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三つ巴の行方



「ふぅうううううう…………………」


 息を吐き出す。



 作戦は決まった。幸仁は覚悟を決めて、男と少女へと目を向ける。



 男は憎悪に染まる目を幸仁と少女に向けた。

 少女もまた、怒りに燃える目を幸仁と男に向けた。

 この場にいる全員が、互いを殺して絶対に生き残ろうと固い決意を浮かべた。




 ――そして、その時はやってくる。




 動き出しは全員ほぼ同じ。

 幸仁は男に向かって、男は幸仁に向かって。少女は男に向かって、一斉に動き出した。



「死ねやクソガキィイイイイイイイ!!」



 男が叫び、腕を振り上げる。

 その腕が振り下ろされるよりも早く、幸仁は瞬間移動によってその場から離れる。

 次の瞬間、幸仁の消えたその場所に向けて、男の放つ見えない刃が飛び出した。



「チッ!」



 男は飛び出した刃が壁を壊すのを見ながら舌打ちをする。

 そんな男に向けて、飛び出した少女がドス刀を振り抜いた。



「死ねよ、おっさん!」



 少女が振り抜いたドス刀が男の眼前に迫る。

 しかし男は、少女が飛び出してくるのを読んでいたのだろう。

 捻るようにして刃を避けると、カウンターを放つようにして少女に向けて蹴りを放った。



「ッ、ああッ!」



 少女は男の蹴りを腕で受け止めた。

 お返しとばかりに少女はドス刀を翻すが、その刃も男は避けて見せる。

 その瞬間、その場から離脱していた幸仁が男の背後に現れた。



「――――ッ!!」


 幸仁は手を伸ばす。



 気が付いた違和感を元に練った作戦を行動に移すために。

 この三つ巴の戦いでの勝利を掴むために。



 幸仁は、()()()()()()()()()()()()()()()()()、男に向けて必死で右手を伸ばした。



「ッ!?」


 幸仁に右手で押された男が声のない声を上げた。



 幸仁の出現に気が付いた少女が、腕を伸ばした幸仁を斬りつけようとドス刀を構えた。

 男も身体を押された原因がすぐに幸仁だということに気が付いて、幸仁を切り裂こうと右腕を構える。



 殺意を込められた二つの刃が、幸仁の姿を捉えた。



 ――――しかし、それよりも早く。

 誰よりも早く、幸仁はその行動を終えていた。





「斬り裂けぇええええええええええええええええええええええええ!!」





 幸仁は叫び、腕を振るう。



 瞬間、幸仁の腕から見えない刃が飛び出した。



「――――なっ!?」


 と声を出したのは男だった。



 ありえないその光景に目を大きく見開き固まる。

 幸仁が放ったその刃はブレることなく真っすぐに進み、男の首をいとも容易く切断した。



「――――は?」



 切断された男の首から舞い散る血を見つめて、少女が呆けた声を漏らす。

 どうしてアンタがその能力を使用できる?

 そんなことでも言いそうな顔で幸仁を見つめて、その瞳が再び腕を振るう幸仁の姿を捉えた。



「――――ッ!!」



 反射的に少女は動いた。

 理由は分からないが、この少年は今や死んだ男と同じ能力を使用している。その事実に少女は気が付き、必死で回避行動を取る。



 けれど、それも全て遅かった。



 少女が回避行動を取ったその瞬間、少女の動きを先読みしていた幸仁が腕を振るったのだ。



「――――なんで」



 少女の言葉は最後まで続かなかった。

 飛び出した刃が瞬く間に少女の元へと迫り、少女の首を斬り飛ばしたからだ。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………………」



 腕を振るった体勢を解いて、幸仁は荒い息を吐き出す。

 ゴトリと、斬り飛んだ二つの首が地面に転げて、ドサリと首のない二つの身体が床に倒れた。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」


 幸仁は荒い息を吐き出したまま、ゆっくりと指輪を拾い上げて首のない二つの身体へと目を向ける。



 男は完全に絶命していた。ピクリとも動かないその身体の断面からは大量の血が流れだしている。驚愕の表情で固まったその生首を見るに、絶命するその間際でも自分の身に何が起きたのか分からなかったのだろう。



「はぁ、はぁ、はぁ…………。悪いな。奥の手は、最後の最後に使うって決めてんだ」


 幸仁は男に向けて言う。



 それから、幸仁は視線を動かし少女へと目を向けた。

 少女の身体からは血がほとんど流れていなかった。それは、これまでの少女を見ていればおおよそ察することの出来る状態だった。


 幸仁にとっての問題は、ただ一つ。首を飛ばした少女が、生きているのかいないのかだ。



「…………致命傷を受けても死なない身体。この殺し合いで、ありえないぶっ壊れた能力だ」



 幸仁は別れた少女の首と身体に向けて呟く。



「でも、だからこそおかしい。この『シークレット・リヴァイヴ』は、生き返りを賭けたゲームだとあのスピーカーは言っていた。一度死んだ俺たちが生き返るには、クリア条件を満たす必要があるが……。クリア条件を見れば全員が生き返れるわけじゃないことは容易に想像がつく。問題は、この『シークレット・リヴァイヴ』が、全員の参加者が()()()縛られるルールというものが存在しているゲームという体を成していることだ」



 幸仁は壁際に近づき、背中を預けて座り込んだ。

 立っているのも限界だった。気を抜けば意識を失いそうだった。


 けれど、まだファーストステージは終わっていない。まだ、この戦いの終着を確認していない。


 だから幸仁は、この場で死亡が確認されていないその身体に向けて、言葉を続ける。



「ルールがあり、誰しもが一応はクリア出来る条件があり、加えてこれがゲームだとするならば…………。お前のように、ゲームルールから逃れられるような、決して死なないなんて能力は俺たち参加者には与えられないはずだ」



 幸仁は静かに右腕を構えた。腕を振り下ろせば、いつだってその腕から刃が飛ばせるようにした。



「…………お前の能力は、致命傷を受けても死なない能力なのは間違いない。だが、ゲームルールに乗っ取った方法ならどうだ? 例えば腕時計。この場でお前の腕時計を破壊し、二度と動けないよう両手両足を斬り飛ばしたら、お前はどうなるんだろうな?」

「……………………その時は、間違いなくウチは死ぬだろうね」



 幸仁の問いかけに答えたのは、幸仁が放った刃によって飛ばされたはずの少女の首だった。




 少女は生きていた。首を飛ばされながらも、本来ならば即死であるはずなのに、少女は未だ健在だった。


 少女は口元に笑みを浮かべると、幸仁の言葉に答える。



「アンタの言う通りだよ。ウチの能力は、〝頭を潰されない限りどんな傷を受けても身体が動き続ける〟っていう能力だ。…………まあ、簡単に言えばゾンビってやつ? だから、身体と頭を斬り飛ばしたとしても、動き続けることが出来る。――けど、不死身じゃない。このゲームのルールには逆らえない能力になってる」


 言って、少女はそれを証明するために身体を動かして自らの首を拾い上げた。



 その行動に、幸仁が腕を振り下ろそうとする。

 すると、少女は慌てるようにして口を開いた。



「待った! 待って、待ってって!! もうアンタと戦う気はない。っつーか、一度負けたんだしアンタに逆らうつもりはないって! 指輪もアンタにあげる。実を言えば、ウチはもう一つ指輪を持ってるんだ。ほら」



 そう言って、少女は首のない身体を動かしポケットから小さな指輪を取り出した。

 どうやら、少女は『クエスト』クリアのための指輪を二つ手に入れていたらしい。

 その事実に幸仁は視線を鋭くすると、少女へと向けて言った。



「二つあるなら、さっさと一つ寄こせば良かったものを……」

「逆に聞くけど、アンタはウチみたいに防御にしか向かないような能力を与えられた時に、指輪を二つ持っていたら襲い掛かってくるヤツに指輪をすぐにあげちゃうの?」



 その質問に、幸仁は何も答えることが出来なかった。

 すぐに指輪を渡せば、確かに無用な戦闘は回避できる。けれど、そこで抵抗する意思を見せなければ、自分は他にも指輪を持っているのだと暗に示しているようなものだ。

 奪うものと、奪われるものの間に生まれる、複数の指輪を手にしたからこそ生まれる駆け引き。

 攻撃に向かない能力を与えられたからこそ考える処世術。

 一つの指輪しか持っていないと装うことで、戦闘の果てにその指輪を奪われたとしても、隠し持つ指輪だけは守り切るという弱者の知恵だ。



「…………だったら、どうしてそれを俺にバラした? 今ココで、俺が残りの指輪を奪うかもしれないだろ」

「そのつもりがあるなら、とっくにウチは襲われてると思うけど? 私のような能力じゃない限り、アンタのその身体でこれ以上の戦闘は無理でしょ」



 少女のその言葉に、幸仁は大きく鼻を鳴らした。

 少女の言う通りだった。幸仁はもう限界だった。

 男からコピーをした能力を使おうと腕を持ち上げてはいるものの、その動作でさえ身体が悲鳴を上げていた。

 身体はまごうことなき満身創痍だ。これ以上の戦闘は無理だった。



「ふ、あははははは!!」



 だからこそ幸仁は笑う。

 額に汗を浮かべて、荒い呼吸を隠さないまま。意識が途切れそうになるのを必死に隠しながら、余裕のある表情を顔に張り付ける。



「試してみるか?」


 と、幸仁は言った。それが虚勢であることは誰の目から見ても明らかだった。



「………………」



 その言葉に、少女は何も答えなかった。

 じっと幸仁の表情を見つめて、やがて少女は深いため息を吐き出す。



「それだけの傷を受けてて、まだ元気があるなんて。…………アンタと戦うのは、もう止めとくわ。このゲームに参加して、手負いの人間ほど厄介なものはないって十分思い知ったし」



 少女の視線が、空虚となった右腕に流れた。

 いくら傷を負っても死なない能力だからこそ、少女は深く理解したのだろう。窮地に追いやられた人間こそ何をしでかすのか分からず油断ならないということに。



「その指輪をあげるから、ウチのことを見逃してくれる?」


 と、少女は言った。



「…………分かった」


 と、幸仁は少女の言葉に頷く。



 少女は幸仁の言葉に頷きを返すと、落ちていた自分の右腕を拾い上げた。

 片腕で自らの首と腕を抱いて、少女は幸仁から踵を返す。

 数歩ほどその足が進んで、ふいにピタリと少女の足が止まった。



「ああ、そうだ。別れる前に、一つ聞かせて。アンタ、何者? 急にこの男の能力使ったりしてたし、まさか瞬間移動の能力じゃなくてコピー能力者ってやつなの?」

「答えるつもりはない」

「ふーん…………。まあ、いっか。それじゃあ、アンタの名前を教えてよ」


 少女が振り返りながら幸仁に尋ねた。


「あぁ?」


 幸仁は、失いかける意識を手放すまいと奥歯を噛みしめながら、少女へと目を向けた。


「な、ま、え。あるでしょ、教えて」

「……どうして」

「どうしてって。これから先、お互いに生き残っていれば顔も見合わせるでしょ。その時に、またアンタなんて呼ぶのも変じゃない? こうして、互いに殺し合った仲なんだしさ。名前くらい教えてよ」



 名前を教えたとしても、このゲームには何のデメリットもない。

 むしろ、名前を教えることでこの少女が去って行くのならば、幸仁にとっては断る理由もなかった。



「…………広野、幸仁だ」

「おっけー、幸仁ね。ウチは坂上理沙って言うんだけど、まあ呼び方は何でもいいよ。生きてた頃は名前で呼ばれることが多かったかな」

「お前の名前なんかに興味ねぇよ。()()



 少女――理沙の苗字を強調して幸仁は口に出した。

 その言葉に、理沙は呆れたため息を吐き出す。



「……アンタ、捻くれてるってよく言われなかった?」

「うるせぇよ。また斬られたくなかったら、さっさとどっかに行け」



 幸仁は理沙を睨み付ける。

 その視線に、理沙は唇を歪めて嗤った。



「……まあ、いいや。それじゃあね、幸仁。また生きてたら殺し合いましょ?」



 再び踵を返した理沙は、今度こそ立ち止まらなかった。

 通路の奥へと消えていくその後ろ姿を眺めながら、幸仁は深く息を吐き出す。



「…………二度とゴメンだ。ゾンビ野郎」


 言って、幸仁は手に持つ指輪を硬く握りしめて立ち上がる。



 荒い息を吐き出しながら、幸仁は壁に手を付き理沙が消えた先とは真逆の通路へと足を向けた。



 『クエスト』クリアの指輪は手に入れた。

 しかし、まだ『シークレット・リヴァイヴ』のファーストステージは終わっていない。

 終わっていない以上、気を抜くことは出来ない。

 この館に生き残る餓鬼畜生は、まだ他にも健在しているのだ。



「どこかに、隠れないと」



 もう、この館を彷徨う必要はない。

 ゆっくりとした足取りで、幸仁もまた館の奥に消えていく。

 そうして、誰もいなくなった通路には、夥しい血の跡と男の死体だけが転がっているのだった。

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