第百九話
あれから数週間が経ち、川越玉藻騒動も落ち着いた。あの自己中探索者のパーティーはネットで炎上し酷い状態らしいが、完全に自業自得なので俺の知った事ではない。
「舞よ、熱心に見ているがつまらなくないか?」
「どんどん仏様が姿を現していくのを見るのは面白いわよ。ネットで調べたけど、本職の仏師でもそんなに早く彫れないらしいわ」
俺の気分転換をじっと見ている舞が呆れたように答える。俺は今、勉強の合間に趣味の木彫を嗜んでいる。
勉強で酷使した頭脳を休ませるのに無心で木を彫るのは最適なのだ。コストも木材の購入費だけなので安い値段で済む。
「その仏様は・・・文殊菩薩騎獅像で合ってる?」
「ああ、試験前に彫るなら文殊様だよな」
今日は日曜日だがもうすぐ二学期の中間テストが実施される為、朝から試験勉強に励んでいた。根を詰めていたので気分転換に少々趣味に走ったという次第である。
光背もキッチリ彫り上げて、木屑を集め後処理をする。プラモデルと違い彩色しないので匂いが籠らないから後片付けも簡単だ。
「これ、私の部屋に安置していい?」
「勿論いいぞ。従者は追々彫るから、彫ったら一緒に並べてやってくれ」
良い具合にリフレッシュ出来たので試験勉強に戻る。半年後には舞も同じ中学校に通う事になる。その時に兄として恥ずかしくない実績を残しておかなければならない。
「ヤバい、数学の点数悪かったから母ちゃんに説教されたよ」
「俺は国語と社会が酷かった」
テスト明け、登校時にチラホラと成績を嘆く生徒の声が聞こえてきた。ならば勉強すれば良いのだが、分かっていても出来ないのが大半の中学生というものだ。
「滝本君、今回の中間テストでは全教科で学年一位でしたよ」
「そうですか。頑張って勉強した甲斐がありました」
知恵を司る文殊菩薩騎獅像を彫ったのが効いたのだろう。あの後試験前に従者四体も彫って舞に渡してあった。
「この成績ならどの進学校も選り取り見取りで選べるけど・・・」
「進路希望は探索者養成高校です」
俺には学歴なんかよりもダンジョン探索の為の知識を得る方が余程重要だ。それを曲げるつもりは微塵もない。
「そうよね。もうソロで十九階層まで行ける実力があるのだから、将来は探索者よね」
「先生、順序が逆ですよ。実力があるから探索者になるのではなく、探索者になる為に実力を付けてきたのです」
体質とスキルにより有利な事は否定しない。それらを得たのは自分の努力ではなく運である事も否定しない。
しかし、力を制御し自在に身体を操れるよう努力してきた自分を否定する事もしたくない。
何を神から与えられ、何を自分で獲得したのか。それをきちんと把握し、更に何を得なければならないかを考える事が重要だと俺は思う。
「わかりました。実は、滝本君を進学校に入れて学校の実績にするべきだという声も上がっているのよ」
「学校としては一人でも良い学校に進学させた方が評価は高くなりますからね」
わかりやすい評価だけにそれを求めるのは仕方ないとも言える。しかし、当の生徒の希望を軽んじてまで求める事だろうか。
「先生方から何を言われようとも俺の意思は変わりません。他の先生方にもそうお伝え下さい」
「そうするわ。もし他の先生方に何か言われたら私に伝えてね」
成績は良いに越したことはないと思って頑張ったが、少々やり過ぎたかもしれない。かと言って手を抜くのも自分に合わない。
これが面倒な事にならなければよいのだけど。




