第五百四十話
日は進み外出する約束をした土曜日になった。今日は帝都から離れて綺麗な自然の景色を堪能してもらうつもりだ。
「うわぁ、アーシャちゃんもお姉ちゃんも似合ってる!」
「舞ちゃんありがとう、舞ちゃんも似合ってるよ。勿論優お姉さんも」
純白のワンピースに身を包み、母さんに薄くお化粧も施してもらった舞とアーシャはテンション高くお互いを褒めている。
「優ちゃんは舞ちゃんと違う方向の可愛らしさだからやり甲斐があるわ。もう少し女の子で居る時間を増やしても良いのよ?」
「前向きに検討させていただきます。それじゃあ行ってきますね」
母さんの要望にはっきり答えず誤魔化しておく。俺まで化粧しなくてもと思うのだが、これも舞のリクエストなので甘んじて受けた。
「・・・はっ、失礼しました。どうぞ」
「ありがとう」
今日の外出は申請済みだったので、宮内省が車を手配してくれた。玄関前につけられた車で侍従さんが待っていたのだが、俺達を見るなり惚けて反応が遅れていた。
「ねえねえ、あの侍従さんお姉ちゃんに見惚れてたよね」
「お姉さん綺麗だから当たり前だと思います」
動き出した車の中で楽しそうに喋る二人。内容的に俺は参加しにくく、聞き手に回る事を余儀なくされている。
「お姉ちゃんが女の子の姿してる事少ないから、余計にインパクトあるのよね」
「お姉さん、そこらのアイドルより余程綺麗だから・・・」
褒め殺し状態の優のHPは既にゼロになっている。これ以上は完全にオーバーキルなのだが、二人はそれに気付いていない。
「撒けそうですか?」
「ちょっと難しいですね。警官隊の護衛もありませんし」
優が小声で問うと、運転手は眉間に皺を寄せて返した。ロシア皇女殿下が乗車しているとはいえ、道交法に従って走らねばならない。その状態で付けてくるマスコミを撒くのは無理そうだった。
警官隊が護衛についているならば赤灯を回して信号を無視し追跡者を引き離すという荒業も使えるが、今日の護衛は優一人である。
「舞、アーシャ。マスコミが付けて来ている。撒く為に駅で少し走るよ」
車は目的地である池袋駅の東口に到着した。しかし駅前では止まらずに少し過ぎてから停止する。
「舞、念の為に結界を。アーシャ、走るよ」
「「はい!」」
車から飛び出した俺達は目の前にある東口と西口を繋ぐ連絡地下通路に飛び込んだ。横目で確認したら、追跡してきたマスコミの車から慌てて人が降りているのが見えた。
まばらにいる人達を躱しながら西口に出た俺達は、すぐ近くにある階段を下り駅に入った。後から来るマスコミは俺達を見失っただろう。
しかし油断せずに小走りで目的の場所まで移動する。西口から東口に戻った俺達は、西武線の切符売り場で切符を買い特急ラビューに乗り込んだ。
「マスコミも撒けただろうし、終点まで乗るからゆっくり出来るよ。無理させてごめんね、アーシャ」
「はあ、はあ、ひ、必要、だったの、ですから・・・」
日頃運動をしていた俺と舞は平然としているが、アーシャには少しキツかったようで息が切れている。暫くはノンビリ座っているだけなので、その間に回復して欲しい。




