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JOKER



「――――鹿野葉月。お前は、JOKERだ」



 ――ピタリ、と。



 幸仁の呟かれる言葉に反応した葉月が、幸仁を痛めつけるその手を止めた。



「……なんの話?」



 ジッと葉月が幸仁を見据える。

 一見すると興味が惹かれたように思えない表情だったが、幸仁は彼女の瞳が警戒の色を浮かべるのを見逃さなかった。



 ――かかった。


 と、幸仁は内心でそう思う。それからゆっくりと、葉月に向けて言葉を紡ぐ。



「お前の、スートだよ。俺たちに与えられた能力は、各個人で全員異なる。それは、『シークレット・リヴァイヴ』が始まった時に説明されたことだ。――鹿野。俺が知ってるテメェの能力は、〝手に触れた物をイメージ通りの硬度に変えることが出来る能力〟だった。にもかかわらずお前は今、違う能力を使ってる。……おかしいよな?」



 焼け付くような激痛が傷口から全身へと走る中で、幸仁は額に脂汗を浮かべながら笑った。



 一人一つだという能力を複数使うことが出来るスートを幸仁は知っている。

 あのホールに集まった参加者は54人。この『シークレット・リヴァイヴ』がトランプのスートと数字を使っている以上、JOKERというどこにも属さず、どのスートと数字にも成り代われるワイルドカード(はみ出し者)は、幸仁の他にもう一人存在していることになる。



「俺たちは『シークレット・リヴァイヴ』っていうゲームルールに、縛られてる。縛られてる以上、テメェの能力は絶対に一つだ。……けどその縛りも、JOKERの能力なら打ち破れる。他人のスートと数字、能力を使うことが出来るJOKERなら関係がなくなる」



 葉月に斬られた傷の痛みに耐えながら、幸仁は言う。

 そうしながらも、幸仁は葉月へとニヤリと口元を吊り上げて見せる。



「…………へぇ」


 と葉月が幸仁の言葉に笑った。



「そこまではっきりと口にするってことは、広野くんもJOKERなんだ?」

「……さあな。俺のスートと数字は、〝他人のスートと数字を言い当てる〟クリア条件を持つ、♧の7かもしれないぜ?」

「あはははは!! そこまでJOKERのことを詳しく言い当てておいて、その言い訳は厳しいんじゃない?」



 葉月は、そう言って笑みを浮かべると、幸仁をジッと見据えてニンマリと唇の端を吊り上げた。



「――――そこまでバレたんなら、もう隠す必要はないね。うん、そうだよ。広野くんの言う通り。私のスートは、JOKER。能力は、〝目の前で死んだ人のスートと数字、そして能力へと成り代わる能力〟だよ。広野くんもJOKERなら、同じような能力でしょ?」



 その言葉に、幸仁はなるほどと納得した。

 あのルール説明の場で、葉月の目の前で死んだ参加者は二人。つまりは、幸仁がコピーをしたそのスートと数字、能力は、葉月があの場で成り代わった人物が持っていたものらしい。



「それで? 私のスートがJOKERだってことが分かったからどうしたっていうの? それを脅しの材料に命乞いでもするわけ?」



 葉月は冷たく目を細めながら幸仁に向けて言った。

 その言葉に、幸仁は精一杯の虚勢を張るように葉月を見据えて口を開く。



「…………分からないのか? お前が他の参加者のスートや能力を成り代われるように、俺もJOKERなら、今のお前の能力を使えるってことだ。確か、〝生きている人の身体の状態を六時間前の状態へ巻き戻す〟能力だったか? お互いに同じ能力を使うんだったら、俺と鹿野、どっちが勝つんだろうな?」

「さあ? そんなこと、殺し合ったことがないから分からないよ」



 葉月は幸仁に向けて感情を抑えた平たい口調で言った。



「お前が、俺に勝てるわけねぇだろ」


 と、幸仁は葉月に向けて口元を吊り上げて見せる。



 葉月はそんな幸仁の様子を見て小さく鼻を鳴らすと、幸仁の太腿に突き刺さった刀の刃を引き抜いて、柄の部分で幸仁の頭を殴りつけた。



「……気に入らない。気に入らない! 気に入らない!! 私のスートが分かったから何? 広野くんがJOKERだったから何? そんなの、今すぐここで殺しちゃえば何の関係もないよね?」



 そう言いながら何度も、何度も、葉月は幸仁を刀の柄で殴りつける。

 殴られるたびに幸仁の視界には星が舞って、口の中には鉄の味が広がっていく。



「満足に腕も動かせず、足も動かすことが出来ない広野くんに何が出来るの? ねぇ、教えてよ!」



 葉月は、トドメとばかりに幸仁の頬を殴り飛ばした。

 床に倒れた幸仁は、顔だけを動かして葉月を見上げると、虚勢を張るようにその唇をまた吊り上げる。



「――――本当に、分からないんだな。あのホールで、『シークレット・リヴァイヴ』のゲームルールを一緒に聞いただろ。その時、あのスピーカーは何を言ってたんだ? 『スートと数字、クリア条件、能力は各個人によってそれぞれ異なる』って言ってなかったか? 同じJOKERでも、同じ発動条件の能力が与えられているなんてありえない。そうだろ?」


「――――っ」



 その言葉に、葉月が初めて動揺を示した。



「ハッタリでしょ。嘘もいいところよ」


 と葉月は言った。



 だが、その言葉とは裏腹に、幸仁の言った言葉の可能性を少しでも考えたのだろう。葉月は攻撃の手を止めてしまった。



 その隙を、幸仁は見逃さなかった。



「それじゃあ、試してみるか?」



 言って、幸仁は痛みに耐えるようにして身体を起こすと、ゆっくりと右手を葉月へと伸ばした。

 瞬間、幸仁の動きにビクリと肩を震わせた葉月が飛び退るようにして幸仁から離れる。



「……どうした? 俺の言葉をハッタリだと言ってる割には随分と警戒してるじゃないか」

 呟き、幸仁は口元を歪めて笑った。内心に浮かぶ焦りをおくびにも出さないまま、幸仁は虚勢を張り続けた。

「…………ッ!」



 対して、葉月は幸仁のその言葉に唇を噛みしめていた。

 瞳孔が細かく揺れ動いているのを見るからに、葉月は幸仁の言葉を無視できないようだ。


 その様子を見て、幸仁はそうだろうなと心の中でほくそ笑む。


 会話が無かったとはいえ、仮にもクラスメイトの仲だ。葉月は幸仁の体力も身体能力の高さも知っている。おそらく葉月は、今の能力を幸仁に奪われたら、真っ向勝負では敵わないということを薄々感じているのだろう。



「…………」

「…………」



 互いの出方を伺うような睨み合いが続いた。

 どちらか一方が動き出せば、今すぐにでも殺し合いへと発展するかのような緊張感がそこにはあった。


 会話が途切れ、二人の間に沈黙が広がったからだろうか。ジーという機械が発するノイズ音がさきほどよりも大きく聞こえる。



 その音に、幸仁だけでなく葉月もようやく気が付いた。



「ふ、ふふ」



 ふいに、沈黙を破るかのように葉月が笑い声を上げた。



「ふふふ、あははははははは!! なんだ、そういうこと! あははははははははは!!」



 笑い、葉月が目を天井へと向ける。そこには、天井に取り付けられたスピーカーがある。



「急に、広野くんがすごい喋るから何があるのかと思って警戒してたけど。狙いは、ステージ終了のアナウンスが鳴るまでの時間稼ぎか。確かに、そろそろ時間だもんね。……だったら、残念だったね。その作戦は、私が時間切れに気が付かないからこそ成立する作戦だよ!」



 言って、葉月は幸仁に向けて刀を構えると、地面を蹴って幸仁に向けて飛び掛かった。



「時間切れの前に、殺しちゃえば意味なんてないよね!!」



 叫び、振り上げた刃を葉月は振り下ろす。

 その刃を幸仁が能力を使って防がないのを見て、葉月は確信した。

 


 唯一懸念していた、幸仁の能力が未だに使われない。彼のスートがJOKERだろうがJOKERじゃなかろうが、おそらくきっと、彼の能力はこの場では使えない能力なのだ、と。



「や、やめ――!!」



 慌てるように幸仁は言って、自らの身体を守るように手を伸ばす。

 けれど、そうしたところで何もかもが遅いことを葉月は気が付いていた。



「――――が」



 刃は幸仁の身体に吸い込まれ、肉を裂いて血を舞い上がらせた。

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