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♢4と虚言者



「……それで? 広野くんの能力は何なの?」


 それから、恵は話の矛先を変えるように、幸仁を見つめながらそう言った。



 その言葉に幸仁は口を開きかけて、閉じる。


 幸仁は悩んでいた。

 このまま、恵にだけは本当のことを伝えても良いんじゃないか、と。



 JOKERの能力は強力だ。いつでも自分好みの能力に成り代われるという点は、おそらく他の能力にはない唯一の武器であり、その能力を駆使すれば自分好みに場を有利に進めることが出来る心強い能力だ。

 この先、恵と共に行動をしていくのならばこの能力のことを伝えておいた方が咄嗟の際にいろいろと都合がいいのは確かだだろう。例えば、どうすることも出来ない緊急の際には恵に触れることでその能力をコピーし、互いに〝瞬間移動〟をしてしまえば恵の能力の欠点でもあるクールタイムが発生せず、その場から二人揃って逃走することだって出来る。


 それ以外にも恵の能力は様々なことに使えそうだが、幸仁が今すぐに恵の能力をコピーしないのは、二人が同一能力にすることで未だ底の見えない他の参加者の持つ()()()()()()()()が減ってしまうことを危惧しているためだった。



 これから先ともに行動するならば、今はまだ恵の能力はコピーしなくてもいい。コピーをするチャンスはきっと、この先いくらでもある。



(でも、ここでJOKERのことを黙っていれば、これがバレた時に信用は失うだろうな)



 おそらく、本当のことを話すのならば今ココが一番適切な場面だ。



「………………」



 しかし、だからと言って。幸仁は簡単にはJOKERの能力を他人に打ち明けることが出来なかった。



 JOKERは能力のコピーが出来なければ結局はただの無能力だ。能力の発動には条件があり、コピーをするために相手に近づき、右手で触れるという行為をしなければならない。


 もし、その条件を他の参加者が知ればどう思うだろうか。


 答えは簡単だ。JOKERの能力対策として、右手で触れられないようにしてくるに違いない。そうなれば、コピーをすることが出来ない幸仁自身ではどうすることも出来ず、ただ相手の能力に蹂躙されるだけだろう。



 ――出来るだけ、JOKERの能力を知る人物は少ない方が良い。



 それは、幸仁がこのゲームを始めてからずっと考えていたことではあった。



(JOKERの能力を明かすべきか、黙っているべきか…………)



 じっと考え、幸仁は結論を出す。


 質問には答えず、かといって腕時計すらも差し出さない幸仁に恵が怪訝な顔をしているのを見ながら、幸仁は無言で自らの腕時計の盤面に触れるとそこに表示される文字を待って、そうしてからようやくその盤面を恵に見せた。



「どうぞ。能力が表示されてます」



 そう言って、幸仁は腕時計に表示された、葉月からコピーをした能力の文字を恵に見せた。

 結局のところ、幸仁は恵にJOKERであることもその能力も全て隠すことにした。


 しかし、だからと言って能力を明かさないのも不自然だ。


 だから幸仁は、恵が幸仁にそうした時のように、本当のことは話さず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 幸仁の本当の能力はもちろんのこと、幸仁が葉月からすでに能力をコピーしていることを知らない恵は、そこに表示された文字を読んで真剣な表情となって考え込んだ。



「なるほど。これが、君の能力…………。あの男の攻撃から身体を守っていたのは、この能力で服の硬度を上げていたってこと?」

「ええ、この能力が無ければ俺は恵さんに助けられることもなく、あっという間に死んでいたでしょうね」


 と幸仁は、腕時計の文字の表示が切り替わる直前で次の表示される文字を読まれないよう腕を引きながら恵の言葉に頷いた。



「その、イメージ通りにって、限界はないわけ?」

「イメージがはっきりとしてればその通りになりますよ。例えば、このペットボトルをコンクリートのように硬くすることも出来るし、反対にどこまでも軟らかくすることも出来る」



 言って、幸仁はペットボトルを手に取り鉄をイメージする。幸仁の手から溢れる光がペットボトルに移ったことを確認すると、幸仁は全力でペットボトルをテーブルの角へとぶつけた。

 瞬間、ペットボトルは鈍い音を立てながらテーブルの角を凹ませる。

 それを確認した幸仁は、恵がその光景に驚いていることを確認すると、そのペットボトルをおもむろに恵へと投げ渡した。



「ちょ、ちょっと!」



 慌てて、恵は投げられたペットボトルを避けた。

 避けられたペットボトルは床に当たって、先ほどとは違う柔かな音を立てながら床を転がる。

 転がったペットボトルを拾い上げながら、幸仁は口を開いた。



「こんな風に、手から離れれば元の硬さに戻ります。使い道としては前に見て貰った通り、服を強固な鎧にすることや廃材を鉄の塊に変えることが出来るって思ってくれて構わないです」

「『構わないです』じゃなくて、君ねぇ!」



 幸仁の言葉に、恵が眉を吊り上げながら抗議の声をあげた。



「手から離れれば元の硬さに戻るって最初に言いなさいよ!! 目の前で、ただのペットボトルがテーブルを凹ませるなんてありえないものを見せられたかと思えば、その凹ませたペットボトルを突然投げられて、本ッッッ当にびっくりしたんだから!!」

「最初に言うも何も、直接腕時計に書かれていた能力のことを見せたじゃないですか」

「手から離れれば元に戻るだなんて、一言も書いてなかったわよ!」



 恵は幸仁の言葉にまた声を荒げると、大きなため息をこれ見よがしに吐き出した。



「あのねぇ、私……。君より年上なんだけど? 年配者を揶揄うのも大概にしなさいよ?」

「これから先、一緒に行動していくなら多少の無礼講には目を瞑るべきだと思いますけど?」

「だからって、いきなりやって良いことと悪いことが――――。はぁ……、もういい。君と口論したところで言い負かされそうな気がするし。とにかく、これでお互いに隠し事は無いよね」



 口にするその言葉に、幸仁はただ薄い笑みを浮かべた。

 その笑顔を、恵は肯定だと受け取ったのだろう。


 幸仁の笑みに頷きを返すと、


「それじゃあ、これからどうしよっか」


 とそう言って恵は話題を切り替えた。



「少し休んだら、もう少しこの迷路を探索する?」

「そうですね……。恵さんの能力が俺を連れて移動した際に五分間使えなくなることを考えると……。もう少し、この館の地図を作るつもりで探索した方がいいでしょうね。あと、休憩の時間ですが……、一時間ぐらいを目安でどうでしょうか。――って言っても、時間が分からないので大まかに、ってところですが」

「時間? それだったら分かるよ?」



 恵はそう言うと、おもむろに自らの腕時計を触り始めた。時計の盤面に触れて、ジッとその表示を目にしていたかと思えば、ようやく目当ての表示が出てきたのかその腕時計を幸仁へと向ける。



「ほら、これ」



 そう言って見せられたのは一秒ごとに数を減らしていくデジタル表記のタイマーだった。

 表示された時間は、四時間十七分十三秒。

 一秒ごとに数字を増やしていくその画面は幸仁の腕時計には付いていないものだ。



(そういえば、恵さんの『シークレット・リヴァイヴ』のクリア条件は〝他プレイヤーと一緒に行動した時間が100時間を超える〟ことだったっけ。俺の腕時計にはない画面だってことを考えると、これは…………)



 じっと、その画面を見つめながら幸仁は思考する。

 すると考え込む幸仁の様子を見たからか、恵が補足をするように口を開いた。



「これ、君と行動し始めて動き出したタイマーなんだけど、どうやら誰かの傍に居ないと動かないみたいなんだよね。最初はなんの数字か分からなかったけど、私のクリア条件を考えると、これは――――」

「恵さんが持つクリア条件を達成するまでのカウント、ですね」



 幸仁は、自らの思考に対する結論を下すように言った。

 その言葉に、恵も小さく頷きを返す。



「うん、私もそう思う。距離はだいたい二メートル以内。この迷路を探索してて、他のプレイヤーが居る部屋にも私一人で偵察に入ったでしょ? その時にも動いていたから、私のクリア条件は特定の参加者とずっと一緒ってわけじゃない。むしろ、参加者が特定の距離の中に居れば()()()って判定になってるみたい」

「このカウントが動き出したのは、俺と行動し始めてからですか?」



 幸仁は恵へと視線を移しながら尋ねた。

 もし、このカウントがゼロから始まっているのだとしたら、この経過時間は多少の誤差はあるだろうが、このステージが終わる時間として代用することが出来る。


 その言葉の意図を、恵もすぐに汲み取ったのだろう。



「そうだね。ここに来てから私たちずっと一緒だから、多少の誤差があったとしてもこのカウントがこのステージが開始されてからの時間になるかな。だから、今はこの洋館遭遇戦が開始されて約四時間。二十四時間生き残るってことがステージクリアの条件だから、このステージが終了するまでの時間は、約二十時間ってことになるね」



 その言葉に、幸仁は眉間に皺を刻み込む。



「ステージが開始されて、四時間か……。このまま残りの二十時間を動き続けて、後半に疲労によって動きが制限されるのは嫌ですね。となると、やっぱり休める時に休んでおくのが一番ですね。…………それに、あと一時間もすれば最初の参加表明の時間です」



 六時間ごとに行われる〝死の再現〟。それを回避するためには、チェックの際に腕時計を装着しておかなければならない。

 幸仁は自らの腕時計の表面を撫でると、恵へと目を向けた。



「ひとまず、チェックの時間まで休みましょう。下手に動いて、他の参加と出会うのも嫌ですし」

「そうね。そうしましょうか」



 その言葉に恵は頷くと、ぐっと胸を張って大きな伸びをした。

 その瞬間に、僅かながらも確かにある恵の胸がその存在を主張して、元よりキャミソールだけしか着ていない恵のその薄着とも相まって、一応は思春期である幸仁の視線は吸い込まれるようにその場所へと向けられた。



「――――ははぁん、広野くんも男の子だね」



 幸仁の視線に気が付いたのだろう。恵がニヤリとした笑みを浮かべた。

 その言葉に、幸仁はむっとした表情になって鼻を鳴らす。



「そりゃ、その薄着でいたら目も向きますよ。というか、ずっと思ってましたがなんでそんな恰好なんです? 上着はどうしたんですか?」

「さあ? 私だって好きでこの格好をしてるわけじゃないし。目が覚めたらこの格好だったんだもの、仕方ないじゃない。…………案外、この恰好も、私たちが死んだときの恰好だったりしてね」



 恵はそう口にすると、含みのある笑みを浮かべた。



「――――それは、どうでしょうね」



 幸仁は恵の言葉を軽く流した。



 その言葉の真相は分からない。

 けれど、もしも本当にこれが仮に死んだ時の恰好であるならば、制服を着ているこの姿は何が原因で死んだのだろうと幸仁は思いを巡らせた。



(…………まさか、あの親父と同じ交通事故だったりしてな)



 その心の呟きに、答えは出ない。

 ただ一つだけ言えることは、幸仁も恵も、恰好は違えど同じ死人だということだけだった。


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