第97話 キレたエリーと作戦会議
1日早いですが更新しました。今日から17時更新です。
4月1日じゃないです(笑)
キレたエリーは鋭く氷のような視線を王子様に向ける。
エリーが怒ったことで、逆に私は頭が冷えた。
「な、なんだよ、本当のことじゃないか! 下級貴族なぞ大したことあるものか! 獣人の平民に能などあるものか!」
王子様は本気でそんなこと思ってるの?
ムキになって引くに引けなくなっただけ?
「いいえ、アイリとフランはとても優秀ですわ。なんなら直接確かめてご覧にいれましょう。それとも劣っている相手、しかも女相手に勝てる自信がないと尻尾を巻いて逃げるならそれでも構いませんことよ。おーーほっほっほっ!」
ついには口喧嘩が始まったと思ったら、エリーは挑発だけじゃなかった。
少し胸をそらし、右手を口元に添えるお決まりのポーズで高笑いを決めた。
王子様相手に一歩も引かずに毅然とした態度が最高にカッコいい!
あ、台詞といい高笑いといい、エリーって今まさに悪役令嬢っぽくない?
なんか小説やマンガなんかで出てくる悪役令嬢が勝負を仕掛けてくるものがあるけど、まさにそんな感じ。
でも、小説やマンガなんかと違って、エリーは意味なく他人を貶めるような下らないことなんて一切しない高潔な人だし、私たちのために怒ってくれる優しい子だ。
取り巻きのつもりは全く無いけど、取り巻きの安心感ってこんな感じなんだろうか。
「ふん、誰が逃げるか。俺様たちの方が優秀だと分からせてやる! おい、マイケル、マッシュ! いいか!」
「はぁ、仕方ないね」
「おう! 俺は何でも構わないぞ!」
マイケル様は微妙な表情して渋々って感じだ。一方マッシュ様はなんも考えてなさそう。
まあ私もアイリも転生者だし、相手がいくら王族や上級貴族でも8歳の子ども相手に負ける気がしない。
アイリは体力面を心配してるけど、冒険者活動で鍛えられたのか、お父さんとの訓練で問題無さそうなのは確認済みだ。
むしろ最近はダンスを習ってるエリーより体力すごいのでは、と思うくらいだ。
「勝負と言っても色々あるからな。まずは剣術で勝負してやる。もちろん使うのは木剣だ」
さらっと自分の得意分野っぽいので勝負を仕掛けてきたぞこの王子様は。さっきマッシュ様と剣術で勝負してるって言ってたの私は覚えてるぞ。
「構いませんわ」
「ちょっ! アンタなにその条件で受けてるのよ! 明らかに相手の得意なものじゃないの!」
「大丈夫ですわ。フランなら負けるはずありませんわ」
「え? 私!? 私、剣なんて持ったことないよ!?」
マジで?
マジで私なの??
受けるからにはそれなりの策があるのかなと思ったら、まさかの私頼りなの!?
私は獣人だからか普人と比べたら身体能力は確かに高いよ?
でも、それだけでなんとかなるのかと言われたら正直すごく困るよ?
絶賛テンパりまくりなんだけど!?
「フラン、慌ててる姿も可愛らしいですが落ち着きなさい。ルール説明した後に作戦を伝えるから大丈夫ですわ」
ふー、びっくりした。
私が慌てるのを見透かしていたのかエリーはちゃんと考えてくれてたみたいだ。
頭のいい彼女なら私ができる範囲で作戦を立ててくれるはず。
「そちらが勝負方法を決めたのなら、私はルールを決めさせてもらいますわ」
「いいだろう。言ってみろ」
「では遠慮なく。ルールは四つありますの。とはいっても大した内容ではありませんわ。一つ、有効打をいれる、または有効打になる直前で寸止めをした方が勝者。ただし、大怪我するほどの攻撃を当てたら当てた方の負け。大怪我したら大事になってしまいますもの」
これなら酷い怪我をしないで済みそうだ。
「二つ、勝負は公正であること。審判は元騎士でもあるセバスチャンがしますわ」
当然だよね。それはそうとセバスチャンさんって元騎士だったんだ。
「三つ、セバスチャンが危険と判断したら勝負は終了。怪我をする前にセバスチャンが止めに入ることもありますの。当然、助けられた方が負けですわ」
壮年の渋いイケメンおじさんだけど、元騎士なら事故にならないよう止めてくれるから大丈夫じゃないかな。
「四つ、勝負の結果がどうあろうと受け入れること」
「ふん、それでいい」
当たり前のことだけど、暗にごねるなよって言ってる内容でちょっと面白い。
「スチュアート、木剣の準備を」
「かしこまりました」
言っておくけど、私は某ドラゴン玉なマンガに出てくる戦闘民族のように相手の気を感じたり、バトルマンガのように相手の動きを見て「こいつ……できるッ……!」なんてことはない。
私は獣人とは言え普通の女の子だし。
……中身が大人なのに自分のことを女の子って言うのはちょっと恥ずかしいけど、今は8歳。正真正銘女の子だから問題ない。ないったらない。
そんな下らないことを考える余裕は一応ある。大丈夫だ。
さて、木剣が来るまでに作戦会議だ。
もちろん王子様たちには聞こえないよう離れてやっている。
「エリー、どんな作戦があるの?」
「簡単に言うと、最初はぎこちなく運動苦手って感じで走って油断させ、ある程度近づいたら一気に加速して間合いを詰め、相手の目の前で手をパンと叩くのですわ。相手が怯んだ隙に木剣を突きつければおしまいですわ」
「おお、猫だましじゃないの」
「あら、その名前良いですわね。猫獣人のフランにピッタリですわ」
「でも、木剣持ってたら手を叩いて鳴らせないよ。どうすればいいの?」
「木剣を二本使うのですわ。一本を直前で捨てて猫だましをした直後、腰に差したもう一つの木剣を抜くのですわ」
「なるほど。でも、剣術の勝負なのにこういうのってありなの?」
「誰もルール説明で剣だけで勝負などと言ってないし、ルール違反ではないから問題ないですわ。極論、魔法を使ったってルール違反ではありませんわ」
「うわ、確かにそうね。わざわざ相手の得意分野に真正面から相手することないわね」
ニヤリと笑うエリーにアイリは苦笑いだ。
「真正面からぶつかったとしても、全力を出すまでもなくフランが負けるはずありませんわ。ただこの場合、殿下が何をおっしゃるのか分からないの。だから「フランは奇襲しなければ勝てなかった」と言う逃げ道を作って差し上げる結果でなければなりませんわ。もちろんその後のことも考えているけど、まずは目の前の勝負ですわ」
私に対する評価がすごく高い気がするけど、それにしてもエリーがマジですごい。
先のことまで見据えた作戦だ。
「でも剣術は王子様の得意分野なんだよね。うまくいくか心配だよ」
「殿下はフランのことを侮ってますもの。そんなところにぎこちなくゆっくり走れば、フランが弱いって思い込みますわ」
ぎこちなく走るって前世の私みたいな感じで走ればいいのかな?
自分で言っててちょっと悲しい……。
「万が一うまくいかなかったら、あとは思いっきり走って一気に勝負を決めればいいのですわ。フランの速さには絶対ついてこれませんもの。とにかく、勝負のあとのことは私に任せてもらえればどうとでもできますわ。だから安心なさって」
8歳の子どもが立派な戦術を立ててる。
戦う前から勝負はついてるってこの事なんだろうか。
正直ものすごい心強く頼りになる。
「アンタって本当にすごいわね。勝負を決められてから受け答えするまでの一瞬でここまで考えてたの?」
「まさか。殿下が二人のことを悪く言ったときからですわ。殿下の性格は存じてますもの。勝負内容についても予想通り。これくらいは造作もありませんわ」
「いや、それでも十分すごいと思うよ。ほんと」
「後はどうギャフンと言わせるかですわ。目にものを見せて差し上げませんと。うふふふふっ」
黒い笑みを浮かべるエリーは幼い顔つきだけどきついつり目も相まって結構悪役っぽい。
今はまだいつもの高笑いを堪えてる。
きっと勝利宣言と同時に高笑いを決めるだろう。
ヤバい。
なにこの感覚。
これから勝負だって言うのにすごく楽しくなってきた。
アイリに目を向けると、彼女もわくわくしてる様子がよくわかる。
エリーに高笑いをさせてあげたい。そして私はそんなエリーの高笑いを聞きたい。
「ここまでエリーに考えてもらったんだもん。もう大丈夫。後は私がうまくやるだけだね」
「ええ、健闘を祈るわ」
「言われるまでもないと思うけど、油断大敵よ。気を付けなさいよね」
「うん、行ってくるね」
私は椅子から立ち上がり、いろんなサイズの木剣を持ってきているスチュアートさんの所に向かっていった。
次回更新は4/4(水) 17:00の予定です。




