第94話 エリーの家での着替えは恥ずかしい
私はエリーのお屋敷に泊まるとき、メイドさんたちにお着替えさせられる。
私は平民だし着替えくらい一人でできるよとかなり頑張って断ったけど無理だった。
メイドさんに最後には「お耳としっぽを洗わせていただけないのは仕方ないとしても、お着替えのお仕事はさせていただけないとお叱りを受けてしまいます……」と涙目で訴えられたので結局私が折れたのだった。
ドロワーズを含めた下着までひん剥かれてすっぽんぽんにさせられる。
いつの間にか採寸されていたらしく、私が着る獣人用の下着とエプロンドレスが用意されている。
それを二人がかりで着せられる。
ドロワーズのしっぽ用の切れ込みからしっぽを出す時や、キャミソールを着せられる時、さりげなくしっぽやネコミミをもふられるような気がするけど、着替えの手際がめっちゃ良いので文句を言えない。
正直着替えさせられるのは、すごく恥ずかしい!
こればかりは何度経験しても全く慣れない!
だって、お風呂の時は別として、友達の前で強制的に裸にさせられるんだよ!?
裸だよ、裸!
布無しなんだよ!?
しかも着替えの妨げになるって理由で手だけでなくしっぽでも大事なところを隠すような姿勢をさせてくれないんだよ!?
私の着替えを担当するメイドさんだけでなく、エリー、アイリ、更には他のメイドさん全員までもが、服をひん剥かれる度に恥ずかしがる私を最初から最後までチラ見するんだよ!?
エリーとアイリももちろんすっぽんぽんにされて着替えさせられてるけど、二人とも全く気にしてないし、メイドさんたちも二人のことを気にしてないのになんで私だけ!?
私は今日もゴリゴリと心の何かが削られた対価としてエプロンドレスを着た。
「何度見てもフランが恥ずかしがる姿は可愛いわね……」
そういうことか、おい。
朝ごはんを終えた私たちはエリーの部屋に戻っていった。
二人には筋肉痛が和らぐ程度に回復魔法をかけてあげた。
今日1日ゆったり過ごしてれば、明日には完全回復すると思う。
「ああ……これは確かに気持ちいいですわ……。アイリの気持ちがわかりましたわ……」
エリーは気持ち良さそうにそう言っても、キリリとしており、きついつり目が崩れることはなかった。
気持ち良さそうにしてる姿でも相変わらずスタイリッシュでカッコ可愛い。
2の鐘が鳴ると、私たちは部屋を出て庭園に赴いた。
いつものようにのんびりお茶会。
今日は休憩日だから勉強と訓練は無く、3人でおしゃべりだ。
「それにしても、フランはやっぱり獣人だけあって身体能力高いわよね。足も速ければジャンプ力もすごいし、体力も信じられないくらいよ」
「そうですわ。私の部屋の天井近くまで飛び上がれるくらいですしね」
「そ、その話は忘れて……。でも、身体能力は獣人ならみんなこれくらいあるんじゃないの? ギルドの訓練場にいた【シルバー】の狼獣人のお姉さんはもっとすごいし」
「そうなのかしら?」
「まあケイン先生の身体能力も人間離れしてるから、そんなもんかもしれないわね。アタシはフランみたいに動けるようになれる気がしないけど」
「2人とも普人の8歳としたら十分すごいと思うけどなあ。それに2人ともこの数年でもう魔法使えるようになったじゃん」
「確かに魔素保有量と扱える魔力量は増えましたわ。でも発動できる魔法は明かりを灯す魔法や風の魔法は良いとしても、それ以外は生活魔術とそう大差ない程度ですわ」
「お母さんの話じゃイメージできても魔法適性っていうのがあって、使いこなせる魔法の種類も得意不得意があるみたいだし、自分の得意な分野の魔法が分かればきっとすぐ伸びるよ」
「そうだといいわね。アタシは火と土の魔法が多少できるようになったと思うけど、消費魔力が多いしそれ以外は厳しいわね。全力で魔力込めても水はカップ1杯程度とか悲しくなるわ」
「金属ふにゃふにゃ魔術だっけ? それなら簡単にできたんだから、それを魔法で試してみれば?」
「そっか、そうよね。何も使える魔術を魔法でやっちゃダメってことないものね。今度そうするわ」
そんなこんなでおしゃべりしてると、毒舌美少年執事のスチュアートさんが割り込んできた。
「お嬢様、お話し中申し訳ございません。取り急ぎお伝えしたいことがございます」
「なにかしら? お話しなさって」
「はい。本日、予定になかった訪問が急遽入りました」
「まあ。訪問と言うのは、もしかしてあの馬車のことかしら?」
エリーが目を向けると、豪華な馬車がちょうど敷地に入って来ていた。かなり遠いので、到着にはまだまだ時間がかかりそうだ。
「左様です。いらしたのはハロルド殿下です」
「「!?」」
私とアイリは思わずアイコンタクトするくらいびっくりした。
「もう、仕方のない殿下ですわ」
私はエリーのご両親である公爵様とご夫人を始めとしてお屋敷の人たちにも気に入られてると思う。
だからお屋敷にいても特に問題となるようなことはない。
もちろんアイリのお屋敷にも何度も行ってるので一緒だ。
でも王子様はそんなこと知るはずはないし、王子様にとって私はただの平民の一人でしかない。
封建社会の上下関係は現代日本よりも恐ろしい。
どんなに理不尽なことでも相手が黒と言えば黒、白と言えば白となるはずだ。それが例え子どもであっても。
「ねえ、エリー、アイリ。私、席外した方が良さそうだし、エリーのお部屋で待ってるね」
「あら、なぜですの?」
エリーはきょとんとして不思議そうに聞き返してきた。
次回更新は3/27(火) 19:00の予定です。




