第二百九十二話
右端の車線を走って行った暴走車が少し右によれたように見えた。直後に左へと大きく進路を変えた暴走車は左の車線を走っていた車にぶつかり反動で中央分離帯に激突した。
いきなり真横からぶつけられた車は路側帯を越えて防音壁にぶつかり、部品を撒き散らしながら停止した。
しかし事故はそれだけでは終わらず、中央分離帯にぶつかった暴走車の破片が反対車線を走行していたトラックに直撃。急ブレーキをかけたトラックはバランスを崩し横転してしまった。
「父さん、ハザード出して減速を!」
「母さん、舞、どこかにしっかり掴まってくれ」
後続車も事故を確認して止まろうとしてくれれば良いが、何かの理由でそれを確認出来ず、減速したうちの車に追突する可能性があるのだ。幸い後続車も事故を視認して減速、停車してくれたので現状では更なる多重事故は発生しなかった。
「母さんはそこの非常電話で通報して舞と一緒に防音壁の外に退避してくれ。優は父さんと負傷者の救助を頼む」
「お兄ちゃんも一緒に退避しないの?」
「あの様子じゃ救出に力が必要になりそうだからね。大丈夫、例え車が突っ込んできても大盾で防いでみせるよ」
不安そうにする舞を説得し、母さんに連れて行ってもらう。その間に父さんは応急処置に必要な機材を車から降ろしていたので手分けして持った。
まずはぶつかられた車に走り寄る。運転席のある側からぶつけられているので、当たり場所によっては運転手さんが大きなダメージを負っている可能性がある。
被害を受けた車両は右側面が大きく潰れ、防音壁にぶつかった衝撃で左前面がひしゃげて原型を保っていなかった。
「おい、大丈夫か?しっかりしろ!」
被害車両に乗っていたのは二人。運転席に三十代とみられる男性が居て、助手席に同年代と思われる女性が乗っていた。
「ピラーが曲がってる。優、何とかなるか?」
「やってみる。はあぁぁぁっ!」
ドアがへこんで出来た窪みに手をかけ力を込めて引っ張る。ミシミシと音をたてて抵抗していたドアだったが何とか開ける事に成功した。
「肋骨が折れているが内臓にも脳にも損傷は無い。移動させても大丈夫だ」
症状によっては動かすだけで危険な場合もある。なので父さんの指示を受けるまで患者さんを動かせなかったのだ。
しかし父さんのお墨付きが出たのでシートベルトを外して抱き上げる。その間に父さんは助手席の女性を診察し始めた。
「おおい、大丈夫かっ!」
「この人は肋骨を折っています。寝かせられるようにしてあげたいので協力をお願いします!」
後続車に乗っていた人達が現場に駆けつけてきた。なので負傷者を寝かせられる環境作りに協力してもらう。
幸い車に毛布を積んでいた人が提供してくれたので、事故現場から少し離れた場所に敷き寝かせる事が出来た。
「優、手伝ってくれ!急ぐんだ!」
「すぐに行く!」
父さんに呼ばれて事故車に戻る。女性も肋骨を折っていたようだが、こちらは男性よりも重傷だった。父さんの指示に従い女性を抱き上げ路上に寝かせる。
「そっちは大丈夫か・・・おい、何を!」
協力してくれた人達がこちらに来た時、父さんは針のような物を負傷者の胸に刺している最中だった。




