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ゆっくり、じわじわと



「助けてあげるよ。その傷、私が治してあげる。広野くんは、私の手で殺すの。ゆっくり、じわじわと殺してあげるの。そんな死にかけの広野くんを殺しても面白くないから、治してあげるよ」



 吐き出されたその言葉の意味が理解出来ず、幸仁はしばしの間茫然とした。


 ……今、コイツは何を言ったんだ? 助ける? この死にかけを? いったいどうやって? 


 幸仁の頭の中で言葉がぐるぐると回る。葉月の持つ能力を知っているからこそ、幸仁は葉月が傷を癒すことが不可能だと分かっている。



 そんな幸仁の顔がよほど面白かったのだろう。

 葉月はクスクスとした笑みを浮かべると幸仁に向けて手を伸ばした。



「大丈夫、安心してよ。同じクラスメイトっていう仲間じゃない」



 優しい言葉とは裏腹に、葉月の口元は歪んでいる。

 その醜悪な笑みから葉月がロクでもないことを考えていることを幸仁はすぐに察したが、瀕死となったその身体はもはや動かすことも出来ず、ただただ葉月からの施しを受け入れる他になかった。


 ――幸仁へと伸ばした葉月の手から眩い光が溢れ出した。


 その光は幸仁の身体へ降り注がれると、瞬く間に傷へと沁み込んでその傷を再生し始める。



「――――なんだ、これ」



 身体を苛んでいた痛みが嘘だったかのように引いていく。

 いくら吸えども楽にならない呼吸が一瞬にして楽になり、酸素不足に陥って錆び付いていた思考が急激に回り出す。

 奇跡としか言いようのないその力に、幸仁はただただ唖然として葉月の顔を見つめた。



「何って、能力だよ。私の能力。〝生きている人の身体の状態を六時間前の状態へ巻き戻す〟っていうね」



 そんな幸仁に向けて、葉月は至極当然だとでもいうかのように言った。



「簡単に言ってしまえば、肉体の再生ってところかな。六時間前っていう制約があるけど、六時間前がよほどの死にかけじゃなければ傷を治すことに使える能力なんだ。逆に言えば、六時間前が死にかけだったならその状態にまた戻すことが出来る。便利だよね」



 葉月はそう言うと、口元だけに笑みを浮かべる。



「さて、これで広野くんがひとまずすぐに死ぬことは無くなったかな。それじゃあ、まずは……。抵抗されたら敵わないから、腕をもらうね?」


 言って、葉月は刀を振り下ろす。



 真っすぐに振り下ろされたその切先は幸仁の肩口に深く沈み込んで、焼けるような激痛を幸仁に与えた。



「ぐ、ぁあああああ!!」

「良い声だね。さ、次は反対だよ」



 悲鳴を上げる幸仁を無表情に見下ろして、葉月はまた刀を振るう。

 振るわれた刀は幸仁の反対の肩口も深く傷つけて、幸仁の腕の動きを完全に封じた。



「ぐぅっ!」

「さて、これで広野くんは簡単には腕を動かせなくなったから……。あとは、逃げないように足を貰うね?」



 次いで、葉月は刃を翻し幸仁の太腿に深く刀を突き刺すと、そこでニコリとした笑みを幸仁に向けた。



「これで広野くんは逃げられないし、私を攻撃することも出来ない。何か能力を使おうにもこの状況なら私の攻撃の方が早い。今、広野くんの命は私が握ってるの。分かる?」


「っ、ぐ…………。分かりたくもねぇな。わざわざ死にかけの人間を生かしてまで、嬲り殺しにする必要がどこにあるんだよ。『ゆっくり、じわじわと殺す』だと? 随分とこのゲームに染まったじゃねぇか、鹿野」


「染まった? ううん、違うよ。私は何も変わってない。お友達には優しいもの、私。……その代わり、お友達じゃ無くなった人には厳しいけど」



 葉月はそう言うと、幸仁の太腿に突き刺さった刃をぐりぐりと動かした。



「く、あぁッ!」

「痛い? 苦しい? そうだよね。苦しいよね。うん、分かるよ。でも、しょうがないの。これは、()()()()()()()()()()()()



 葉月は目を細める。その瞳に嗜虐の色が浮かぶのを幸仁は見逃さなかった。



「クラスの、人気者が聞いて呆れるぜ。あのクラスメイト達が、テメェの今の姿を見たらびっくりするだろうな。いくら人を殺したからといって、十数時間ですぐにその性格が歪むはずがない。……テメェは、ずっとクラスのみんなに隠してたんだ。胸糞悪いその性格を……。それが、テメェの本性か。鹿野ォ!」


「あはははははは!! だったらどうするって言うの? この状況で、今の広野くんに何か出来るの!?」



 声を荒げて、葉月は幸仁の顔を殴りつけた。

 衝撃で幸仁の目の前に星が飛ぶ。かと思えば、すかさず葉月は幸仁の太腿に突き刺した刃をぐりぐりと動かして、激痛を幸仁へと与えた。



「が、ぁぁあああ!!」



 叫び、幸仁は痛みに耐えるように奥歯を噛みしめて葉月を睨み付ける。

 鹿野葉月は、広野幸仁を間違いなく殺すつもりだ。それも、一息にではなくじわじわと嬲り殺しにするようにして。



(……くそ、どうする。いったい何が出来る!?)



 幸仁は痛みに耐えながらも必死で思考を回す。

 理由は何であれ、葉月の能力によって繋ぎとめた命だ。まだ死んでいないのであれば、必死に生き延びる術を考える他ない。助かった命を、幸仁はわざわざ無残にも散らすわけにはいかなかった。



(どうする、どうする、どうする!? 腕はもうほとんど動かない。俺の今の能力を発動させるには腕を大きく振らなきゃいけない!! そんなの、この腕の状態じゃ無理だ! 逃げようにも、片足をやられてるッ! いったい、どうすれば――――)



 いくつもの選択肢が幸仁の中で浮かび、非現実的だと却下されていく。

 どうにかしようと思考を回せば回すほど、状況が悪すぎるとかえって現実を叩きつけられる。


 もう、本当にここまでなのか。


 そんな諦めの言葉が幸仁の中で浮かんだその時、ふいに幸仁の耳にその音が聞こえてきた。



「…………?」



 古い機械が発するような小さなノイズ音。

 目を向けると、通路にぶら下がるシャンデリアの付け根の天井にスピーカーが埋め込まれているのを幸仁は見つけた。



「―――――ッ!」



 幸仁の中で思い当たる一つの可能性。

 違うのかもしれない。間違っているのかもしれない。もしかしたら、気のせいなのかもしれない。

 そんな弱気な考えが脳裏に過ったが、幸仁はその考えを一蹴する。



(……活路は、ここだ)



 幸仁は、その可能性に全てを賭けてみようと覚悟を決めた。



(だったら、後は時間を稼ぐだけ……。鹿野が食いつく話題なら何でもいい。何か――。何かないのか)



 幸仁は記憶を掘り起こす。

 これまでに知る、鹿野葉月という少女のことを思い出す。

 しかし、いくら思い出したところで幸仁は葉月との間で共通する話題が一つも思い浮かばなかった。



(――クッソ、こんな事ならもっと生きてる間に鹿野のことを知っておくべきだった!)



 心の中で吐き捨て、幸仁は唇を噛みしめる。

 生前の記憶の中からいくつかの話題を思い浮かべたが、どれも葉月の興味を引けそうにもないと幸仁は思った。


 それから、自然に幸仁は『シークレット・リヴァイヴ』のことを考えて、ふと思い当たる。



(――――そうだ、そう言えば、どうして鹿野は能力を二つ持っているんだ? 俺が前に鹿野の能力をコピーした時は傷の再生なんか出来ないものだったはず……。だいたい、能力は一人一つじゃなかったのか!? こんなの、まるで俺の持つ能力と同じ――――)



 そこまで考えて、幸仁はハッと気が付き思考を停止した。


 葉月と再会した時から気になっていた違和感。ボロボロの衣服と、傷一つないその身体。葉月が語った話の中で出た、手足を斬りつけられたという言葉と、たった今起きたありえないこの状況。

『シークレット・リヴァイヴ』のゲームシステムと、それらが指し示す一つの答え。



 ――コレだ、と幸仁は思った。



 時間を稼ぐのなら、この話題しかないだろう。


 息を吸い込む。葉月の目を見据えて、幸仁は口を開く。


「――――鹿野葉月。お前は、JOKERだ」


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