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三つ巴の戦い


今回の話を読んでいただく前に、リアルタイムで追ってくださっている読者の皆様へお知らせです。


前回の話の最後に追加描写しています。

今回の話の始まりは前回の追加描写の続きからとなります。

一度、前回の話の最後を読み直してから今回の話へと進んでいただければ、違和感なく繋がるかと思います。


投稿後に修正となった形になり、申し訳ございません。

お手数ですが、よろしくお願いいたします。



「くっそ……」



 言葉を漏らし、幸仁は瞬間移動を使って眼前の少女から離れた。

 状況は最悪だった。指輪を巡った殺し合いに、第三者の横やり。拮抗した状況に不確定要素が入ったのだ。

 男は幸仁たちのもとへと歩みを進めると、ぴたりと足を止める。



「お前をずぅうっと、探してたんだぜ? お前があの時、俺に腕時計を渡さずに逃げやがったから、無関係な奴が一人、お前の代わりに死んじまったじゃねぇか」



 言って、男は幸仁を見つめてせせら笑う。

 幸仁は、男の言葉を聞いて男の腕へと視線を走らせた。



 男の腕には以前にはなかった腕時計が装着されていた。どうやら、男は他の参加者から腕時計を奪い、六時間ごとの()()()()から逃れたらしい。



「あー……。アンタ、あのホールで騒いでたヤツね」



 少女もまた、男のその言葉で男の正体に気が付いたらしい。

 少女は口の端を吊り上げて嘲笑すると、男の顔を見つめた。



「まさか、()()()()()鹿()がまだ生きてるなんて。とっくの前に死んでると思ってた」

「……なんだと?」



 幸仁だけを見据えていた男の視線が少女へと移る。



「おいコラ、テメェ…………。舐めたこと言ってんじゃねぇぞ? 殺すぞ?」



 男は、怒りを抑えるかのように頬をぴくつかせながら言った。

 その言葉を聞いた少女は、再び馬鹿にするように鼻で笑う。



「『殺すぞ』、だって。ダッサ。おっさん、マジキモイんだけど」



 それが男を挑発する言葉だということに、幸仁はすぐに気が付いた。



(……コイツ、なんでこの男を挑発してるんだ?)



 幸仁は二人のやり取りを見ながら眉根を寄せる。

 幸仁と男の間には少なからず繋がりがあったとしても、この少女と男の間には繋がりがない。男の言動を見ていれば、男の狙いが幸仁ただ一人だったことはすぐに分かっただろう。

 幸仁に指輪を狙われる形だった少女にとって、男の乱入は絶好の逃走を図る機会だったはずだ。


 ……それなのに、どうしてこの少女はわざと狙われるようなことを言うのか。



(――――なるほどね)



 幸仁は少女の持つ能力と言動から、少女の抱える事情に当たりを付けた。

 さしずめ、少女のスートと数字は〝合計して10名以上のプレイヤーから命を狙われる〟ことをクリア条件に持つ♢の3といったところだろうか。指輪を手にしながらも、見せびらかすように通路を歩いていた行動も、そのクリア条件を持っているのならば納得が出来る。



(まあ、今さらそれはどっちでもいいけどな)



 この少女がなんのスートや数字であろうが、『クエスト』には一切関係ない。

 幸仁の持つクリア条件は、〝最終ステージにおいて自分の他1名のプレイヤーがクリア条件を満たしている〟ことであり、今この『クエスト』中には気にする必要がないものだ。

 この『クエスト』でクリア条件を気にしているのは、指輪を手に入れて余裕が出来た参加者か、『クエスト』中とクリア条件の中で提示されている参加者、もしくはクリア条件があまりにもシビアすぎる難易度を持つ参加者だけだろう。



「テメェ…………。マジで殺す」



 少女の言葉に逆上した男が、腕を振り上げ構えた。

 それが、男の使用する能力の予備動作だということに幸仁はすぐに気が付いた。



「――――――」



 ジッと、幸仁は男の動きを警戒しながらも指輪の奪取に向けて意識を研ぎ澄ませていく。



「死ねぇやァ!!」



 男が叫び、与えられたその能力を発動させるべく腕を振り下ろした。

 それが、三つ巴の戦いが開幕される合図となった。




           ◇ ◇ ◇




 空気を震わせながら男の腕から飛び出す見えない刃が、通路の壁を切り裂き幸仁と少女の元へと迫る。



「ッ!」



 男の能力を初めて目にするであろう少女が驚きで息を飲んだ。



「――――見えない刃物ってこと!?」



 叫び、少女が通路の壁を切り崩し進む刃から逃れるように身体を倒す。

 少女の意識が男の能力に逸れたその瞬間を幸仁は逃さなかった。



「ふっ!」


 と、幸仁は短く息を吐いた。



 恵からコピーをした能力を使ってすぐさま少女のもとへと近づくと、その手に持っていた長ドスを振り下ろした。



「あー、もう! 寄って集ってキモイんだけど!!」



 怒りを露わにするように少女が叫んだ。

 崩れた体勢では避けられないと判断したのだろう。少女は幸仁の振り下ろされる刃をわざと受け止めるようにして身体を曝け出す。



「くぅッ――」



 振り下ろされた刃を受け止めて、少女の顔が歪む。

 幸仁はすぐに追撃を仕掛けようとくるりと身体を反転させて、横薙ぎに蹴り払うように右足を振り抜いた。



「ガキィ! 無視してんじゃねぇぞ!!」



 その瞬間、男の怒声と共に男の放った能力の刃が幸仁へと迫った。



「くっそ!」



 幸仁は蹴りを少女にぶつけて吹き飛ばすと、慌てて長ドスを翻して飛んでくる刃を受け止めた。

 瞬間、固い金属音が周囲に響き渡る。

 刃に押されるようにしてたたらを踏んだ幸仁は、体勢を整える代わりに能力を使うと瞬間移動をして男の元へと迫り近づく。



「――なッ!? お前ッ、なんだその能力は!!」



 急に目の前に現れた幸仁に向けて、男は驚愕の表情を浮かべながら言った。



「お前の能力は、〝物の硬さを変えられる能力〟じゃなかったのか!?」

「――――さあ? なんの話だ?」



 幸仁は男の叫び声に薄い笑みを浮かべて、男の息の根を止めるべく長ドスを振りかざした。



「他人の戦いに、くだらねぇ私怨で首を突っ込むからだ。……じゃあな」




 振りかざした刃を男の心臓へと狙い定めて、幸仁は一気にその腕を振り抜く――――。




「どーーーーーん!」




 唐突に、少女の声が響いた。

 気が付けば、いつの間に放り投げていたのか。幸仁と男の間に黒い筒状の物体が転がっていた。



「しまっ――――」



 幸仁はすぐにその物体が何であるか気が付いた。

 慌てて直撃を避けようと瞼を閉じるが、何もかもが遅かった。



 ――閃光、爆発。



 少女の手によって再び投げられた閃光手榴弾が爆発した。



「ぐっ」

「ぐあっ」



 直撃を受けた男と幸仁の動きが止まった。

 それを待っていたかのように、少女は幸仁に蹴られた体勢から素早く起き上がると、一気に駆け出して幸仁たちの元へと迫る。



「もう一回、どーーーーーん!」


 少女は走りながら、懐に手を突っ込んで幸仁たちに向けてソレを放った。


「またかッ!?」


 それを見て、男は二度目の直撃を避けるべく素早く倒れ込んで目と耳を塞いだ。


「っ……!」


 幸仁もまた、直撃を避けるべく瞬間移動でその場から離れると地面に倒れるように伏せて防御体勢を取る。



 しかし、男たちは気が付かなかった。

 少女の投げたそれが、先ほどのものとは違うということに。



「――――なんちゃって」



 少女が唇の端を吊り上げながら笑う。

 少女が投げたもの。それは、少女が幸仁に蹴られて地面を転がる間に拾い上げた、幸仁との戦いで使用し空になった閃光手榴弾だった。

 本来ならば爆発直後で熱されて手には持てないはずのそれを、少女は自分の皮膚が火傷になることも厭わずに隠し持っていたのだ。



「―――――っ!?」



 いつまでも爆発しない閃光手榴弾を見て、幸仁はすぐにその中身が空であることに気が付いた。



「ブラフ……ッ!」



 気が付き、慌てて立ち上がろうとするがもう遅い。

 近づいた少女は、幸仁の眼前でドス刀を振りかざしている。

 今まさに振り下ろそうとされているその刃から、幸仁は必死になって逃れようと能力を使って逃走を図ろうと能力を発動させた。



「遅いよ!」



 少女が叫び、刃が振り下ろされる。

 刃は幸仁の姿が掻き消える寸前、その残像を捉えるかのようにまっすぐに幸仁を袈裟懸けに斬り裂いた。



「ぐあっ!」



 襲い来る激痛に幸仁の口から苦痛の言葉が零れ出た。

 血を流しながら幸仁はその場から逃げ出すが、少女もまた幸仁が逃げることを想定していたのだろう。

 少女はすぐさま視線を切り替えて手に持つドス刀を翻すと、地面に倒れ込み未だ体勢を整え切れていない男の元へと素早く駆け寄る。



「あぁっ!」


 短い掛け声と共に、その刃は振り抜かれた。



「ぐ、アァァァアアアッ!!」



 刃は男の脇腹を深く斬り裂いた。

 瞬く間に男の足元には血だまりが出来て、赤い絨毯がそれを吸い込んでどす黒く染まっていく。



「テメェ、よ、くも!」



 憎悪に染まる男の瞳が少女の姿を捉えた。

 男は素早い動作で腕を振り動かすと、見えない刃を作り出す。


 少女は男の能力が、腕の動きに合わせて見えない刃を作り出すという能力だと見当を付けていたようだ。


 男の腕の動きを注視して、少女は確実にその刃を躱す。

 躱された刃が背後に並ぶ壁を切り裂く音を聞きながら、少女はやはり思った通りだと口元に笑みを溢した。



「アンタの能力、完全に分かったわ。〝腕を動かした方向に刃を飛ばす〟能力でしょ? ――――だったら、こうすればもう何も出来ないはずよね!!」



 少女がドス刀を振り上げる。

 振り上げられたドス刀を見て男は慌てて回避を試みようとしていたが、裂かれた脇腹の傷の痛みが、男の動きを数瞬止めた。


 そして、その時間は少女が男に向けてドス刀を振り下ろすには十分すぎる時間だった。



「い、ぎぃいいいいいいいあああああああああああああああッッッッ!!」



 振り下ろされたドス刀が、男の右の肩口に深く沈み込んだ。刃は男の腕を切断するまでには至らず、肩口の半ばでその動きを止めていたが男の腕の動きを止めるには十分すぎる傷だった。



「うるっさ」



 冷たい顔で少女が嗤う。まるで、男のことなど意にも返していない、虫けらでも見ているかのような目つきだった。



「て、てて、テメェ!! よよ、よく、よくも!!」



 痛みで歯の根が合わないのか、男が震える唇で憎悪の籠った言葉を吐き出した。

 男は残った左腕を必死に動かして刃を飛ばす。



 しかし、男と少女とでは相性が悪い。片や致命傷でも死なない身体を持つ能力者と、片腕を潰された刃を飛ばす能力者だ。



 少女は身体を捻りながら刃を躱していくが、その全てを躱せないのかその身体が徐々に裂け始める。その痛みで少女の表情は大きく歪むのだが、身体が傷つくことで恐怖する様子もなく、少女は冷静にドス刀を男へと狙い定めた。



「これで、アンタの能力はおしまい」


 少女は嘲るように言った。



 少女は確信していた。これで、この男は何も出来ない死ぬだけの存在になると。

 だが同時に、少女は知らなかった。


 窮鼠猫を噛むという言葉があることを。


 確定した勝利が得られるまでは、絶対に気を抜いてはならないということを。



「クソがぁああああああ!!」


 男が叫び、ズボンのポケットに手を突っ込む。



「あぁぁぁあああああああッッ!!」



 叫び、男は取り出したそれを少女に向けて突き出した。



 男が取り出したもの。それは、違法に電流改造がされたスタンガンだった。

 その道具は、男にとっての切り札だった。それをこの場で使用するつもりは無かったのだが、眼前に迫る死には背に腹は代えられないとその道具を使用したのだ。



「が――――」



 勝利を確信していた少女は、男のその行動に対応が出遅れた。

 結果として少女はそのスタンガンをまともに受けてしまった。

 いくら致命傷を負っても死なない身体とはいえ、スタンガンのように身体を痺れさせられれば動きが止まる。

 動きが止まってしまえば、それは十分な男の反撃の機会となる。



「テメェも同じにしてやるよ!!」


 言って、男が左腕を振るう。



 振るわれた左腕から飛び出した刃が少女の右腕に直撃して、刃は易々と肉と骨を断つと少女の腕を斬り飛ばした。


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