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第108話 脱出

 アルフェのかわいらしい歌声が、冷たい地下牢に響いている。最初は気を紛らわせるために歌っていたものだったが、ホムが自然に身体を左右に揺らし始めたのを見て、アルフェ自身も楽しくなってきたようだ。


 僕としても、この状況は助かる。子供らしさがあるだろうし、アルフェが泣いていたり不安がっているよりもずっと心が落ち着く。


 こういう異常な状況ではきっと『普通』ではないのだろうけれど、僕たちらしいと言えば僕たちらしい。ホムもアルフェを気遣って合わせて居るというよりは、自然と身体が動いているようだ。多分、僕自身もアルフェの歌を聴いているときはあんなふうに身体を左右に揺らしているんだろうな。だって僕は、アルフェの歌がすきだから。


 そんなアルフェの歌が心地良いのか、見張りに寄越された髭の男も目を閉じてじっとしている。僕たちが子供だということもあって、すっかり油断しきっているようだ。この様子だと、多分そのまま眠ってしまいそうだな。


 ああ、そうだ。今ならば気づかれる心配もないだろうし、このまま眠らせてしまうのが手っ取り早そうだ。


 誘眠(レム)の魔法を使えば、僕の独房からもあの見張りの座っている場所に届くだろう。詠唱が長いのが厄介だが、それもアルフェに合わせて歌えばきっと気づかれない。


 さっそく真なる叡智の書(アルス・マグナ)を取り出すと、該当のページが自動で開かれた。


 ホムに牢の奥へ下がるように目で合図し、アルフェの牢へと手を伸ばした。アルフェは歌を続けながら、僕の手を取り、握り返してくれる。


「眠りに誘う夢魔達よ。我の前へ現れ、虚ろへといざない給え。安息の眠りをもたらしたまへ。……誘眠(レム)


 アルフェの歌声と僕の詠唱が重なり、心地良く耳に届く。予想どおり術式阻害の影響はない。見張りの男は全く気づかずに、誘眠(レム)の白い霧に包まれて深い眠りへと落ちていった。


 これで当分は代わりの見張りも来ないだろうし、かなりの時間が稼げる。

 次は、この鉄格子をどうにかしよう。僕の意思を反映し、真なる叡智の書(アルス・マグナ)のページがぱらぱらと(めく)れていく。


 この火炎魔法を使えば、鉄格子を溶断できるだろう。必要なエーテルは僕のなかから無限に湧き出してくる。出力も問題ないはずだ。


「溶断の光をこの手に……フレアトーチ」


 ページに書かれている詠唱文を唱え、手を翳す。僕のエーテルに反応し、鋭いナイフのような火口が出現すると、鉄格子を焼き切った。


 僕は炎魔法(フレア・トーチ)を用いて鉄格子を切断して外に出ると、まず最初にアルフェを、続いてホムを牢から救出した。


「鎖を切るだけではダメです。枷ごと外してください」


 ついでに、ホムを拘束していた手枷と足枷も外しておこうと手をかざしたところで、ホムが首を横に振った。


「しかし、それではお前が火傷を――」

「アルフェ様、わたくしに治癒魔法をかけていただけますか?」

「でも……」


 ホムのお願いにアルフェは迷っているようだ。治癒させれば良いとホムは言うが、火傷の痛みは感じるはずだ。感情抑制と同じように痛覚も鈍くしてあるし、僕も魔法の威力を加減するよう努めるが、やはり相当な痛みを伴うのは目に見えている。


「大丈夫です。出来るだけ身軽になりたいのです」


 ホムの決意は変わらず、僕はホムの意思を尊重することにした。


 かなり慎重に加減したものの、火傷はやはりかなり痛々しいものになったが、アルフェのお陰ですぐに治癒できた。


   * * *


 アルフェの浄眼でエーテルの流れを見てもらい、見張りが他にいないことを確認して地上階へと戻る。


 子供の足では、すぐに追いつかれることが目に見えているので、まずはアーケシウスを回収することにした。


「……あった」


 アルフェは僕のエーテルを辿り、建物の南側の格納庫に駐機されていたアーケシウスを見つけてくれた。深夜ということもあってか、格納庫にも人気はない。


 並んでいたのは五機のガイスト・アーマーと呼ばれる機体だった。戦闘用に武装された従機で、起伏に乏しい寸胴の胴が特徴的だ。この胴体の上が剥き出しの操縦槽になっていて、操手が上から乗りこむことで起動する開放型の操縦槽という規格を取っている。


 安全性の問題からほとんど採用されなくなった機体だが、こうした非合法の組織では重宝しているのだろうな。あの偽都市間連絡船も、恐らくはスクラップ同然のものを改造しているのだろう。そう思うと、格納庫の周辺や廃材置き場に散らばっているジャンク品や鉄屑の山々にも頷ける。


 さて、操手が近くにいないとはいえ、魔導炉の出力が高く、機兵に近い戦闘能力を持つガイスト・アーマーに動き出されると厄介だな。まともに戦えば、僕のアーケシウスではまず勝ち目がない。


 まずは、これらのガイスト・アーマーを起動不能にしておく必要があるだろう。


 僕は直立姿勢で駐機されているガイスト・アーマーの背後に回り、背中の魔導炉を確認した。二つある魔導炉から、機体の頭部へとエーテルを流すための動力パイプが胴体の下部を通って伸びている。このパイプを切ってしまえば、頭部の魔導制御回路(スフィア)にエーテルが送れなくなるので起動できなくなる。


「アルフェ、ホム。脱出前にこのガイスト・アーマーの動力パイプを切断しよう」

「うん」

「承りました」


 アルフェとホムがそれぞれ頷き、ガイスト・アーマーの動力パイプと向き合う。ホムは奥の一機の動力パイプに早速手をかけ、力尽くで引きちぎった。パイプ内に残っていた液体エーテルが漏れ出して、床を濡らしていく。


「これ、使わせてもらうね。液体よ、刃となれ。ウォーター・ブレード」


 アルフェが漏れ出した液体エーテルを凝固させ、鋭い刃を作り出す。円盤のような変わった形をした刃を生み出したアルフェはそれを操り、動力パイプを次々と切断していった。


 僕も同じ魔法を使ったが、真なる叡智の書(アルス・マグナ)の簡易術式から呼び出されたのは切れ味の良い小型の剣だ。同じ魔法でも、やはりアルフェの魔法はずば抜けた創造性を発揮しているな。


 五機全ての動力パイプを切り終え、改めて格納庫を見渡す。アーケシウスとガイスト・アーマーの間に不自然に空いている箇所があったので、もしかすると一機は外に出ているのかもしれない。


 他になにかやるべきことはあるだろうかと考えていると、アーケシウスがいる格納庫の端に小さな通信室があるのが見えた。


 念のため、通信室に入り、手早くトーチ・タウンの基地に暗号通信を送っておく。これは保険だが、もしも父が、僕たちの身を案じているならば、生存だけは知らせておきたかった。


「アーケシウス、液体エーテルはまだたくさんあるよ」

「点検も済ませておきました、マスター」


 僕が暗号通信を送っている間に、アルフェとホムはアーケシウスがいつでも起動できるように準備してくれていた。言われなくても行動してもらえるのは、本当に助かるな。


「よし、これで脱出しよう」


 アーケシウスに乗り込んだ僕は、いつも通り起動して格納庫を出た。その時だった。


 ――――!!


 けたたましい警報音が鳴り響いた。


「……っ、警報装置か……」


 慌てて格納庫の入り口に首を巡らせると、停止用の赤いボタンがあるのが見えた。


「ホム!」

「かしこまりました、マスター」


 ホムが僕の命令を察して警報装置のボタンを押す。警報音は止まったが、今ので完全にここにいる男たちに、僕たちの脱出を知らせることになってしまった。


「逃がすな!」

「追え、追えー!」


 警報音で叩き起こされた男たちが、格納庫に集まってくる。


 とはいえ、移動手段であるガイスト・アーマーは動力パイプを切断してあるのですぐには動けない。今ならば、アーケシウスで逃げ切れるはずだ。


「このまま突っ切る。アルフェ、しっかり捕まって」

「わかった!」


 僕はアーケシウスを夜の闇に向けて全力疾走させた。

ガイスト・アーマー

 挿絵(By みてみん)


200年ほど前に起きた第三次聖帝戦争の頃に開発された戦闘用従機。

当時はアルカディア帝国軍の主力従機として使われていたが、現在ではロートルとなり一線を退いている。

武装を腕ごと換装することで様々な状況に対応できて汎用性が高い。

また、上部剥き出し型の操縦槽を採用していることから製造コストも安い。

しかし、機体を操る操手の安全性が確保できない前時代的な設計思想であるため、現在ではこの方式の操縦槽を採用する機体は殆ど存在しなくなった。

戦争当時に大量に生産されたこともあり、スクラップパーツの確保が容易で自前でこの機体を組み立てることもできる。

そのせいか野党や非合法集団でよく使われている。

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\カクヨムでも連載中/


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