第98話 剣術勝負の行方
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私は椅子から立ち上がり、いろんなサイズの木剣を持ってきているスチュアートさんの所に向かっていく。
そこには王子様が既に木剣を手にとって待っていた。
「作戦は決まったのか? まあせいぜい無駄なあがきをするんだな」
「……」
私は王子様を一瞥したあと無言で木剣を選ぶ。
エリーは木剣を上手く使って相手の隙を突く作戦を考えてくれた。
勝負の最後は私の反射神経頼りになるけど、日頃お母さんとの運動もとい訓練のおかげでそれなりに自信はある。
でも、最速を狙うなら普通サイズの木剣よりも、ナイフやダガー程度の大きさの軽さをとった木剣の方がいいはずだ。
それに目の前で手を叩くと言うことは、その後はゼロ距離なわけだから多分武器は短い方がいいと思う。
正直木剣の使い方なんてわからない。
前世の高校では授業で剣道があったけど、叩いたりするスポーツは好きじゃないし、そもそも運動神経悪くてどんくさいから竹刀を振り回してるのとほとんど変わらなかったと思う。
木剣でもきっと同じだ。
だから普通の木剣を振り回すより、ダガーサイズにして突く方が間違いなく簡単だし技量は必要ないと思う。
私はダガーサイズの木剣をどう使うかシミュレーションを重ねる。
競技、なのかどうかわからないけど、体を動かす勝負事をしたりその勝負でシミュレーションをするなんて前世では考えられないようなことだ。
うん、決めた。
私はダガーサイズの子供用の小さな木剣を三本手に取り、一本をエプロンドレスの紐の部分に差し、残り二本を左右の手に持つ。
「フッ、武器を多く持っても強さは変わらんと言うのに」
「こ、これでいいんですっ」
よし。
油断してくれてる。
でも一応ちょっとビビってるふりをする。
「それでは両者離れて……フランシェスカ様、もう少しでございます……はい、そこでよろしいかと」
セバスチャンさんが審判に入る。
距離は目測15mくらいと普人の8歳児ではとてもじゃないけど一足で飛び込むのは不可能な距離だ。
前世の剣道の時と違って相当距離がある気がする。魔術とかそう言うのがあるし、普人でも身体能力が前世の人と比べると相当高いからこれくらいなのかな?
何にせよ、この距離ならやりたいこともやれそうだ。
「では両者構え」
構えと言われても、木剣をそれぞれ両手に持った場合はどう構えればいいのか分かんないので適当に構える。
「「「「……」」」」
「……俺が言うのもなんだけど、本当に彼女で大丈夫かい?」
「問題ありませんわ」
「なんかおもしれーな、あの子! 両手とも前に出してるぜ!」
「可愛いは正義だから、ちょっとくらい面白くてもいいのよ」
は、恥ずかしいっ。
外野の反応からやっぱり構えが変っぽい。
運動するときに構えたことなんてないし、やっぱりいつも通り、腕は下ろし、膝はほんのちょっと曲げてすぐ動けるくらいにしておこう。
私は一息つく。
セバスチャンさんは頷き、声をあげる。
「始め!」
王子様は動かず話しかけてきた。
「レディファーストだ。好きなだけやってみるといい」
王子様はニヤリと笑い、余裕をアピールしてきた。
美少年なのでその所作だけですごく絵になる。
うん、予想通り王子様から攻撃は来ない。
きっと私の攻撃をすべて防ぎ、最後に木剣を弾き飛ばして優雅に完全勝利を狙ってくるはずだ。
「じゃ、じゃあ遠慮なく!」
私はあえて左手で木剣を投げる。体は思い通りに動くといっても、利き腕じゃないからフォームは多少不恰好だ。
それでもダガーサイズの木剣はくるくる回りながら大きく弧を描き、辛うじて王子様の方向へに飛んでいった。
カコンッ!
「あっ!」
飛んでった木剣はあっけなく弾かれてしまった。
私は悔し顔をすると、王子様は余裕の表情を浮かべる。
「フッ、予想通りだな」
「むむむ」
「まだ木剣はあるだろう? 次はどうする? なんならもう一本投げてみるか?」
「うっ、そ、そんなことしないですっ。行きます!」
「来い」
私は右手に持った木剣を両手で持ち、下段に構えたままポテポテと走り出した。
どうよこの走り。
前世の私の走りの再現は。
思い通り体が動く今はぎこちない走りが逆に難しい。
不自然には感じない程度にしようとしてることもあり、なおのこと運動神経なさそうな微妙な走りになってる自信がある。
あ、王子様が失笑してる。
よし、作戦通り。
すごく油断してるっぽい。
この走り方は前世の走り方なので、失笑はそれはそれでちょっと複雑な心境……。
でも、この走り方も私の一部だ。利用できるならしてやる。
後はダガーサイズの木剣を捨てるタイミングだ。
シミュレーション通りやればいいだけだ。
今の私は獣人。信じられないくらい思い通りに体は動く。大丈夫。やれる。
王子様は動かない。
私はポテポテ走る。
王子様が踏み込んでも木剣が届かなそうな3mくらいに近づき、そして木剣を振り上げ……
王子様の視線が木剣に向いた!
今だ!
私は木剣から手を離し、木剣がフワッと頭上の宙に舞う。
そして王子様の視線が木剣に釣られて私から外れた。
私は地面を踏み込み加速する。
背景が一気に後ろに流れる。
王子様が慌てて私に視線を戻す。
だがもう遅い。
この距離は私の距離。
あなたはもう私の獲物だ。
私は王子様の視線が戻ると同時に眼前で思い切り手を叩き……
パアァァンッ!
そして私は王子様の首筋にダガーサイズの木剣を突きつけて宣言する。
「これで私の勝ち、ですよね?」
動きのあるシーンって難しいですね。
下手に色々と書くとなんだかわからなくなっちゃうし、表現が足りないとそもそも何やってるのか分からないし、世の中の作家さんすごいです。
次回更新は4/7(土) 17:00の予定です。




