第三百話
そして翌日、青木家から内容証明が送付されてきた。中身を簡潔に言うと、うちの息子を見捨てた代償に二億払え。払わなければ裁判起こすからな!という物だった。
「話し合いで和解・・・は無理だろうなぁ」
「まともに話し合い出来る人達ならば、こんな言い掛かり付けて来ないだろうからね」
父さんが言うように、話して何とかなる相手ではないだろう。しかし二億なんて金額を払うのは無理だし、もう裁判しか選択肢が無い。
「でも、裁判ならちゃんとお父さんは悪くないって判断してくれるんじゃないの?」
「舞、裁判って正しい者が勝つとは限らないんだ。だから父さんが悪くなくても負ける可能性はある」
裁判で常に正しい者が勝つのなら、冤罪の被害者なんて存在しない。しかし冤罪の被害者は居るというのが正しくても負けるという事を証明している。
「裁判に備えて弁護士を雇わないとか。弁護士ってどうやって探せば良いんだ?」
「時々テレビで法律事務所の宣伝やってますけど、そういう所に問い合わせします?」
母さんの提案も悪くないが、弁護士って得手不得手があるらしいからそこを考慮しないといけない。労務訴訟に慣れた弁護士さんにこの案件を頼んだら、弁護士さんもさぞかし困るだろう。
「弁護士さんも専門分野みたいな物があるみたいだよ。商業登記に詳しい人とか、刑事裁判に強い人とか」
「じゃあ交通事故に詳しい弁護士さんを探せば良いのね」
「いや、直接の当事者ではないから別じゃないか?」
色々と話し合い、スマホで弁護士事務所のホームページも見たけど適任と思える人が見つからない。結局、訴訟になるまでにまだ時間があるだろうからそれまでに調べようという事になった。
「滝本君、何だか顔色が冴えないけど大丈夫?」
「体調が悪い訳じゃないから大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね」
翌日登校してからもあの件が心に引っかかっていて林原さんに心配される程顔色にそれが表れていたようだ。
この学園の生徒の家ならば華族との付き合いがある家もあるだろうからアドバイスを求めるという手もある。だけど、それの代償に何を求められるか分からないのでそれも迂闊に出来ない。
授業内容がろくすっぽ頭に入っていない授業が終わり帰宅する。あの弁護士がうちの患者さん達に何かを吹聴したりしていないかと心配だったが、今日の所はそんな様子は無かったようだ。
「今の所あの内容証明以外に向こうの動きは無さそうだな」
「患者さん達もいつもと変わりませんでしたね」
今日が平穏無事に終わったのは良いが、こんな風に相手の出方を警戒して神経を削る日々が続いたら精神が保たない。特にまだ子供の舞が参ってしまう。
弁護士を使って脅しを掛けてくるような連中だ。違法行為や暴力行為を行わないという保証はどこにも無い。
かと言って示談に応ずる事も出来ない。こういう状態になるから言い掛かりで訴訟を匂わされ、裁判にせずに金を払ってしまうケースが多いのかと実感した。




