第二百五十六話
「お邪魔します。これ、つまらない物ですが」
「いつもありがとうございます、お上がりください」
玄関先で手土産を母さんに渡した関中佐がリビングにやって来た。母さんの手にはMOCHI cubeと書かれた箱が。
「冷凍されているので、食べる時に溶かして下さい。生だと二日しか保ちませんが、冷凍なら三十日保ちます」
後で知ったのだが、鳥取で人気の銘菓らしい。情報部の人達は日本全国あちこちに行っているみたいだ。
「知らせて頂いた使徒の件ですが、広めたのは緒方少将で間違いないでしょう。彼はそれを広めて利用するべきだと言っていましたから」
噂を流した犯人は玉藻を得ようとした少将らしかった。情報を統括する情報部を無視してそんな事をして大丈夫なのかな?
「既に噂が流れてしまった以上、否定する事も封じ込める事も不可能だと判断しました。玉藻様に不都合は御座いませんか?」
「関中佐の言われる通り、流れた噂はどうしようもないでしょう。面倒なのは勧誘やマスゴミですが、玉藻が公の場に出なければ問題は無いかと」
玉藻としてダンジョンに潜る時は水中村のダンジョンを使えば一般人と遭遇する事はない。軍には送迎を頼む事になるが、そこは必要経費という事で。
「それと、玉藻様の件は今上陛下のお耳にも入る事となります。鈴置中将が陛下への謁見を申し込んでいますので・・・」
「宇迦之御魂神様の使徒が現れたなんて大事件、陛下にお知らせしない訳が無いな」
そんな証拠もないトンデモな話、今上陛下は信じるのかな?中将からの報告なら頭ごなしに否定はしないかもしれないけど、疑う位はするだろう。
そうなった時、真偽を確かめる為に宮内省から呼び出されたりするのだろうか。証明しろと言われても神域に人は立ち入れないし、神託下ろしてもらうのも無理だろう。
「中将の報告を受けた陛下や宮内省がどう動くかは分かりません。何かあれば速やかにお知らせ致します」
「お手数ですがお願いします。あと、噂の真偽を尋ねられたらどうしましょう?」
俺が軍属だという事は知られている。生徒が教師達のように噂の真偽を聞いてくるなんて事も考えられる。
「そうですね、噂を肯定してください。噂に尾鰭や背鰭が付く方が面倒ですので、いっそ学園の子女を利用しましょう」
「分かりました」
話すべき内容を話し終えた関中佐はすぐに席を立った。忙しい身だろうし、こちらも引き止める事はしない。
「中佐、これ手すきの時に摘んでください」
「これは大学芋ですか。ありがたく頂戴致します」
ちょっと大きいタッパー二つの詰まった大学芋を渡した。情報部の皆さんで分けられるだけの量はあると思う。
中佐を玄関先まで送りリビングに戻ると夕食の準備が始まっていた。今日は突撃牛のステーキに迷い家産の野菜を使った温野菜だった。
「お兄ちゃん、天皇陛下に謁見する事になるかもね」
「できれば避けたいなぁ。今上陛下に謁見なんて、一市民には荷が重すぎる」
こちとら前世も今世もバリバリの一般市民である。天皇陛下はテレビで見る御方という印象しかない。
「素戔嗚尊様や宇迦之御魂神様にお会いしていて何を言う?」
「父さん、それはそれ、これはこれだよ」
確かに神々にお会いしてはいるのだが、だからと言ってお偉い人達に会うのが平気になるかと言えばそんな事はないのだ。
「まあ、謁見する事になるかどうかは未定だからね。そうならない事を願うよ」
とは言ったものの、今世の天皇陛下が前世の天皇陛下と同じお人柄だったら謁見する事になりそうだよなぁ。




