第96話 イケメン王子様は口が悪い
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私たちはさっきいた庭園のお茶会の場に戻ってきた。
いつの間にか6人用テーブルが用意されており、椅子もちゃんと6脚揃ってた。
ファーレンハイト家の執事さんたちメイドさんたちすごい。
それぞれ男女に分かれて座り、紅茶をいれてもらった。
「うん、美味しい。香りがいいね。何が入ってるんだい?」
「ふむ、まあまあだな。誉めてやる」
「ちょっと甘いけど、俺は飲めれば何でも関係ねーな」
これまでの態度から青髪クールのマイケル様は安全安心の青信号。
金髪のハロルド殿下はすごい上から目線で油断ならない言動から黄信号。
赤髪のマッシュ様はなんも考えてなさそうで私的には赤信号。
そんなイメージだ。
「最高級の茶葉にノメルの果汁とお砂糖が少々入っておりますの。わずかに感じる酸味と甘さで飲みやすくなっておりますわ」
エリーは令嬢としての教育の賜物か、お茶の知識についても造詣が深い。8歳なのにどれだけ知識詰め込んでるのか。
そんなこんなでしばらくあたりさわりのない感じでエリーが会話を進めていく。
「今日もよく晴れておりますわね。天も殿下やマイケル様、マッシュ様のお元気を表してるようですわ」
「俺様たちならば当然だな」
「殿下は最近楽しいことはありますの?」
「そうだな、マッシュと剣術で勝負したり、マイケルと城の隠し通路を探検したり、俺様が持つにふさわしい物がないか宝物庫にいったりしてるな」
「まあ、殿下はいろんなことをなされてるのですわね。城の宝物庫ともなれば絵画や宝石、武具など様々なものがあるのでしょうね」
「そうだな、とにかく量が多いし、どれも違うからなかなか面白いぞ。武器の中には刀身の途中で曲がった片刃の剣や、どう使うのか分からない半円の変わった形の剣まであるな」
「そういう品々については、歴史や背景を学ぶとより面白いですわ」
「座学はつまらんから俺様のやることじゃない。良いものかどうかは俺様が決めることだ」
つまらないからって王子様が堂々とサボり宣言でいいんか、おい。
偉そうに言ってるけど、なんかお子ちゃまっぽいような気が……。
「そういうエリザベスは面白いことはあったのか?」
「私は冒険者活動をしてますわ。どれも新鮮でとても楽しいですわ」
「ふん、わざわざそんなことをやってるのか。とするとなんだ? そこにいるチビと雌猫を使ってるのか?」
むぁー、なんかすごい言われようだ。
私は中身が大人なので、子どもが生意気なことを言っても動じない。アイリのことをチビ呼ばわりするのはいい気分ではないけど。
「……」
「ふむ、せっかくだ。俺様が見極めてやろう。おい、チビ。お前の名は?」
またアイリのことをチビって言ったぞこの王子様。
「アタシはムーンライト男爵家の娘、アイリーン・ムーンライトです」
「雌猫、お前の名は?」
ここまでくるといっそ清々しい。
でもこのまま返事するのもしゃくなのでスルーだ。
「おい、灰色の、お前だ」
指差してまできた。
仕方ないな。
「私は雌猫でも灰色でもありませんので、間違ってお返事するのは失礼にあたるかと存じておりました。お許しください。私はフランシェスカと申します」
「ふんっ……家名は?」
「私は平民なので家名はありません」
「平民? なぜこのような場に? エリザベス、久しぶりに会ってようやく手元に人を置いたのかと思ったら、なんだ、男爵令嬢どころか平民風情の雌猫まで引き連れなければいけないほど人がいないのか。やはり俺様ほどにならなければマイケルやマッシュのような優秀な者は共にしないのだな」
さっきからこの王子様はいちいち喧嘩を売ってくるけど、喧嘩を売らないと生きていけないの?
まさかこんなのがアイリの気にしてる乙女ゲーの主要人物とか言わないよね?
私のことはともかくとして、エリーやアイリのことをバカにされ、さすがに相手が子どもと言っても物凄くイラッとする。
私ってこんな短気だったっけ?
前世の最後の方は理不尽を味わってたのもあって、ある程度の許容量はあるかと思ったけど、そういう耐性はおさらばした前世の私の体が持ってたのかもしれない。
あ、ヤバい。
これ以上言われたら我慢できる自信がない。
「(フラン、抑えなさい……)」
アイリが私にしか聞こえないくらいで呟く。
アイリの言葉ではっとした私は我に返った。
しっぽの毛が逆立ってたのが分かる。
幸いしっぽは椅子の後ろ側なので王子様たちに見えない。良かった。
目立たないよう浅目の深呼吸。左手の薬指をにぎにぎ。後者はお母さんに教えてもらった落ち着くおまじないだ。
マイケル様は王子様の発言にかぶりをふってる。マッシュ様は我関せずとお茶菓子をパクついてる。
ようやく周りを見る余裕ができた。
と同時に、エリーはすっと立ち上がった。
「セバスチャン、殿下たちは喉を潤されたのでもうお帰りなさるわ。馬車まで送って差し上げてちょうだい」
エリーに目を向けると笑顔だけど、あの笑顔の意味は知ってる。ちょっと怖い。
「おい、エリザベス、俺様はまだ」
「マイケル様、マッシュ様、よろしいですわね?」
エリーの有無を言わさない笑顔の圧力にマイケル様とマッシュ様はたじたじだ。
「エリザベス、いったいどうしたんだ?」
王子様はエリーが何で怒ってるのか、自分がなぜ怒らせたのかまるで分かってないようだ。
「……殿下、私が何に対して怒っているのかお分かり? 私のことはいいとしても、私の友のことを貶めるのは、非常に、不愉快、ですわ」
エリーは言葉を強調しつつ、鋭いつり目で氷のような視線を王子様に向ける。
ついにエリーがキレた。
次回更新は4/2(月) 19:00の予定です。




