第85話 個性的な人が集まる冒険者ギルド
誤字修正しました。
「私は冒険者になりますわ」
いつものようにお茶会してると、エリーが切り出してきた。
「唐突ね。なんでまた冒険者になりたいの?」
アイリが紅茶を飲みながら尋ねる。
「貴族として民衆の生活がどのようなものか知るべきと思ったからですわ」
「本音は?」
「もちろんフランの話を聞いていて我慢できなくなったからですわ」
「ですよねー」
「お二人とも一緒にやりませんこと?」
何だかんだとお茶会が始まってからなんだかんだと3年たった。
今の私たちは8歳。
元気があり余っている時期なのだ。
全然関係無いけど、8歳と言えば歯が生え変わってる時期でもある。
歯がぐらぐらし出した時はすっかり忘れてたので超焦った。慌ててるところをお母さんとお父さんに教えてもらって思い出したのだ。
猫獣人でも普人と変わらないっぽい。っていうか、前世と変わらない。
当然エリーとアイリも生え変わってきている。貴族のマナーなのか二人とも話すときは口の中があまり見えないように手を当てたり扇子で隠したりと気を使ってるようだ。
私は多少気を付けはするけど、そんなに気にならないから今まで通り。だって無理してもしょうがないし。
二人は冒険者ギルド職員の娘である私の方を向く。
「私はいいけど、冒険者って結構大変だと思うよ? あんまり依頼で評価低いと個人としての信用も落ちちゃうし。大丈夫?」
「望むところですわ。無理のない依頼をこなせばいいのですわ」
公爵令嬢であるエリーを知ってる人のとこに依頼を受けて行ったら大変なことになりそうだけど……まあいっか。
「アタシもやるわ。どんなものか一度は体験してみたかったのよ。冒険者になってすぐにSランクになるとか言うテンプレのチャンスね」
私は冷静につっこみを入れる。
「Sランクがどのランクかは分かんないけど、最高ランクはオリハルコンだよ?」
「なん……だと……?」
アイリは漂白されそうな感じの表情をした。
彼女はこの3年でこの手のネタを結構出すようになっていた。
翌週、エリーのお屋敷ではなく冒険者ギルドに集まった。
エリーもアイリも普段のドレスではなく、動きやすいエプロンドレススタイルだ。
よく見れば貴族だと分かるけど、貴族でも冒険者をやる人はいるので別に問題はない。貴族の女性が冒険者やるのは珍しいかもしれないけど。
もちろん私もいつものようにワンピースにエプロンを付けたドレススタイルだ。お揃いだけど生地の質が違うのは仕方ない。二人に比べてそんな見劣りはしないと思う。たぶん。
私たちはサラさんがいる受付に並ぶ。
お母さんのとこはいつも大盛況なので時間かかるし、お母さんからもサラさんのところに並んであげてと言われてる。
サラさんのとこもそれなりに混んでるけど問題ない。でも受付からこっちに来て欲しいオーラを出してる。
「冒険者登録するときとか、新人の女子供に絡む冒険者がいるなんてテンプレはあるのかしら?」
「私たちのような子どもに絡んだとなれば、他の冒険者、依頼者、ギルドから総スカン食らうのは目に見えてるし、そんなおバカなことをする人はいないと思うよ? だいじょーぶ」
「ですよねー。実際問題として変なのに絡まれたくないから良かったわ」
三人で苦笑しつつサラさんの受付の列に並ぼうと移動していく。
「お? なンだぁ? 子猫ちゃんは今日何を依頼するンだぁ?」
振り返るとトゲ肩パッドな世紀末ファッションのモヒカンが声をかけてきた。
あ、世紀末トリオのリーダーじゃん。
スキンヘッドとトゲ頭もいる。
「ちょっフラン! アンタ変なフラグ立てないでよ! 絡まれてるけどどうすんのよ! 消毒されちゃうわよ!」
「なんで消毒なむぁー~」
アイリが顔を青ざめながら私の肩をつかんで激しく揺さぶってきた。
「アイリ、大丈夫ですわよ。フラン、私はアイリに話しておくので、そちらは頼みましたわ」
「むぁ~、分かったぁあぁ~」
エリーにアイリのことをお願いした。ようやく揺さぶり攻撃(?)から解放される。
ふぅ。
確かにこの人たちの出で立ちはヤバいよね。分かる。
初見でブルブルと震えるのも仕方ない。
……慌てるアイリは貴重なのでもうちょっとアイリの様子を見てみたいと思ったのは秘密だ。
「おはよう、リーダー。久し振りだね」
私はリーダーに挨拶を返してると、後ろにいたスキンヘッドとトゲ頭がだべってる。
「っつーか、そこの子ってずっと前に会ったドリルっ娘じゃね? それと桃っ娘も友達とか?」
「オメーのネーミングセンスで朝からウケるわ。 ってかハゲのオメーが髪の毛を特徴で言うのかよ。余計ウケるわ」
「だろ?」
「「ぶははははっ」」
相変わらずテンションが高いスキンヘッドとトゲ頭は放っておいて、私はリーダーと話す。
「今日は依頼しに来たんじゃないよ?」
「なんだ、じゃあ友達と遊んでンのか?」
「違うよ。私たちも冒険者になりにきたんだよ」
「おいおい、大丈夫か?」
「活動するのは街中だし、変なところには行かないから大丈夫だよ」
「そうか? まあなんかあったらすぐに助けを求めるンだぞ?」
「うん、心配ありがとね」
見た目に反してちゃんと心配してくれる。相変わらず面倒見のいい人だ。
「オメーら聞いたか! 何かあったら子猫ちゃんたちを助けてやれや!」
「当然だぜ!」「おうとも!」「当たり前でしょ!」「おー!」「もちろんよ!」「そりゃ助けるだろ」「仕方ねえな、へへっ」「幼女を助けるのは紳士の勤めですな」「うむ」
冒険者ギルドに来る人たちはみんないい人で暖かい気持ちになる。
「リーダー、ありがとね! みんな、ありがとね!」
私は笑顔でお礼を言い、二人の方に振り返った。
「どお? 見た目はすごいけど、リーダーはいい人でしょ?」
「……そうね。アタシの早とちりだったわ」
アイリが私の前に出てリーダーにお礼を言った。
「リーダーさん、失礼な態度をとってしまいごめんなさい。あと、気遣っていただきありがとうございます」
「別に礼を言われたくてやったわけじゃねーからな。気にすンな」
「誤解が解けて良かったね」
話が一段落した空気を察したのか、スキンヘッドが口を開いた。
「お、そろそろあれじゃね?」
「リーダーよろー」
リーダーは頷くと片腕を振り上げた。
「「「ヒャッハーーー!!!」」」
世紀末トリオはいつもの謎の掛け声をかけ、依頼を受けずにどこかに行ってしまった。
「……冒険者ギルドには世紀末なやつらやロリコン紳士な人たちがいる。アイリ、分かった」
「そのようですわね」
「いやいや、一部だよ!? ホントだよ!?」
個性的すぎる変な人たちはホントにごく一部……だと思いたい。
次回更新は2/28(水) 19:00の予定です。




