第62話 それってホント?
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします<(_ _)>
「えっとね、こんなこと言うと頭がおかしいんじゃないかって思うかもしれないけど、アタシには部分的にだけど、前世の記憶があるの」
え?
アイリーン様がとんでもない爆弾を投下してきた。
普通なら前世の記憶があるとか言ってる時点で、ふざけてたり、からかってたり、中二病だったりと笑い話にしかならないけど、私自身が体験してる以上、意味のある言葉で無視はできない。
かといって実は私も転生者、と伝えるのは現時点では危険だ。
今私が打ち明けるメリットが無いし、そもそも私は自分が転生者だということは墓の下まで持っていくつもりなくらいの心構えなのだ。
申し訳ないけど、アイリーン様に対してその心構えをひっくり返して打ち明けるだけの信頼関係はまだない。
だいたいアイリーン様がどんな前世か知らない。
前世はこの世界の人かもしれないし、別の世界かもしれない。
ここまでの話からアイリーン様はいい人だとは思うけど、前世の記憶があるということは、見た目以上に狡猾だったり駆け引きが上手な可能性もある。
平凡な私が対抗できるとは到底思えないけど、警戒するに越したことはないと思う。
それにしても前世の記憶があることが、これから話す内容とどう繋がっていくのかも全く分からない。
色々と聞いてみるのがいいのかな?
「んー、その話が本当かどうかは私には分かんないよ。それが本当だって分かる話ってあるの?」
「笑わないでくれてありがとう。そうね、例えばあなたの名前がフランシェスカって知ってることはどうかしら?」
「アイリーン様が「アイリって呼んで」……アイリが私のことを調べれば名前くらい分かるような気がするけど」
「それは、まあそうなんだけど……」
アイリーン様、もといアイリは何とかして私に信じてもらいたいのか、うんうん唸ってる。
「うーん、あとはあなたは5歳。今のアタシと同い年ね」
「そ、そうなんだ。ってそれも誰かに聞けば分かりそうな気もするけど」
「そ、そうね」
中世ヨーロッパっぽい時代に役所へ出生届を出すようなことは無いと思うけど、冒険者ギルドにいつもいるから知ってる人ならいくらでもいそうだし。
「ああもう、良い情報が思い出せない……。ええとね、この情報はね、前世にあった乙女ゲーの知識なのよ」
ん?
若干イントネーションが違ったけど、おとめげえ、なんて単語あったっけ?
「おとめげえ? なにそれ?」
「ああそっか、この世界にはそんな言葉は無かったものね。ええとつまり、なんて言えばいいのかな。つまり、乙女ゲーっていうのはね、女性向けの物語ってことなのよ」
女性向けの物語……
おとめげえ……
……乙女ゲー?
え?
まさか日本語?
日本語かどうか若干自信がないとか元日本人として恥ずかしいけど、日本語自体が年単位で久しぶり過ぎるし、今はもう共通語で書いたり話したり考えたりするし、共通語で話してる中で唐突に出てきたんだから仕方ないじゃない。
それにアイリの前世って日本人なの?
うーん、でもまだ分かんない。とりあえずもう少し確証のある情報が欲しいので様子を見よう。
「その、おとめげえって物語でなんで私のことが分かるの?」
「その物語に登場する人物だからよ。アタシも、そしてエリザベス様も」
「へー、すごいね。預言書みたい」
「あ、まだ信じてないわね」
いや、この世界が乙女ゲーとして描かれてるとか、前世の記憶がある私でも信じられないし。
まあ乙女ゲーは前世の親友がやってて、ことあるごとにそれを聞かされてたけど聞き流してたから、そもそも有名どころのタイトルすら知らないんだけどさ。
「いくら何でも今までの話だけじゃねえ。そのおとめげえって物語がホントなら、なんか私しか知らないようなことが書いてあったりするんじゃないの?」
「なるほど。思い出せるかもしれないからちょっと待ってね」
アイリは右手を左ひじに添えて考え始めた。
そんなアイリがぶつぶつつぶやいてる中、聞き逃せない情報が出てきた。
「……う~ん……確かフランシェスカは普通の獣人じゃなかったような……」
え?
嘘でしょ?
私ははっきり言って内心めっちゃ驚いた。
「え~っと、なんだったかしら? ケトルだっけ? あ、これは湯沸かし器、だったわよね。なんで覚えてる記憶が全部じゃなくて一部なのよ……。今は大事なところなんだから……。う~ん、なんだったかしら……」
げ!
違うけど近い言葉まで出てる!
この人はマジで転生者だ!
私とお母さんの種族がケットシーだってことは、お父さんとお母さんの話では本当にごく一部の人しか知らないトップシークレット情報。ケットシーは金運が上がるなんて変な迷信のせいで狙われるって話だ。
アイリがケットシーについて知らなくても、いつかアイリがポロっと口走った時にケットシーのことを知ってる人に聞かれたら大変だ。
こればかりは思い出されるわけにはいかない!
「ええと、あとは……確かフランって魔法が使えるのよね?」
「うん、そう! そんなことまで分かるんだ! アイリのこと信じるよ!」
「ああよかったわ」
私が魔法を使えるってことも周知の事実だけど、ちょうど良かったので受け入れることにした。
私の言葉にアイリはほっと一息ついて心底安心したような笑顔を見せた。
フランはアイリが転生者ということもあって非常に警戒してます。
次回更新は1/2(火) 19:00の予定です。




