第二百四十八話
充分に休息をした後、迷い家を出て十七階層を目指す。十八階層には行かないけれど、十七階層に到達した記録だけは残す為だ。
「群れ狼が出たら妾が二匹まで間引こうかの?」
「ありがとうございます、玉藻様。しかし残すのは三匹でお願いできますか?」
俺は戦わない予定だったが、冬馬伍長達が群れ狼に対応できない理由が装備にもあるので少し助勢しても問題無いだろうと判断した。
狼を二匹に間引けば数の優位で楽に戦えると思うので提案したのだが、冬馬伍長に三匹残してくれと言われてしまった。
「二匹が相手なら楽に倒せます。しかし、複数の相手と戦う経験を積む為に三匹残して欲しいのです」
「じゃが、複数の相手なぞ群れ狼を除けば夫婦鶏のような特殊なケースのみじゃぞ。そこまでする必要があるのかのう?」
氾濫が起きた際も多数のモンスターと対峙する事になるが、その場合はこちらも大人数になるのでまた戦い方が違ってくる。
「確かに、これまで判明している中では玉藻様が仰っしゃる通りです。しかし、未到達となっている階層でまた複数のモンスターと戦う事になるかもしれません」
冬馬伍長は俺の目を見てしっかりと言い切った。未到達階層に自分達が足を踏み入れるという意思表示に少なからず驚かされた。
「以前、私達よりも若い探索者と潜った際に、その子が同じような事を言ったのです。進む事を選択した以上、まだ見ぬ先を見据えて行動しなければと・・・」
「そなた達の想い、尊重するべきじゃろう。群れ狼は三匹残す事にしようぞ」
冬馬伍長、それ言ったの多分俺ですよね?凄く恥ずかしくて表情に出さないようにするのがかなり大変なのですけど!
そこにタイミング良く群れ狼が現れた。五匹の群れなので二匹を間引かせてもらおう。俺は懐から鉄扇を取り出すと群れ狼に駆け寄った。
いきなり走って間合いを詰める俺に対して群れ狼は鶴翼の陣で迎え撃った。そのまま中央奥の狼に突撃すると見せかけて空歩を発動する。
向かって右の端に居た狼の真上で空歩を解除する。落ちた勢いも乗せて鉄扇で首を切断した。更に、俺を見失いあたふたしている狼の一匹に狐火を二発お見舞いする。
何がどうなったか分からぬ内に二匹を失った群れ狼を尻目に、俺は再び空歩を発動してパーティーの下に戻った。
「それ、残りの狼は頼んだぞい」
「あっ、は、はい」
群れ狼同様何が起きたのか把握しきれずに呆然としている三人に残りの狼を倒すよう促す。あちらも我に返ったようで、仲間を倒された怒りに燃えて駈けてきた。
三人は前回と違い距離を取って三角形に布陣した。これなら担当した狼が標的を変えても声掛けして知らせる余裕が出来る。
しかし、戦いは全てがこちらの思惑通りに運ぶとは限らない。狼は冬馬伍長の二匹、久川上等兵に一匹が向かい井上上等兵は無視された形になった。
「何とか凌ぐ!二人がかりでそちらを倒してくれ!」
冬馬伍長は片手剣とバックラーで二匹の連携攻撃を防ぎ受け流す。久川上等兵に向かった狼はジャンプして噛み付くも容易く躱されてしまった。
「油断大敵!」
攻撃を躱されて無防備に着地した狼に、井上上等兵の勢いに乗ったドロップキックが炸裂した。短剣での刺突より勢いを殺さず叩き込めるドロップキックの方が良いと判断したのだろう。
見事に蹴りを食らった狼は地面を転がり、走り寄った久川上等兵が首に短剣を突き刺し魔石へと変えた。二人はすぐに冬馬伍長への加勢に走り、二匹掛かりの攻撃を凌がれた狼は三人に倒されたのだった。




