第二百二十四話
「体験と申されますと、この場に屋敷を出現されるので?」
「ある意味そうじゃが、心配は要らぬ。出現させるのは迷い家への入り口だけじゃからのぅ」
そう答えると同時に迷い家を発動し入り口を出す。関中佐と山寺中佐の二人を通過出来るように設定し入り口を潜る。
「ほれ、呆けとらんでさっさと来るが良い。警戒せずとも危害を加えるつもりなどありゃせんわ」
怖気づく二人に首だけ出して来るように促した。横から見たら空中から首が生えているように見えるだろう。これは逆効果だったかな?
「これは何とも不思議な・・・おおっ、すり抜けた!」
「山寺が光の壁に吸い込まれた・・・あっ、氷川神社で玉藻様が消えたという目撃証言はこれか!」
山寺中佐に続いて入ってきた関中佐が見当違いの推理を披露した。残念ながらあの時は別口なんだよなぁ。
「関中佐、それは間違いじゃよ。あの時は素戔嗚尊様に呼ばれて神域に導かれておったでな」
「素戔嗚尊様にって・・・神々にお会いする御方との連絡役なんて、本当に俺達で良いのか?」
「良いも悪いも、やるしかないだろうに。と言ってる俺も胃に穴が空きそうだがな」
前世では俺もごく普通のサラリーマンだったのだ、山寺中佐と関中佐の気持ちもわかる。係長にいきなり取り引きに連れて行かれてお偉いさん(しかも自社も含む)に製品の説明しろと無茶振りされた時はぶん殴りたくなったよ。
せめて事前に言ってくれていれば説明する内容を纏められたけど、いきなりだからアドリブでやるしかない。しかも自社の重役も居たから下手な説明すればすぐバレる。
今の状況はその時の比ではないストレスを与えているだろう。何せ上役どころか正真正銘神話の存在に遣わされた者の対応をしなければならないのだ。
「妾は神より依頼を受けておるが、そう畏まる必要は無いぞえ。実際、妾の力はこの迷い家を除けば従来の獣人より少し高い能力がある程度じゃよ」
比べた事がないから憶測だが、力や素早さはそれを得意とする獣人と同等か少し劣る位だと思う。狐火という飛び道具は他の獣人にない特徴だから、そこはアドバンテージと言えるが。
「そうは言われましても、神の使徒となれば今上陛下にも劣らぬ御方となりますので・・・」
「まぁ、接し方を強要するつもりは無い故にそれは任せるが無理はせぬようにな」
神に準ずる存在と定義されたら、今上陛下の権威を損ねる事を防ぐ為にもそういう対応をせざるを得ないというのも分かる。
「それはそうと、スキルの説明をしようかのぅ。この迷い家は妾が許可を出した者のみが立ち入れるのじゃ。人であろうとモンスターであろうと、妾が認めぬ限り立ち入る事は出来ぬ」
「も、もしかしてダンジョンの中でもこの迷い家に入る事が可能なので?」
「勿論じゃよ。予めこの迷い家に補給物資を持ち込めばポーターが運ぶ必要は無く、あの家には生活に必要な設備が揃っておる。調味料さえ蓄えておけばダンジョンでも何日でも安全に滞在出来るわ」
説明を聞いた関中佐と山寺中佐の顔からは表情が抜け落ち、目の前で手を振っても全く反応しなかった。
「こうなるじゃろうとは思っておったが、本当にフリーズしおったのぅ。まあ、迷い家の重要性を瞬時に把握してくれたという点では喜ばしいのじゃが」
まだ畑や家屋の説明もあるのだが、二人が再起動するまでゆっくり待つとしようかな。




