第五百七話
うちの一家と皇帝親娘はリビングでお茶を飲んでいた。並んで座っている舞とアーシャは落ち着かない様子が見て取れる。
「あっ、玉藻お姉ちゃん!ここに座って!」
俺に気付いた舞が手招きして座る位置をずらす。指定された場所は舞とアーシャの中間。二人に挟まれる格好になる。
「やっぱり玉藻お姉ちゃんの尻尾は落ち着くわぁ」
「ずっと抱きしめていたいです」
俺の尻尾をモフる事で二人が落ち着くなら安いものだ。気が済むまで存分にモフるがいい。
「スキルを授かる直前の期待と不安が入り混じった落ち着かない感情。誰もが通る道だな」
「そうね。家族を落胆させたらどうしよう、という不安は時が近づくと大きくなっていくのよね」
自分の親はスキルの良し悪しに拘らず愛してくれる。そう信じていても不安になるのは抑えられないのだろう。恐らく、それは理屈ではないのだ。
俺は宇迦之御魂神様からダンジョン攻略に有効なスキルを授かる事が約束されていた。なのでその心配は無かった訳だが。それでもこんな巫山戯た名称のスキルで、こんなチートなスキルを授かるとは予想外にも程がある。
「私の場合、家臣達の期待もあったからな。プレッシャーは凄かったぞ」
「そう言えば、お父様のスキルを聞いた事がありませんでした」
「えっ、アーシャちゃんお父さんのスキルを知らないの?」
懐かしそうに自身の思い出を語るニックにアーシャが爆弾発言をかました。そこに舞がツッコミを入れる。
「舞、今アーシャが授かるスキルを秘匿しようとしているように、何らかの事情で秘匿されていると考えるのが妥当だろう」
「ああ、いや、政治的な理由で隠している訳では無いのだ・・・」
皇帝家ともなれば持っているスキルを隠されるくらい普通にあり得るだろう。と思って舞を窘めたのだが、他でもない皇帝陛下自身に否定されてしまった。
「私が授かったスキルはたった一つ。それももう使えないから意味がないのだよ」
世の中には使い切りとなるスキルも存在する。性別転換系がその代表例で一度使ったら戻れない、つまり一度しか使えないのだ。
しかし、そういうスキルを授かる場合、他にもスキルを授かる事が多い。と言うか、授からなかった前例は無いのではなかろうか。
使い切りのスキル一つだけでは、それを使った後はスキル無しと同じ事になる。このスキル優遇社会でそれは致命的な不利を背負う事となる。
「私が授かったスキルは『神の落涙』。一度だけ、心の底から願った内容を叶えるという物だった」
ニックから打ち明けれたのは、トンデモな内容のスキルだった。そんな規格外なスキルでは、他に授からないのも当然と言える。
「妻とアーシャが流行り病にかかり、妻は命を落とした。そしてアーシャの命の灯も消えようとした時、私は願ったのだ・・・」
ニックが何を願ったのか。それは言われなくてもこの場の全員が理解していた。その願いが叶ったからこそ、今ここにアーシャが居るのだから。




