第64話 王都観光はおしまい
私はピンク髪の幼女ことアイリと友達になった。
アイリは部分的にだけど前世の記憶がある。
そして予想が正しければ前世は私と同じ日本人だ。
数奇な運命だと思う。
その後はなんだかんだと観光してたこととかおしゃべりして楽しいひと時を過ごした。
そんなこんなで4の鐘が鳴った。
結構話し込んだわりには時間的にちょうどよかったみたいだ。
「アイリ、私、そろそろ帰らなくちゃ」
「え? もう? まだ4の鐘よ?」
「実はね、私はこのお店まで一人で来られないからルビーお姉さんとライト君に案内してもらったんだ。あ、ルビーお姉さんとライト君は、私と一緒にいた二人ね。でね、約束の時間は4の鐘までなの。だから今日はこれでおしまいなんだ」
「せっかく友達になったんだからもっと話したかったんだけど……それなら仕方ないわね」
帰ろうかと思ったところで気づいたけど、この部屋にどうやって来たのか全く覚えてない。
覚えてるのは店内、というかお店の奥が見た目に反して広い印象くらいだ。
「えっと、あのね、アイリ、お店のさっきいた部屋まで連れていってくれないかな? 私、緊張しててこの部屋までどうやって来たのか覚えてないの」
「あはは、そういえば確かにフランはガチガチになってたわね」
アイリはいたずらっぽく笑う。
「むぁー、それは恥ずかしいから言わないで。だって、よく知らない貴族に呼ばれるって怖いんだよ? 仕方無いじゃん」
「まあそれもそうね。ちなみに前世のアタシは平民だったし、その感覚は分かるつもりよ。だからこれからも普段通りで話してくれた方が気楽で嬉しいわ」
「でもアイリは貴族でしょ? 今は二人きりだからいいけど、外に出たらまずいんじゃない?」
「問題ないわよ。貴族のアタシがいいって言ってるもの。それに誰かがフランの話し方を責めたら私が普段通りにしろと命令したってカバーするから安心してね」
「アイリ、ありがとねっ」
私はアイリの心遣いに嬉しくなって思わずハグをすると、アイリはわたわたと驚きの声をあげた。
「ちょっ! フラン!?」
「……嫌だった?」
「ううん、友達からこういうことされたのって初めてだからビックリしちゃってね」
そういえば私はいつの間にか家族以外でも抵抗感なしにハグできるようになってる。何だかんだとすっかりこの世界に馴染めたと思う。
「あーあ、もっとフランみたいな可愛いネコミミな子と話したかったわ。ねえ、また今度来てくれる?」
「うん。あ、でも、私のおこづかいじゃアクセサリー買えないかもしれないけど、それでもいい?」
「当然よ。友達なんだからそんなこと気にしなくていいわ。来てくれるだけでいいのよ」
「んふふ、ありがと、アイリ」
やっぱりアイリはいい人だ。
気づくと私は笑顔になっていた。
「うっ!」
アイリが突然胸を押さえて俯く。
「アイリ!? どうしたの!?」
「や、あなたが可愛いくてちょっと持病が」
「はあ?」
「……何でもないわ。気にしないでちょうだい」
「はあ」
今のアイリの目って受付嬢のサラさんそっくりな気がする。形とかそういうのじゃなくて、私を見る目つき的な意味で。
なんかアイリとサラさんが出会ったらヤバい気がする。
私はアイリと手を繋いでお店まで戻ってきた。
ルビーお姉さんとライト君が心配そうな顔をして待っていた。
「ただいま。待たせてごめんね」
「フラン、大丈夫だったか?」
「ちょ、ラ、ライト!?」
私の隣にアイリ本人がいても空気を読まずライト君は聞いてくる。ルビーお姉さんもびっくりだ。
「大丈夫だよ。アイリとお話ししてね、友達になったんだ」
安心させるためにもにこにこして答える。ホントのことだし。
「そうそう、あなたが心配することは一切ないわ。フランと話したのはアクセサリーのアイデアのためでもあるのよ。それにフランと友達になったんだし、その友達に変なことなんてするわけないわ」
「お、おう。ならいいのか?」
ライト君が単純でよかった。
「ルビーお姉さん、ライト君、約束の時間だから帰ろ?」
「フランちゃん、もういいの? もう少し見たいなら構わないわよ?」
「ううん、いいの。約束は守らないとね」
「そう、偉いわね」
ルビーお姉さんは私の頭を撫でてくれる。
大したことなくても、こういうのって案外嬉しい。
「じゃあね、アイリ。また今度来るね」
「ええ、また来てね」
こうして私たちは噂のアクセサリーショップ「月の明かり」を後にした。
なんだかんだとアイリもいい子です。
でも、フランはまだアイリに自分も転生者だとは話してません。
信頼関係が無いというわけではなく、単に話すタイミングが無かっただけですが、率先して話そうとは思ってないのもあります。
次回更新は1/6(土) 19:00の予定です。




