第92話 外壁の外での冒険者の心得 その2
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私たちは【アダマンタイト】冒険者であるお父さんから外壁の外での活動についていろいろと教わった。
目的に応じた必要品の準備。
薬草採取のような街から近いところに日帰りで行くような場合はそんなに荷物は必要ない。
でも、1食分の非常食は可能な限り持ち歩くことが望ましいようだ。
トラブルで日帰りできなくなることや、思わぬ強敵に出会ったときに戦わずに非常食を撒き餌にして逃げるために使ったり、食料を落としてしまった人を助けるために分け与えたりなどなど。
武器の類いももちろんのこと、最低限ナイフは必要なようだ。
薬草採取で役立つのはもちろんだが、弓使いや魔術師のように遠距離であったとしても接近されたときにナイフが役立つ場合があるようだ。動物や魔物の解体にも使える。あって困ることは無い。
準備についての基本的な考え方は、前世の旅行前準備の考え方に通じるところがある。準備は非常に大切だ。
進退の判断。
「まだいける」は「もう危ない」のサインだ。
例え冒険の稼ぎがマイナスになる可能性があったとしても、安全マージンを切るようなら引く勇気がないといけないようだ。
「さて質問だ。少し遠い場所に生えている薬草があり、採取してから戻ってくるまで数日かかる依頼をうけた。薬草採取を終えるかトラブルで途中で引き返すことになった。その際の目安となる食料の残量はどれくらいがいいと思う?」
「半分じゃないの?」
「甘いわね、フラン」
そんなの半分で当たり前じゃん位の感覚で答えたら、アイリからなぜかつっこみが入った。
「その答じゃ満点じゃないわ。ですよね? ケイン先生」
「そうだな」
私が不思議がってると、エリーも疑問を持ったようだ。
「非常食を持っていくのなら、何かがあっても大丈夫なのではなくて?」
「そうだよ。ダメなの?」
「アイリーン様、答えと理由を聞かせてもらえないか?」
アイリは待ってましたと言わんばかりにドヤ顔で答え始めた。
「3分の2から5分の3程度ね。もちろん冒険の内容によると思うけど、帰りは体力が消耗してるはずだし、体力の消耗具合によっては魔素吸収力が落ちるはずよ。だから帰りは行きよりも時間がかかる可能性が高いと思うわ。それを計算して少し余裕を見た方がいいと思うのよ」
「素晴らしい回答だ。アイリーン様の言う通りだ。もちろん、隣町に向かうときとか目的地がハッキリしてたり安全だったりする場合は話は変わってくるけどな」
前世ではよっぽど変なところでもなければ、食事はお店があるから困らないし、電車や車での移動がメインだから、動き回る時はバッグに財布や化粧品とかの日用品以外ほとんど持ち歩かなかった。
着替えなどは旅館に送るか車で持ち運べばいいし、帰りの際は自宅宛に送ってもいい。海外旅行だと荷物が予定通りに届かないこともあり得るので多少は持ち歩くけど。
う~ん、前世の旅行と似たようなものと思ってたけど、中世ヨーロッパっぽい時代なうえに魔物がいるということを考慮しなければいけなかった。私の考えが甘かったみたい。
「むぁー、なるほど。アイリはよく分かったね」
「そりゃまあSQやダンジョンもので……迷宮攻略の伝記の体験談にそうあったからよ」
「素晴らしいですわ。アイリは本当にいろんなことを知ってますわね」
「まあね~」
これ、もしかして前世のマンガやゲームの知識なのかな?
まあいっか。
嫌な予感などの直感。
実はこれ、かなり重要らしい。
ベテランにもなると、危機察知のスキルと呼べるようになるんだとか。
えー、ホントぉ?
そんなのマンガやゲームの中だけじゃ……。
と一瞬疑ったが、考えてみたらこの世界は魔法や魔術とか言う謎現象がある世界だ。
そういうのがあっても不思議じゃない。
そもそも私はケットシーっていう妖精でもある猫獣人。存在がファンタジーの塊だったわ。
「ちなみに種族ごとに直感の傾向が違ったりするぞ。獣人はたくさん種類がいるから一概には言えないが、フランのような猫獣人なら動物や魔物に対して直感が働きやすいな」
あ、当然お父さんも家の外では私やお母さんのことを猫獣人って言ってるからね。
私がケットシーだってことは秘密だ。
「それなら私向きでよさそうかも。でもその直感って、直感だーって分かるものなの?」
「ああ、分かるぞ。まあ危機の程度にもよるし、最初は「なんか嫌な感じ」ってくらいだけどな。でも、ホントにヤバいことを察知できた時は「あ、これはヤバい」って理屈抜きで思えるぞ」
「そうなんだ。ありがと」
「ケイン先生、エルフやドワーフはどうなの?」
「エルフは魔素や魔力的な事柄に対して、ドワーフは金属や鉱石などの資源的な事柄に対してって話だな」
「ケイン先生、では普人ではどういった特徴なのかしら?」
「普人は、まあ想像できると思うが、突出してないが平均的に直感が働くな。もちろん個人差はかなりあるけどな」
「やはりそうなのですね」
直感一つとっても種族ごとに特徴が出て面白い。
私は獣人なので、万が一の際はきっと猫獣人でもあるケットシーの謎パワーが私の危機を知らせてくれるかもしれない。過信はしないけど、少しくらい期待してもいいよね。ファンタジーな存在なんだし。
この世界に転生し、自我が戻ってすぐに思い描いた世界旅行という夢。
この世界は文明が中世ヨーロッパっぽい時代だから交通手段が限られている上に魔物がいる。思った以上に大変かもしれない。
でも、それでも、私はまだ見ぬこの不思議な世界を知りたい思いは変わらなかった。
次回更新は3/21(水) 19:00の予定です。




