだ?」
「結構出にくい物らしいけど、それを狙って狩る人は居ないみたいだから何とも言えない。一週間から十日を目安にしようと思ってる」
実際は現物を確保済なので加工に必要な日数しか掛からないのだが、いきなり甲羅を持ち込んではどこから持ってきたかと怪しまれるので現地のダンジョンに潜って落とし亀を狩りまくるという体裁をとる。
三日か四日で出た事にするつもりで、そこから加工してもらう期日を加えて一週間と見ている。だがそれを言うわけにはいかない。
「そうか。泊まる所はあるのか?」
「ネットで調べたら、探索者向けの安いホテルとかあるみたい。そこに泊まるよ」
と返事したけど大嘘です。ついでにダンジョン内での野営も体験しておこうと思っています。と言っても泊まるのは迷い家なので、到底野営と言える物ではないのだけれど。
「そうか。少し心配だが優なら大丈夫だろう。いつから行ってくるつもりだ?」
「暫くダンジョンに潜ってないから、明日いつものダンジョンに軽く潜って勘を戻そうと思う。何もなければ明後日からかな」
「むぅ、一週間以上お兄ちゃんに会えないなんて・・・」
舞がむくれているが承知してほしい。来年は中学生になるのだし、寂しいが少し兄離れをする必要がある。「お兄ちゃんの下着、一緒に洗わないで!」なんて言われたら果てしなく落ち込むので程々が望ましいが。
「俺のスキルは多様な武器防具を揃えた方が力を発揮するからね。少しずつ揃えていきたいんだ」
装備を整え、実績を作ってから軍と交渉する。女神様との約束を守るため、頑張らないとね。




