第81話 アイリーンはオタク文化を広めたい
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もういいわよ。
どうせ前世のアタシは一般人だもの。
高望みはしないことにするわ。
そんなこんなで、やれることがなくなってしまったのよね。
アタシは一風変わったお転婆お嬢とか使用人からも思われており、食中毒事件以来、何かしようものなら止めに入るようにと両親から指示が出ている。
幼女の体では何をやるにも力不足に体力不足。
今のアタシにできることと言ったら、ムーンライト家の十八番、金属を柔らかくする謎の魔術くらいで、これしかアタシの武器になりそうなものはない。
そんなわけでこの魔術で何かできないかと考え抜いた末に思い付いたことは、金属細工に使えそうだということね。
これなら大手を振って堂々とできるわ。
実際、お父様に話したらあっさり要望が通った。
今のアタシには前世の趣味でやってたアクセ作りの経験がある。
前世のアタシにアクセ作りの才能は多少はあったみたいだし、中世ヨーロッパっぽい時代なら十分やっていけるはず、と思いたいわ。
そして将来的にはブランドを立ち上げてある程度資金ができたら、前世にあった便利グッズを手掛けたり、サブカルチャーに投資をしてオタク文化を広めて……ふふふ、壮大な計画よね。
うまくいけば魔術師の地味な格好を魔法少女風にするのも夢じゃないはずよ!
ま、そんなトントン拍子でうまくいくとは思えないけど、幸いにもうちにはアクセサリーの経営店があるらしい。
趣味で作ったものを出してもらって売れるか様子を見なくちゃね。
いくら金属が柔らかくなると言っても、幼い手で作るのは思った以上に大変。でもめげずに数ヶ月ほどアクセ作りを続けてお店に並べてもらうと、段々と売れ始めた。
そして店員から少しずつ噂になってきてるらしいと話を聞くことができた。
きたっ!
アタシの時代きたっ!
しかも前世にあったデザインをパクったアクセもあるけど、売れ行きがいいのはアタシがデザインしたものだ。
正直ものすごい嬉しい!!
そしてある初夏の日、うきうきしてお店に新作のアクセを持っていったら高笑いが聞こえてきたのよね。
高笑いとかどんだけよ、一体全体どこの誰よと思ったら、まさかのツインドリルよろしくエリーだったわ。
あの時は不敬罪になるんじゃないかと内心ビクビクだったのは今となってはいい思い出よね。
そして直後にフランを見て、名前を聞いたとき、脳裏に何かがよぎったのよ。
金髪ツインドリルに高笑い、銀髪ネコミミ娘、ピンク髪の三人の少女たち。
この組み合わせ、どこかで見たことあるような……。
そしてアタシの脳裏にズドンと雷が落ちた。
もしかして、アタシって前世で好きだった乙女ゲー【乙女物語 ~アナスタシアと王子様~】のキャラ?
え?
うそ?
だって、この三人って確か悪役令嬢とその取り巻きよ?
分かりやすいざまぁ対象なのよ?
デッドエンドまで用意されてるのよ?
このままじゃヤバい。
もしかしたら違うかもしれないからネコミミっ娘の名前を確認しなきゃ……。
すごく確認したくないけど、最悪を想定するのよ……。
「ね、ねえ、あなたの名前ってもしかしてフランシェスカだったりする?」
【乙女物語 ~アナスタシアと王子様~】は、アタシが前世で好きな乙女ゲー。
このゲームは乙女物語シリーズの一作目。平民のアナスタシアが貴族学校に入学し、王子様と恋に落ちて結婚する物語よ。
分かりやすい王道ストーリーと音楽で人気を博し、乙女物語はシリーズ化したわ。
アタシはそんな人気作品に出てくる悪役令嬢の取り巻き。
しかも待ってるのはどのルートでも破滅しかない。
エリーとフランに出会い、これらを思い出したときは本当に生きた心地がしなかった。
でも、なんとかフランの説得に成功して心底良かったわ。
乙女ゲーのフランは持ち前の容姿をうまく使い様々な人を手玉に取り、好き放題する小悪魔のようなキャラ。
でも現実に存在するこのフランは乙女ゲーのフランとは全く違い、とてもいい子なのよね。
アタシは前世の記憶があるから大丈夫だけど、5歳の普通の子が物事の良し悪しをしっかり理解してるって相当すごいと思うわ。
しかもあり得ないほど頭がいい。
敬語とかカーテシーとかいったいどこで覚えたのよ。
原作のフランについては記憶の欠落が激しく、せいぜい小悪魔のようなひどいキャラっていう特徴と名前くらいしかまともな記憶が無いんだけど、こんなすごい子だったのかしら?
まあこの世界はゲームとは違うから、下手に知識があることで起きそうな思い込みをしないだけいいかもしれないけど。
だいたいあの日までここが【乙女物語 ~アナスタシアと王子様~】の舞台とは気づかなかったわ。
なぜならゲームにないことが多すぎるのよね。冒険者ギルドとかそんなの無かったわよ。
単純に物語の中で描かれてなかった?
ひょっとしたら他のゲームの設定が混ざってるとか?
うーん、よく分からないわ。
とにかく、アタシもフランも、そしてエリーもゲームのキャラなんかじゃない。
アタシたちはれっきとしたこの世界の住人。
転生による知識チートでお金持ちになりたいとは思うけど、偉くなりたいとはそんなに思わないのよね。
偉くなるよりもアタシはオタク文化を広めたいわ。
具体的には薄い本を読みたい。とにかく読みたい。
本が貴重なのは分かるんだけど、すごくマンガや小説を読みたい。もちろん、うへへ……な本とかも。
他には魔術師には地味なローブ姿じゃなくて、アニメのコスプレとかしてもらいたい。クラシックスタイルのメイド服じゃなくて、萌え萌えなメイド服を流行らせたい。
サブカルチャーは人生を楽しくする最高のスパイスよ!
つい欲望が駄々漏れてしまったけど、こんな目標があってもいいと思うのよね。
ここまで【乙女物語 ~アナスタシアと王子様~】の設定が出てきたのってアタシとフランとエリーの登場人物くらいかしら。
まあゲームは貴族学校に通うところからスタートな訳だから、そもそも今の時点じゃゲームが始まってすらないけど。
万が一を起こさないためにバッドエンドフラグだけフランと一緒に気を付けていけば、エリーが道を踏み外すことはないだろうしなんとかなるでしょ。
なんだかんだとエリーとも友達になれたし、フランやエリーが悪い子になるような傾向は一切ないし、ホント、平和でいいわ。
平和じゃないとオタク文化が広まらないしね!
次回更新は2/13(火) 19:00の予定です。




