第66話 エリーからのお手紙
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王都観光から1日たった。
観光の翌日の日曜日になっても上がったテンションが下がらず、私は家の庭で運動していた。
前世じゃテンション上がったから運動するなんて考えられない。自分でもビックリだ。
他に体を動かすことで何かあるかと言われると、お庭で遊ぶか魔力操作の訓練しかないんだけどさ。
運動はお母さんが付き合ってくれた。
お父さんは名残惜しそうにしてたけどお仕事なので仕方ない。
ちなみにお母さんは久しぶりのデートだったからか、昨日に続いて今日も機嫌がいい。それにしっかりつやつやしてる。
運動の内容は、お母さんの後をなるべくぴったりついていくように緩急をつけて走ったり、お母さんが放り投げた木製のボールをジャンプでキャッチしたり、瞬発力を鍛えるように動いたり、ついには木製のボールの回避をするまでなって……ってなにこれ!?
「ね、ねえお母さん。運動って言うより、なんか訓練になってるような気がするんだけど……」
「そうよ? 狩りのための訓練よ?」
すっかり慣れたと思ってたけど、ふとしたときに出てくる獣人の文化にやっぱり驚く。どうやら運動は狩りや訓練とイコールらしい。
まあ魔物っていう物騒な存在がいる世界なので、いざというときに動けないよりはずっといいけど。
それにしても信じられないほど思い通りに体が動く。楽しい。
それだけじゃなく、私みたいな子どもですら普通にジャンプしても余裕で1メートル以上は飛んでるんじゃないかと思う。体が軽い。
反射神経も信じられないくらいあるし、木製のボールが避けれる避けれる。何回かは当たったけど。
なんにせよ、獣人すごすぎでしょ。
ちなみにボールが当たるとお母さんからは、立ち止まらずに当たったところから回復魔法を発動できるようにしなさいと鬼リクエストが来た。
魔力操作で身体中どこにでも魔力を移動できるけど、それで魔法が発動させられるかどうかは別だ。もちろんそんな器用なことはすぐにできるわけない。
いずれできればいいと言ってくれるけど、しっかり日課の魔力操作に組み込まされた。
運動により夜には落ち着いた私のテンションは、月曜日の朝、ギルドに来てまた上がった。
なんとエリーから手紙が来たのだ。
あなたの友人エリーより、私の友人フランへ
宛名を読むと資料室の司書ミィさんとは違う方向性で綺麗な字で書いてあった。
ミィさんが教科書に書いてあるお手本のような文字だとすると、エリーの文字は筆記体のような美しいって言葉が似合う文字だ。ホントに5歳児の文字?
ちなみに私の文字は丸文字っぽくなる。
前世は容姿が平凡だったので、少しでも可愛い要素を増やしたいと練習した結果身に付いた。もう癖になってるので文字が変わろうがそのままだ。
多少あざとい感じがしないでもないが、文字が下手よりはマシなはずだ。
便箋の裏側には「ご両親からフランへ読んであげてください」と書かれている。
そりゃ普通の5歳児は読めないもんね。
でも、私はすでに読めるので便箋を開け早速読んでみた。
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フランシェスカ様
日が照らす時間が長くなり、明け方に朝顔の花が咲く季節となりましたわね。フランシェスカ様はいかがお過ごしでしょうか。私はとても元気ですわ。
さて、先日帰り際に、すぐに会えるとお伝えしておりましたとおり、この度はフランシェスカ様をお茶会にお誘いしたく存じますわ。
来週の土曜日に開催しますので、参加いただけると嬉しいですわ。
そうそう、お茶会といっても参加者は私とフランシェスカ様、それにアイリーン様の3人ととても小さなお茶会だから気負う必要はないですわ。
お返事は、同封してる紙に参加するなら〇を、参加しないなら×を書いて、水曜日のお昼までにギルドに預けてくださいませ。
ではごきげんよう。
エリーこと、エリザベス・ファーレンハイトより
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……これ、ホントに私と同じ5歳児が書いた文章なの?
めっちゃスタイリッシュだ。エリーかっこよすぎ。
私は将来旅行するための知識を得たいということと、単に暇だったから自主的に学んだけど、それができたのは前世の記憶と精神という下地があったからこそだ。
貴族って子どもの時から英才教育で大変なんだなぁと思う。
返事は当然参加だ。
せっかくだし私も手紙を書いてみよう。ビックリしたエリーの顔が浮かび、思わず「んふふーん」とによによしてしまう。
そんなわけで、冒険者ギルドには紙とペンの筆記用具も売っているので早速買ってみた。
なんと一番安い羽ペンとインクのセットで40Gもした。手紙用の紙は5枚で1Gだけどおまけしてもらった。
前世の100均で揃えれた感覚があったので、正直こんなに高いとは思わなかった。
買うときに思わず「お値段一桁間違ってるんだよね?」と聞いてしまったくらいだ。
先週依頼を出した日にもアルバイトしなかったら買えないとこだった。危なかった。
もちろんおこづかいはすっからかん。
でもつい最近まで自分のお金なんて無かったからすっからかんでも別に困らない。
手紙を書いたあとにアルバイトすればいいし。
さっそく私も筆を執った。
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エリーへ
フランだよ。お手紙ありがとう。
エリーが元気そうで良かった。私も元気だよ。
もちろんお茶会に参加するよ!
まさかお茶会に誘われるなんて思ってなかったからびっくりしたけど、エリーにまた会えると思うと嬉しいな。それにアイリも誘ってるんだね。アイリも来てくれるといいね。
そうそう。あのあとアイリとも友達になったんだよ。詳しい話はお茶会のときに言うね。
二つの心配事があるんだけど、先に伝えておいた方がいいのかな?
一つ目はお洋服。エリーのお家に見合うような服がないんだけど、いつもの服でいいの?
二つ目はお作法。エリーの友達として、エリーに恥ずかしい思いをさせたくないんだけど、私は貴族のお作法は分かんないの。それでもいいの?
なんか手紙書いてたら私が参加してもいいのかだんだん自信無くなってきたよ。
エリー、大丈夫?
フランより
追伸
実はこの手紙は私が書いてるんだよ。
どお? 驚いたかな?
エリーのびっくりする姿が目に浮かぶよ。
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貴族風の手紙の書き方なんて知らないから口語調で書いてみた。
仮に知ってたとしても、どうやって貴族の教育を受けたのかという疑問が残るので多分これが一番いいはずだ。
平民の5歳児が文字の読み書きできる時点で驚きだろうけど、ミィさんに教えてもらったって事実があるから、こっちならつっこまれても問題ない。
心配事についてはもうストレートに聞いてみた。
獣人の街娘が貴族の家に行くような服なんてないので、正直普段着でいいよって言ってもらいたい。
作法については言わずもがなだ。
その場しのぎなら拙いながらもできるだろうけど、ずっとやり続けるのは無理だしそもそも見苦しいと思う。
……読み返すととても貴族相手に出すような手紙ではない気がする。
エリーなら不敬をとやかく言わないだろうし、〇×の返事以外に手紙があれば喜んでくれると信じて出そう。
でも「ご両親からフランへ読んであげてください」と書いてあったので、私はその場ですぐには出さず、念のためその日の夜、お父さんとお母さんに確認してもらった。
昨夜は両親には友達が貴族だとは言わなかったので、すごく驚かれた。
でも、相手が貴族だろうとなんだろうと関係なく、私のやりたいようにやればいいと言ってくれた。
私がエリーのことを本当に大丈夫と信じられるのなら問題ないとのことだ。
それに万が一何かあっても何とかできるって。
貴族相手に何とかできるものなの?
でも二人とも迷うそぶりもなく断言して後押ししてくれた。
お父さん、お母さん、ありがとね。
季語を入れたりするちゃんとした手紙ってなんだかんだと難しいです。
ヘンテコじゃなければいいのですが(-_-;)
次回更新は1/10(水) 19:00の予定です。




