第五百七十一話 とある秘密施設にて
ここはとある秘密施設の中の一室。施設の責任者が目を通すべき書類を読んでいると腹心の男が入って来た。
「失礼します、研究所から依頼が入りました」
「研究所から?また材料を寄越せという催促か、ピエロが連れて来る者だけでは足りないのか」
読んでいた書類から目を離し、腹心を見る責任者は不機嫌そうな表情で言った。彼が言う材料とは、緒方元少将が連れて来る人材の事である。
「いえ、何とかモノになりそうなのが居るらしく、ダンジョンで試験したいとの事です。現場までの搬送を頼みたいと」
「ほう・・・強化系か。やはりスキルを弄るのは無理なのか」
責任者は腹心から渡された書類に目を通して落胆した。身体能力の強化を行えたのは朗報と言えば朗報だが、彼らの目標からは少しずれているからだ。
「スキルの付与は不可能との情報を受けて、スキルを強化する方向に転換したらしいです。それにより大幅に研究が後退しました。仕方ありませんよ」
「そうだな。試験対象が送られて来るのは金曜日か。運ぶのはピエロにやらせれば良かろう。呼んでくれ」
三十分程して責任者の部屋に呼ばれたのは、ピエロこと緒方元少将だった。
「新しい仕事があるそうだな」
「ああ、金曜日にダンジョンに挑む仲間がここに来る。彼を板橋のギルドに連れて行ってもらいたい」
「ふむ、その仲間とダンジョンに潜れと?それはかなりの難題だな」
緒方元少将は指名手配されている身だ。陸軍の下部組織であるギルドに顔を出そうものなら、その場に居る職員や探索者に追われる事になるだろう。
それを振り切ってダンジョンに突入し、その仲間とやらと探索しろというのは無理とは言わないが無理に限りなく近い難題だ。
「君がダンジョンに入る必要は無い。ギルドに我々の賛同者が居る。君はギルドの外で仲間をその賛同者に引き渡せば良い」
「それならば容易い事よ。その仕事、引き受けよう」
そして金曜日の朝、緒方元少将は責任者に引き合わされた少年を連れて車で板橋に向かった。運転手は彼の側近が務めた。
「具合が悪そうだが大丈夫なのか?」
「・・・」
少年は一言も言葉を発せず、車内は重い空気に包まれた。パーカーのフードから僅かに見える少年の顔色はお世辞にも良いとは言えず、元少将が気遣うも返事は返ってこなかった。
「閣下、あれですね。言われた通りふなむしーのヌイグルミを抱えてます」
板橋ギルドの裏、関係者用通用口の近くで、側近がゆるキャラのふなむしーのヌイグルミを抱えたギルド職員を発見した。
「や、やっと来てくれたか。これを抱いて待つのは恥ずかしかったぞ」
「それを俺に言われても困るな。俺は彼を連れて行くよう言われただけだ」
ギルド職員は少年を受け取ると代わりにふなむしーのヌイグルミを元少将に押し付けた。
「こんな物俺に渡されても困るのだが?」
「は?何を言っている?これが受け取りの代わりだ。持っていかねば叱責されるぞ」
どうやらそのヌイグルミが彼を引き渡したという証拠になるらしい。元少将はデフォルメされたフナムシのヌイグルミを持って車に戻るのだった。




