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第五十八話

「あら、舞ちゃん、どうしたの?」


「あっ、お母さん!冴子ちゃんの付き添いだよ」


 役場に入り臨時診察室こちらと書かれた張り紙に従って廊下を歩くと、母さんが受付と書かれた机の前に座っていた。


「舞ちゃんのお母様ですか。うちの冴子が怖がってしまていた所を舞ちゃんが説得してくれて一緒に来てくれたんです。ありがとうございます」


「そうだったのですね。舞ちゃん、ありがとうね」


 二人のお母さんに褒められて舞が胸を張る。ドヤ顔も可愛いと思うのは兄バカだからではないと思う。


「ではお名前を・・・はい、ありがとうございます。では中にお入り下さい。あっ、舞ちゃんは・・・」


「お姉ちゃんも一緒!」


 母さんは冴子ちゃんの家族ではない舞をここで待たせようとしたが、冴子ちゃんは舞の手を離さない。随分と懐かれたものである。


「えっと、どうしましょうか?」


「お医者様のご家族ですし、病気が無ければ問題ありませんから。舞ちゃん、一緒に居てくれる?」


 戸惑う母さんに苦笑いしながら答える冴子ちゃんのお母さん。舞が答えるよりも先に冴子ちゃんは舞の手を引っ張って中に入ってしまった。


「優、何事もなかったかしら?」


「ああ、温泉街をブラブラ見てきただけだから、特に変わった事は冴子ちゃんの事以外無かったよ」


 母さんは見える範囲に人が居ないにも関わらず、小さな声で質問してきた。なので俺も小さな声で答える。


「そう、良かったわ。舞ちゃんが戻ってきたら旅館でお留守番していてね。説明は私達が帰ってからするわ」


「了解」


 何やら問題が起きているようだ。ならば外出して危険に近付くような真似はしない方が良い。


「本当にお手々握っただけで終わった!」


「ね、怖くなかったでしょう」


 診察を終えた冴子ちゃんと舞の声がする。健康ならば手を握るだけで終わるので診察時間は凄く短い。


「舞、そろそろお昼ご飯の時間だから旅館に戻ろうか」


「うん。それじゃあ冴子ちゃん、元気でね!」


 冴子ちゃんは舞と離れたくなさそうだったが、お母さんに抱っこされて半泣きになりながら帰っていった。ずっと一緒に居る訳には行かないので仕方ない。


 舞を連れてすぐ近くの旅館に帰り昼食をいただく。県内で産出されたキノコの天ぷらや味噌こんにゃくはとても美味しかった。


「お昼食べたらまたお散歩行く?」


「いや、午後はのんびりしていよう。動画でも見るか?」


 母さんの言い付けを守り、舞を連れて部屋に帰る。スマホでアニメを見たり動物の動画を見て夕方まで過ごした。


 やがて父さんと母さんが帰ってきた。部屋で早めの夕食を食べた後、母さんは舞を連れて大浴場に行った。父さんと俺も男湯に入る。


 まだ時間が早い事もあって他に入浴客は誰も居ない。なので父さんに小声で質問してみた。


「父さん、何があったの?」


「ああ、観光客誘致派と反対派の対立が激化して不穏になってるらしくてな。今年に入って村長が誘致派から反対派に代わったらしい」


 誘致派村長が観光に力を入れたにも関わらず、観光客は増えなかった。反対派はそれの使った予算を村民の為に使うべきだったと誘致派を責めた。


 結果村長交代となり反対派が幅を利かせ、今までの鬱憤を晴らすかのようにイキっているらしい。


「迷惑な話だなぁ・・・」


「全くだ。まあ、そういう訳だから明日も旅館に居てくれ」


 村内で全て賄えるのか?と思ってしまうが、余所者が口を出す話ではない。俺達は明後日になれば帰るだけだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 過疎な地域あるある どちらの勢力にしても、対立派閥に対する敬意が無ければ上手くは行かないと思うけれど 地域の存続を目指しているのは同じはずなのにね
[一言] こんな可愛い冴子ちゃんも数年のうちにこの世界に染まって染まるのかなぁw
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