第95話 自慢の親友たちと王子様たち
「あら、なぜですの?」
私は王子様が来るので、その前にエリーの部屋で待ってると言うと、エリーはきょとんとして不思議そうに聞き返してきた。
「だって私は平民でしょ? 公爵様のお屋敷に平民の私がいて、一緒といるところを見られるんだよ。私のことはいいけど、二人が変な目で見られたり、大丈夫か心配だよ」
「フラン……アンタそんなこと……」
この国はとてもいい国だから王様もいい人だと思う。
でもいい人なのは王様であって、王子様ではないのだ。
王子様がどんな人か分からないけど、もし平民といることでエリーのファーレンハイト家やアイリのムーンライト家が侮られたり、格が疑われるようなことになったりでもしたら、大変だ。
相手は王子様と言えども8歳児。8歳児と言えば小学2年生。
偏見かもしれないけど、それくらいの年の男の子は本能のまま、わんぱく&わがまま盛りと思う。
今回アポ無しで来てるあたりからして正直不安しかない。
「フラン」
そんな思いもあって部屋に行くって言ったのだけど、エリーは明らかに不機嫌になった。
「心配していただいたことは嬉しいですわ。でも、私たちを侮っていませんこと?」
「え? そ、そんなことは……」
予想外の反応で私は思わずたじろいでしまう。
そんな私を見て、エリーはただでさえきついつり目をより鋭くする。
「いいえ、侮っていますわ。確かに私たちの身分が違うのは事実。身分差があるから線引きしなければならない時もあるでしょう。でも」
エリーは一呼吸すると、今度は微笑み、優しく語りかける。
「でも、友達に身分なんてありませんの。友達として貴女は私やアイリと対等ですわ。間違っていて?」
「ううん、そんなことないよ」
「貴女は自慢の友達、いえ、親友ですもの。私たちが恥じるようなことは一切ないですわ。ですわね? アイリ」
「そうよ、エリーの言う通りだわ! アンタを仲間外れになんてしやしないわよ!」
「私たちのことを友達と思ってくれるのなら、堂々となさって」
ずるい。
そんなこと言われたら、もう何も言えないよ。
ほら、嬉しくて自然と涙が浮かんできちゃうよ……。
「エリー、アイリ、ありがとう。うん、私、二人の友達として一緒にいたい。一緒にいさせてね。ぐすっ……」
私は本当に幸運だ。
わりと理屈っぽい私は癖のある性格だと思う。
だから前世では表面上の付き合いは結構あったものの、本当に親しい友達と呼べたのは、いつも旅行に付き合ってくれた親友一人だけだった。
それなのに第二の人生は10歳にも満たないうちから、生涯の友達と心底思える人が二人もいる。
そう思うと、私の心は温かくなり、幸せに満ちる。
「当たり前ですわ。私も一緒にいたいですわ」
「アンタは元気で活発、可愛い笑顔が売りなのよ。ほらほら、笑顔よ、笑顔」
エリーとアイリが優しくハグして元気付けてくれる。
私はうっすら浮かんだ涙を拭うと、念のため目が腫れぼったくならないように回復魔法をかけておく。
「それにしても、エリーって大人よねえ」
「うん、ホントすごいよね」
アイリの言葉に心底同意だ。
「公爵令嬢として当然ですわ。さ、それよりもそろそろ殿下がいらっしゃるわ。お迎えに上がりましょう」
見てよこのエリーを。
当然って言い切るんだよ。
ホントすごい。
これで8歳なんだよ?
単純な学力だけじゃなく、精神面においても突出して秀でてる。
中身が大人なはずなのに、すっかり子どもっぽくなってしまった私とは大違いだ。
……あくまでまだ「子どもっぽい」だ。断じて「既に子ども」ではない。
そうこうしてるうちに馬車が広場に到着した。
相手は王子様。
近くにいたこともあり、エリー自らお出迎えだ。
私とアイリはエリーの後についていく。
もちろん毒舌美少年執事のスチュアートさんとメイドのスーさんだけじゃなく、ダンディでオールバックでナイスミドルの執事長セバスチャンさんも一緒だ。
私たちが到着すると、ちょうど豪華な馬車から3人降りてきた。
「あー、くたびれた。おお、エリザベス、久しぶりだな」
声をかけてきたのは見た目からして王子様な金髪青目の少年。服の刺繍に王家の家紋が入っている。
他にはクールそうな感じな青髪赤目の少年。少年なのにどことなく色香が漂う。
最後は子どもなのに体格がいい赤髪黄色目の少年。こっちはいかにもわんぱくそうだ。
すごい。
みんな子どもなのに既にイケメンだ。
この国で見かける街の人はみんな顔が整ってるけど、この三人は一線を画してる。
でもなんか既視感のある配色。
なんだっけ。
ああそうだ、信号機だ。
左から青、黄、赤って並んでるし。
「ごきげんよう、ハロルド殿下、マイケル様、マッシュ様。ようこそおいでくださいましたわ」
エリーがカーテシーしたので、私とアイリも続いてカーテシーをする。
王子様の隣にいる二人は間違いなく上級貴族だろう。王子様の隣にいられるとしたらかなりの身分のはず。エリーの反応からしても間違いない。
「本日はどのようなご用件でして?」
「いやー、エリザベスとはしばらく会ってなかっただろ? 暇だし仕方ないから俺様から会いに来てやったぞ」
王子様は近所の家に遊びにいくくらいの感覚で来たみたいだ。
いいんか。
それにしても俺様とか言ってる人初めて見た。
「そうですの。突然だったので驚きましたわ」
サプライズで王子様が来るものなの?
私たちは休息日が無くなったも同然だけど、イケメン美少年たちで目の保養になるからいい。
けど、執事やメイドさんたちはめっちゃ慌ただしかった。身分が高い人が予定外に動くのは影響が大きそうだ。
「殿下、やはり突然の訪問は良くないんじゃないかい?」
王族がアポ無しで突撃することを誰もつっこまなかったのかと思ったら、えっと、マイケル様だっけ? この人はまともだ。クールそうだから無口かと思ったらそんなことなかった。ちゃんと諌めてる。青髪だから安全なのかな。
「細けーこたぁいいんだよ。んな面倒くさいこと」
あ、この人はダメだ。赤信号だ。アウトだ。
「とりあえず喉乾いたから茶をくれ」
「ちょうど庭園で小さなお茶会をしてましたの。お茶はそちらでいかがかしら?」
「さすがエリザベス。まさしく俺様たちを出迎えるために開いていたのだな」
え?
あるぇ?
違うよ、全然違うよ?
私たちのことが目に入ってないの?
急になんだかとても不安になってきた。
「さ、こちらへどうぞ」
エリーは嫌な顔をせず王子様たちを案内していく。
彼女は本当に大人だ。とても8歳とは思えない。
私も何か手伝えればいいんだけど……。
大人しくしてることしかできなさそう。
次回更新は3/30(金) 19:00の予定です。




