第五百二十二話
「着替えは終わったね。手筈通り迷い家で待っていてくれ」
「「はーい!」」
あれから数日、今日は舞とアーシャが探索者ギルドに登録する日だ。俺は玉藻になると二人を迷い家に入れて男性に戻る。
TシャツにGパンという動きやすい服装で西門に出たが、数人の記者が張っていた。この人数ならば突破できると判断して門から出る。
「滝本中尉、今日はシンプルな服装ですな、どちらに?」
「中尉、一言!一言お願いします!」
軍服ではなく私服なのだから私用だと分かるだろうに、お構い無しに纏わりつく記者達。一言お願いしますって、「一言」と言ってやれば気が済むのかな?
なんて事を考えながらもその場で垂直に飛び上がり門柱を蹴って記者達の頭上を飛び越す。門を飛ばずにまともに出てきたので取材に応じると思い込んでいた記者達は虚を突かれ反応が遅れた。
「はっ、追え、追うんだ!」
「銀輪部隊、出番だ!」
都道に沿って走っていると、自転車に乗った記者が追いかけてきた。前回の反省から小回りの利く自転車を用意したようだ。
「今度こそ逃さないぞ!諦めて取材を受けなさい!」
「だから、取材は規則通り広報を通じて情報部の許可を得てからにして下さい!」
俺は定められた規則に沿って手続きを踏み許可を得るよう言っているのだが、悲しいことにマスコミ連中には通じない。
同じ言語で話しているのに話が通じないという不思議。そんな連中の相手なんてやってられないと思うのは俺だけではない筈だ。
記者達はしつこく追ってくるが、自転車で追うなら自転車が入れない場所に逃げ込めば良い。なので国鉄の信濃町駅に飛び込むとICカードを翳して改札を抜ける。
「なっ、駅に!おい、自転車を頼む!」
追ってきた三人のうち二人が自転車を残りの一人に預けて改札を潜るも、ホームに出た俺は改札口に降りるエレベーターに乗る。
他に乗客が居なかったので着せ替え人形で灰色のパーカーに着替え、フードを深く被って顔を隠した。そしてゆっくりと階段を上がりホームに戻る。
「居ないぞ、何処に行ったんだ!」
「まだ電車は来ていない。ホームに必ず居るはずなんだ!」
二人の記者は先にホームに上がった俺を必死に探していた。当の俺は階段を上がり彼らの近くまで来たのだが気付く様子は無い。
俺は先にホームに行った筈なので、自分達より後に来る筈がないと思い込む。だから後から来た俺に注意を払わない。
しかも、彼らが追っていた俺とは服装が違う。着せ替え人形というスキルは知っていると思うが、それを使われるとは思っていないのだろう。
「まずい、電車が来るぞ。しかも上下線両方だ」
「仕方ない、別れて乗ろう。何としても探し出すんだ!」
慌てる二人を尻目に、乗客が多かった秋葉原方面の電車に乗った。記者は走り出した車内を俺を探して先頭車両の方に向かっている。
記者は四谷の駅で電車を降りた。先頭まで見て居なかったので、反対方向の電車に乗ったと判断したのだろうか。
ともあれ無事に記者を撒いた俺は、神田で山手線に乗り換え上野に到着したのだった。




