第五百五話
夕方、滝本家が滞在している部屋にニックとアーシャが訪れた。二人と俺達滝本家は宮内省に移動し、皇居ダンジョンで舞とアーシャのスキルを確認する予定だ。
ロシア皇帝家の皇女殿下であるアーシャのスキルを秘匿する為と、俺の妹という事でトンデモなスキルを授かる可能性がある舞のスキルを秘匿する為だ。
「では始めましょう。女性体、妖狐化、迷い家」
俺は女性体と妖狐化を発動し迷い家も続けて発動。入り口を開き皆を収容する。全員が入った事を確認し迷い家の入り口を閉じるとスキルを解除して男に戻った。
そして何食わぬ顔で迎えに来ていた陸軍の車両に乗り込む。車内では関中佐が待っていた。
「お待たせしました、万事予定通りに」
「了解。出してくれ」
俺の報告を受けた中佐が運転手に車を出すように命じる。車は迎賓館を出て皇居を目指して走る。
「月末辺りに間引きをする事になりそうだ。まだ大丈夫だとは思うが、余裕はあった方が良い」
「目的は間引きよりも羊毛、ですかね」
前回潜ってからまだ一月しか経っていない。氾濫を心配する時期ではないのでスリープシープの羊毛目当てと見るのが妥当だろう。
と普通ならば考える所だが、この会話は茶番である。俺と関中佐は宮内省に次のダンジョン探索の打ち合わせに行きます!と思わせる為のミスリードだ。
運転手は情報部員ではないが歴とした陸軍の一員であり、山寺中佐率いる監査部によるチェックはされている筈。しかし、人間なんて何時何処で転ぶか分からない。この車も盗聴器や盗撮カメラ対策は定期的にされている筈だが、警戒に警戒を重ねて損はない。
「遅くなるので帰りは宮内省から車を出してもらう。君は戻ってくれ」
宮内省に着いたので乗ってきた車を市ヶ谷に帰す。送るだけで良いと言われていると思うが、念の為に戻るように言いつける。
「お待ちしておりました、こちらに」
玄関には俺が玉藻だと知っている衛士さんが待っていて、応接室に案内してくれた。ダンジョンに入るのは十一時を過ぎてからになるので、それまでここで待機となる。
出された紅茶を飲んでいるとマナーモードにしていたスマホが振動した。念の為中佐に許可を取って画面を確認すると、舞からだった。
「舞からです。宮内省に着いたのかと聞いてきました」
「舞ちゃんも落ち着かないのかもな。着いたと返信してあげれば良い」
俺はちゃんと着いたから安心してくれと返信した。そしてスマホを胸ポケットにしまう。
「・・・滝本中尉、舞ちゃんはあそこに居る筈だよな?」
「はい、両親や二人と一緒に居ますが・・・あっ!」
舞が迷い家からメールを送ってきた。それはダンジョンの中だろうが迷い家からならばメールも通話も出来るという事を表している。
「前回の攻略時、中佐に報告と確認すれば良かったですね」
「俺も失念していたからなぁ。普通中継機は重くて嵩張るから最前線には持ち込まない。だから通信が届くと考えもしなかったよ」
物資の大きさや重量を無視して持ち込める迷い家の本領発揮といった所か。これからは連絡や相談を忘れずにしないとな。




