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蟲毒の蟲


 

 女性はこのエントランスホールに一度足を踏み入れただけで、詳しくはこの場所のことを調べてはいないようだった。

 だから、まずはひとまずの行動指針として、幸仁と女性はまずはこのエントランスホールのことを調べることにした。



 エントランスホールを調べながら、幸仁たちは互いに自己紹介を済ませる。



 女性は、自らの名前を樫尾(かしお)(めぐみ)と名乗った。

 年齢は二十三歳。普段はフリーターをしていたらしく、この場所に来る前のことは幸仁同様に何一つ覚えていないようだった。



「広野幸仁くん、ね。その見た目通り、学生ってことでいいのかな?」


 と、女性――恵はエントランスホールにあった玄関扉を触りながら言った。



「そうですね。一応は」


 と、幸仁も玄関扉を触りながら答える。



 木製の玄関扉は固く閉ざされている。扉は両開きになっているようで、その扉には鉄製の取手が二つ取り付けられていた。どうやら、その取手が扉のドアノブになっているようだ。扉に鍵さえ掛かっていなければ両開きの扉を押して、または引けば扉が開くのだろうと幸仁は予想した。



「……やっぱり、開かないか」



 取手を掴み、幸仁は扉を押し開こうと力を込める。しかし、目の前の扉は動く気配すら見せず、ならばと引いてみたりもしたがこれも結果は同じだった。



「どこかに鍵があるようには見えないし…………。だったら、コレならどうだ?」



 言って、幸仁は扉に向けて能力を使用する。だが、玄関扉の硬度が変わる様子はなかった。どうやらこの玄関扉は、〝手に触れた物をイメージ通りの硬度に変えることが出来る能力〟でも硬度そのものを変えることが出来ないらしい。


 どうしたものか、と幸仁が唸り声を出していると、ふいに幸仁の肩が後ろに引っ張られた。



「ちょっと下がってて」



 そう言って、幸仁を後ろに追いやったのは恵だった。

 恵は、幸仁が後ろに下がったことを確認すると、ニヤリとその唇を持ち上げてみせる。



「こういうのはね、こうして試せば早い話なの――――よッ!!」



 その言葉を吐き出した恵の身体が、短い呼吸の音ともにステップを踏んでぐるりとのその場で回転した。

 身体の回転に合わせて恵の長い脚が空気を切り裂き回って、風を切る音が周囲に響く。

 次の瞬間、恵の脚は回転による遠心力を威力へと変えたまま盛大な衝撃と音を伴って玄関扉へと叩きつけられた。



「なっ――――」



 あまりの衝撃とその光景に、幸仁が目を大きくして驚きで声を漏らす。

 対して、その回転蹴りを放った恵本人はというと、



「んー」


 という不本意そうな声を漏らしながら、扉を蹴りつけた体勢のままため息を吐き出していた。



「力技でも無理か」

「力技でも無理か、じゃなくて! 何ですか、今の!!」



 予想だにしなかった行動と光景に、幸仁が声を大きくして恵に問いかける。

 すると、恵はきょとんとした顔をして幸仁へと目を向けた。



「何って、ただの回転蹴りじゃない。見たのは初めて?」



 そう言って、恵は残心を解くようにして扉を蹴りつけた足を下ろした。

 その様子を見ながら、幸仁は微かな戸惑いを浮かべながら言葉を返す。



「いや、見たことはありますけど…………」



 父親に一通りの武道を叩き込まれた影響で、回転蹴り自体は幸仁も出来る。

 幸仁が驚いたのは、その回転蹴りを見たからではない。恵の放った回転蹴りが、一般人の域をはるかに超えたものだったからだ。


 初動の脚運び、回転の速さ、姿勢、蹴りの勢いとその角度。その全てが、ただ見様見真似で放ったものではないことを、幸仁は恵の動きからすぐに看破していた。



 幸仁の表情を見て、恵も幸仁が何を言いたいのか察したのだろう。

 恵は恥ずかしそうに頬をポリポリと掻くと、幸仁の疑問に答えるように口を開いた。



「別に、大したことじゃないよ。昔、ちょっとだけそういうヤツをやってただけ」



 大したことじゃない、なんて恵はそう言ってるが、今の動きは確実に有段者の動きだと幸仁はそう思った。



「今後は、そういうことをするときは事前に言ってください」


 と、幸仁は小さく息を吐き出しながら言った。



「どうして?」


 と、その言葉に恵が首を傾げる。



 どうやら、その様子を見るからに今の行動は無自覚で行ったもののようだ。

 そのことに、幸仁はまた心の中でため息を吐き出すと、恵へと視線を向けた。



「いきなりあんな威力の蹴りを出されたらびっくりするからです。ともかく、よろしくお願いします」



 身長も高く、手足もモデルのようにすらりと伸びた彼女の回転蹴りは、もはや女性が放つ威力の蹴り技ではなかった。くわえて、彼女の足元は便所サンダルだ。蹴りを行うには不安定なその足で、あれだけの身体捌きが出来るということは、彼女の持つ本来の蹴りの威力は今目にしたもの以上だということを幸仁は感じ取っていた。



「まあ、広野くんがそう言うんだったらそうするけど」


 と、恵は幸仁の言葉に不思議そうな顔をしながらも不承不承ながらの納得を見せた。それから、恵はふいにその口元を悪戯を思いついた子供のように吊り上げて見せると、幸仁に向けて意味ありげな視線を向ける。



「ね、ね。それよりも、広野くんって学生なんでしょ? だったら、タバコなんて持ってないよね?」



 その言葉に、幸仁はちらりと恵へと視線を投げかけた。



「生憎ですが、非喫煙者です。……吸うんですか?」

「まあね」


 と、言って恵は肩をすくめた。



「身体に悪いですよ」

「知ってるよ」


 と女性は幸仁の言葉に笑った。



「妹からも、身体に悪いばかりで良いことないから、さんざんタバコをやめろって言われてる」

「妹が、いるんですね」

「…………うん。私の、大切な人だ」



 そう言った恵の眼差しが、ふと優しいものになったことに幸仁は気が付く。その視線と口調から、幸仁は恵が〝生き返りの権利〟を手にするのはその妹に関係しているんだろうなと当たりを付けた。



「……だったら、戻らないと、ですね。そのためにはまず、この現状をどうにかしなくちゃいけないんですが――――。樫尾さん」

「恵で良いよ。苗字で呼ばれるのは好きじゃない」



 幸仁の言葉に、恵はそう言って割り入った。



「…………分かりました。恵さん、あなたの能力で、この扉の向こう側に行くことってできますか?」

「向こうに? んー…………」



 しばらくの間、恵が唸り声を挙げて眼前の扉を凝視する。

 しかし何も変わることがないその様子に根負けしたかのように、恵は短く息を吐き出すと首を横に振ってみせた。



「ダメ。出来ない。何度使ってみても、この先の空間が無くなってるみたい。移動することは出来ないね」

「他の場所ならどうですか? 玄関扉の横の壁とか」

「壁か……」



 言って、恵はまたその場所を凝視する。しかしやはりと言うべきか、いつまで経っても恵の姿は消えず、恵は諦めたように息を吐き出した。



「無理。私の能力では、この先に進むことが出来ないみたい」

「能力自体に制限が掛かって、使えないってことはないですか?」

「ないよ。ほら」



 そう言うと、恵はある一点を見つめた。すると、次の瞬間にはその姿が掻き消えて、五メートルほど離れた場所に唐突に恵の姿が現れる。



「この通り。能力自体は問題ない」



 またその場所から恵の姿が一瞬にして消えて、再び幸仁の目の前に現れた恵はそう言った。



「と、なると……。この館から俺たち『シークレット・リヴァイヴ』の参加者が逃げ出さないようにしている、と考えるのが普通ですね。この館の中に備え付けられた扉には使えた俺の能力も、この扉に対しては全く反応しませんから」



 幸仁はそう呟くと、眉間に深い皺を寄せて考えを巡らせた。

 何が目的なのかは分からないが、『シークレット・リヴァイヴ』というこのデスゲームの主催者はわざわざ能力を与えてまで参加者同士で殺し合わせようとしている。その中で生き残った参加者のみに、〝生き返りの権利〟とやらを与えると言っているのだ。であれば、与えた能力を使って館から逃げられるなんて致命的なミスは犯すはずがない。順当に考えて、どんな能力を与えられていたとしても洋館遭遇戦と名前の付いた、このファーストステージが終わるまで参加者を出さないはずだ。



(まるで、蟲毒の蟲だな)


 と、幸仁は自らの思考にそう心の中で呟いた。



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