第88話 初めての冒険者活動
3/6 誤字修正しました。
そんなこんなで私たちはクエストボードの依頼書を確認していく。
私たちのような冒険者が街中でやれるお仕事は、ほとんど派遣のアルバイトみたいな感じだ。毎回違う冒険者がお仕事にきて大丈夫なのかという心配はあるとは思うけど、識字率が低いから仕事は割と単純な物が多い。
そもそも王都と言えども現代日本のような人口は無いし、多くの種族の人がいるので特徴的に覚えやすかったりするので、割と顔見知りだったりする。
だから冒険者は顔を覚えられるので手を抜けない。
それに顔見知りでない旅するタイプの冒険者でも、信頼を対外的に示すためクエストを高評価にするよう努力する。例え戦闘能力が【ゴールド】ほどの実力が無く、【シルバー】や【ブロンズ】でも実績が高ければ、結果的に【ゴールド】より好待遇なんてことも普通にあり得る。
なんてことを考えながら私は二人の様子を見てる。
ちなみに朝イチのピークは過ぎてるので取り合いになるようなことはなさそうだ。
「うーん……3人でやれる美味しそうな依頼ってあんまり無いわねえ」
ピークが過ぎたということは、美味しそうな依頼は既にとられた可能性が高いと言うことでもある。
「正直、初心者でできるものなのか判断がつきませんわ」
でも、識字率が高くないせいもあり、意外と取りこぼしがあったりする。
最初は二人に選んでもらう話だったけど、なんだかんだと決まらなさそうなのでいくつか目星をつけてみた。
「これなんてどおかな?」
私は依頼書を指さして聞いてみた。
「ええと……パン屋の売り子、ですの?」
「孤児院のお手伝いもあるわね」
「うん」
実はこの2つの依頼は単純に報酬の金額だけじゃなかったりする。
報酬の数字だけは読めるのは珍しくはないけど、特記事項に報酬に上乗せしてくれる内容がある場合がある。この辺が識字率の問題で見逃されたりするんだよね。
エリーとアイリはそれぞれの依頼書を順番に読んでいる。
「……両方とも報酬がすごく安いわね。こんなものなのかしら?」
「私は報酬額を気にしませんわ」
「仕方ないよ。今の私たちでできそうなのってこれくらいでしょ?」
アイリは前世が日本人っぽいしアクセサリーを売ったりしてるので金銭感覚はあるとは思うけど、男爵令嬢と貴族だから普段目にしてる金額とは違うのかもしれない。
一方、エリーは公爵令嬢とお金持ちなので報酬額はもはやまったく気にしてない様子だ。
「それとも常時依頼の街の清掃やる?」
「一応聞くけど、街の清掃の内容は?」
「ゴミ拾いや馬車の……あれの処分だよ」
さすがに貴族二人に汚物の清掃はさせられない。
うちにいるスラちゃんを連れだしてお願いすると言う必殺技もある。
でもスラちゃんは今やペットであり、普通にペタペタ触るので、問題ないとわかってても気持ちの問題で汚物の処分はさせたくない。
スラちゃんは元々お手洗いの中にいたんだけど、お父さんとお母さんの話によると、進化して元の生活用のスライムから変わったようなので気にしてない。見た目はすごくきれいだし。
それに後ろにいるスーさんもお嬢様にそれをさせないでくださいと涙目で訴えかけてくる。
さすがに未成年の公爵令嬢ともなればメイド兼護衛がつくようだ。
エリーは極力手や口を出すなと命じているので、スーさんが口出しすることはないが、こうして私に目で訴えてくるのだ。
「げ、さすがにそれは……」
「あら? 何事も経験ですわよ?」
確かにこれも立派で大事な仕事だけど、病気の蔓延とか防ぐ大切な仕事だけど、できれば私もやりたくない。
猫獣人は鼻が良いから絶対きついと思うし。
清掃のお仕事してる人はホントすごい。感謝だ。
とりあえず、清掃から別の依頼に目を向けさせなければ。
「ま、まずは一番簡単そうなパン屋の売り子をやろうよ、ね?」
「そう、ならそれをやりますわよ」
良かった。あっさり何とかなった。
でもいつかエリーが絶対にやると言い出すのは目に見えてる。
なのでその時のために、清掃する魔法を考えとこう。で、完成したら二人に覚えさせようそうしよう。
もちろん、今の二人の魔素保有量でできそうな範囲でだ。
「街の清掃はまた今度ですわ」
ほらやっぱり。
依頼書をボードから取り外し、ようやく空いてきたお母さんの受付に行って受注する。
「フラン、エリザベス様とアイリーン様のことをちゃんと支えて差し上げるのよ。あと、思いつきで変なことしちゃダメよ?」
「分かってるよ。心配性だなあ」
「マリアンナ先生、大丈夫ですわ。フランのことはちゃんと見張っておきますわ」
「え? 私やらかすの前提なの!?」
「いや、アンタは魔法が便利だからって普通できないことを平然とするじゃないの。今日は緊急時以外、魔法禁止よ」
「むぁー……」
と、消沈したものの、魔法は使わないとは言ってない。
仕方ない、ばれないようにこっそり……はやらないよ。
お母さんがニコニコ私に微笑んでるからじゃない。ないったらない。
依頼を受けた私たちはさっそく現地に向かい、2の鐘が鳴る前に目的地に到着した。
パンのいい香りが辺りに漂っている。
このお店は街中をぶらぶら散歩してるときに何度もお世話になったお店だ。
黒パンだけでなく、白パンや他では見かけない創作パンまで手掛けるナイスなお店だ。
ちなみに5歳の時は赤髪がトレードマークの魔術師ルビーお姉さん、金髪美少年冒険者のライト君に何度か依頼として王都を観光して回ったので、だいたいメジャーなところは教わったのだ。この店もそう。
そして6歳になる頃にはついに自分一人で歩き回るようになった。
貴族街や治安の悪そうなスラム、なんとなく魔物が入ってきそうで怖い外壁の近く以外は概ね分かるようになった。幼女でも大丈夫な獣人の体力様様だ。
私は元気よく挨拶しながら勝手知ったるお店に入っていった。
「パン屋のおじさーん、おはよー!」
「お、フランちゃん、いらっしゃい。今日は友達をつれてきてくれたのかい?」
「うん! あ、でもね、今日はお仕事を受けにきたんだよ」
「なんだぁ? フランちゃんは冒険者になったのかい?」
パン屋のおじさんは意外そうに目を丸くしていた。
「そうだよ、今日なったんだ! おじさんのお店のお手伝いが初めてなんだよ!」
「おお、そいつは光栄だねぇ。それにこんなに可愛い子ちゃんがいれば、いつもより客が集まりそうだ。で、そろそろ紹介してくれないかい?」
おっとそうだった。
「こっちのドリルがエリーで、ピンクの子がアイリだよ。二人とも私の大好きな親友だよ!」
「初めまして、パン屋のおじさま。私はエリザベスですわ。今日はよろしくお願いしますわ」
「初めまして、アタシはアイリーンよ。よろしくね。あとフラン、いくらなんでもアタシたちの紹介が雑すぎない?」
「えー、分かりやすいじゃん」
「確かにアタシの髪の毛はピンク色だけど、その言い方だとなんかアタシの頭の中がお花畑っぽいじゃないの」
「分かりやすいですし、私は構いませんわ」
「や、アンタ親友って言われて嬉しいだけじゃ」
「おーーほっほっほ!」
「誤魔化したわね……。まあアタシも親友と言われて嬉しいけど」
いつものように話が脇にそれてしまうと、パン屋のおじさんが頃合いを見て話を進めてくれた。
「ははは! 仲良しだな。俺はブレッド。まあパン屋のおやじって呼んでくれ」
「ブレッドって、まんまじゃないの……乙女ゲーだからかしら……?」
これまたいつものようにアイリがボソッと呟いた。高性能なネコミミはこの呟きを耳ざとくキャッチした。
分かるよ、その気持ち。
少なくともこの国ではブレッドって言葉にパンの意味は無い。パンはパンって呼び方だ。
私的には名前が覚えやすくていい。でも呼び方はパン屋のおじさんだけど。
「じゃあさっそく説明するぞ。そんな難しいことはないが、分かんないことがあったら遠慮せず聞いてくれ」
私たちはお仕事の内容を聞く。確かに難しいことはなさそうだ。
次回更新は3/9(金) 19:00の予定です。




