第77話 マリアンナの独白
今回からしばらくはフラン以外の視点で話を進めていきます。
私はマリアンナ。王都冒険者ギルドの受付嬢よ。
そして最愛の夫ケインの妻であり、愛娘フランの母親。
私の種族はケットシーと言う個体数が少ないとても珍しい種族なの。
昔から金運が上がるとかいう迷信のせいで狙われるので、王都冒険者ギルドのギルマスみたいな心強い後ろ盾以外には種族を明かしてないわ。
下手に明かすとその相手も巻き込むことになるしね。
まあもしかしたらミィ辺りは私たちの種族に気づいてるかもしれないわね。聞いてこないのはお互いのためでしょう。
それにあの子も普人とは違うと思うし、私たちと同じように隠してることあると思うわ。
ま、私のことはこれくらいにしておきましょう。
私がエリザベスお嬢様とアイリーンお嬢様の講師になってかれこれ1年がたったわ。
お嬢様たちは普人として飛び抜けた才能を持ってると思う。
この1年で魔力感知と魔力操作をある程度ものにしたし、次第に魔素の取り込む量と蓄えられる量が多くなっていったもの。
やっぱり普人でも小さいうちから魔力に関する訓練をやった方が伸びがいいのかしら?
そろそろ魔法の実践していきましょう。
そんなすごい彼女たちだけど、娘のフランと比べてはいけないわ。
そもそも種族が違うから単純に比較はできないけど。
フラン自身は全く気づいてないけど、あの子は間違いなく規格外の才能の持ち主。天才だと言われた私が霞むくらいのね。
今の実力はまだ私の方がずっと上だけど、間違いなく私を越える素質があるわ。
将来が楽しみね。
ただ問題はとても怖がりなことと、戦うことが好きじゃないってことかしら。獣人なのに。
フランの才能と実力ならそろそろ城壁の外で狩りをしても全く問題ないと思うんだけど、あの子はケインにしがみついて頑なに離れなかったのよ。
無理矢理引き剥がそうとしたら、フランが泣いてケインの首に腕を回すものだから、危うくケインが窒息するとこだったし。
もう少し大きくなって忘れた頃にそれとなく連れ出すように仕向けましょう。
それにしてもあの子については本当に話題が尽きないわ。
小さな頃からとにかく好奇心が旺盛。私のドレッサーをひっくり返して遊んでたくらいにね。
いつの間にドレッサーにアクセサリーが入ってるって知ったのかしら?
それにとても優しい子。
フランが3歳の頃、私のことが大好き、愛してるって心の底から言ってくれたんだもの。
あの感動は生涯忘れることは絶対にないわね。
あ、思い出したら嬉し涙が出そう……。
もちろんケインも私と同じ気持ちよ。
あの子は本当に愛しく可愛い子。
それにエリザベスお嬢様とアイリーンお嬢様という素敵なお友達ができて良かったわ。
私は種族柄、人とあまり深い付き合いをしないものだから、フランと同年代の子どもがいる親と付き合いが無いのよね。
にもかかわらず、いつの間にか友達を作るのよ。
あの子はとてもいい子だし意外と社交性があって可愛いから好かれやすいってこともあるわね。
魔法の才能についてはとにかく規格外の一言よ。
4歳で魔力を作り出せたり、わずか1年で魔力感知と魔力操作の基礎をマスターとかケットシー史上最年少じゃないかしら。
どこまでできるか楽しみで次々課題を出していったけど、あっという間にクリアしていったんだもの。
そして魔法を教えるという約束についてなんだけど、ついいつものように無茶なお題として回復魔法を教えたら1発で成功させたのよ!
分かる?
この驚き!
魔法の中でも難度が高いから夕食までにはとっかかりくらいは掴めるかなって思ってたのによ?
その後はもう驚きを通り越してたわね。
2回目は上級回復魔法レベルだし、更にその後は失伝魔法を発動させるし。
あの才能には嫉妬を感じる以前にもう尊敬の念しか浮かばないわ。
フランは私のことをよく「「だってお母さんだし」で納得できるほどお母さんは何でもできてすごいんだよ!」ってキラキラした目で見るけど、それは逆よ。
「だってフランだし」であの子は私の予想以上のことをしてのけるのよ。しかも自覚なしに。
うふふ、これじゃ親バカね。
とにかく、あの魔法の件についてはギルマスに預けて、5年で実用化できるようにしてもらえばいいわ。
もし実用化せずにフランがあの魔法を使えると話が広がったら、最悪フランを巡って戦争が起きかねないレベルだもの。
まああの子は大事な約束は絶対に破らないようにしてくれるからそんなには心配はしてないけどね。
約束は破らない。それでこそケットシー一族よ。
ああそれでも魔法関連では時々やらかすのよね、あの子って。
友達へのお土産が思い浮かばないからって、立体映像魔法とか言ってたっけ?
見たことも聞いたこともないとんでもない魔法を作りだしたのよ。
しかもわずか1週間程度で。
魔法は想像力が大事だけど、それはあくまで使い方を知った上で、その知ったことをイメージできなきゃいけないのよね。
だから魔術とそう変わらず、どうすれば発動するイメージを持てるか、ということを知って学ばないといけないわ。
やろうと思えば結果だけイメージして魔力にものを言わせて無理やり発動できるけど。
そんなわけで子どもの発想と想像力って本当にすごいわ。
そしてそれを実現できるほどの規格外な才能。
さすがケインと私の娘ね。
ま、魔法について何か新しいことするときは教えてねって約束をちゃんと守ってくれてるし、持ち前の臆病な性格のおかげで見せびらかしたり危険なことはしないから安心なのよね。
怖がりで安心できるってなんだか複雑だわ。
そうそう、やらかすと言えば、つい最近も盛大にやらかしたのよね。これこそギルマスに言うかどうか悩ましいレベルのことを。
事の発端は「ポーションって魔素が水に溶け込んでるのなら、魔力も水に溶け込むのかな? ポーションみたいなのができるのかな?」って変な実験をし始めたことよ。
多分、魔術訓練前のお茶会でアイリーン様の言ったことに触発されたんだと思うわ。
アイリーン様は、「コップに水を注ぎ、その水に魔力を染み込ませた結果を教えてほしいの。見た目で変化が無かったら味に変化が無いかも教えてね。今のアタシの魔力量じゃフランと比べて少なすぎて分からなかったのよ」とかおっしゃってたし。
ちなみにフランは水に魔力を染み込ませてみたけど、見た目も味も変化は無かったみたい。
子どものやることって面白いわね。
そう思って放っておいたあの時の私をひっぱたいてやりたいわ。
次回更新は2/1(木) 19:00の予定です。




